流行中の梅毒の潜伏期間は?症状や予防法、治療まで詳しく解説
皆さんは「梅毒」という病気を聞いたことがあるでしょうか?性感染症の一つで、感染を放置すると心臓や血管・脳などに障害が残る可能性のある疾患です。そこで本記事では、検査を受けたり病院へ行ったりするタイミングを正しく判断できるよう梅毒について詳しく解説しています。
性的接触のある方であれば誰でも感染する可能性がありますので人ごとだとは思わずぜひ最後までご覧ください。
監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
目次 -INDEX-
梅毒について
まずは梅毒の特徴についてご紹介します。
梅毒とは
梅毒とは性感染症の一つで、梅毒トレポネーマという病原体によって引き起こされます。セックスなどの性的接触が原因となり、口や性器といった粘膜・皮膚から感染します。キスによって口から口に感染したり、口腔性交といわれるオーラルセックスや肛門性交といわれるアナルセックスなどでも感染したりする可能性があります。
特に、アナルセックスは直腸を傷付けやすいことから、梅毒の感染リスクが極めて高い行為といえます。また、妊婦が感染すると、胎盤を通じて胎児にも感染してしまい「先天梅毒」になってしまうことがあります。そうすると死産や早産になったり、生まれてくる子どもの神経や骨などに異常を来したりします。なお、生まれたときに症状がなくても、遅れて症状が出ることもあります。
その他の性病との違い
性器ヘルペスや尖圭コンジローマのようなウイルスによる性感染症とは異なり、梅毒は細菌によって生じます。また、痛みが少なく初期症状がなかなか現れない性感染症も存在しますが、梅毒は初期の段階では性器や口・喉などにしこりや痛みが現れます。症状が進行すると発熱や発疹が見られ、さらに放置すると腫瘤ができたり心血管・神経への合併症が見られたりと命に関わる疾患となっています。
梅毒の感染者数と流行状況
梅毒の感染者数は、1967年に「年間で約11000人が感染した」と報告されて以降、減少していました。しかし、2011年頃からは増加傾向にあるというデータが発表されています。国立感染症研究所のまとめによると、2023年には年間感染者数が13251人と過去最多を更新しています。年代別で見ると、女性は20代が、男性は20代~50代が特に多い傾向にあります。
都道府県別では、東京都が3244人、大阪府が1760人、福岡県が829人と大都市圏で多くなっているほか、長崎県が124人と2022年の同じ時期の2.82倍、鳥取県が26人で2.17倍と、大都市圏以外の地域でも急増しているところがあります。また、感染していることに気づかず医療機関を受診しないため報告されていないという人が水面下に多く存在している可能性があり、そうした人が感染を広げてしまって今後も増加が続くことが懸念されています。
梅毒の潜伏期間
次に、梅毒の潜伏期間はどれくらいか、どのような症状が見受けられるのか、潜伏期間中の感染リスクについて解説していきます。
潜伏期間の長さ
梅毒の潜伏期間は約3週間です。これは男女で変わりはありません。ただ個人差はもちろんあり、性的接触をしてから1週間程度で症状が出る方もいれば、90日程度で発症する人もいます。また、症状が出たり消えたりするため「どうせすぐ治るから」と放置してしまう方も少なくありません。
中には、初期症状が2~3週間で消え、3カ月経った頃に再び症状が出たときには中期まで進んでいたというケースもあります。梅毒は性器の周りだけでなく、全身にも症状が現れます。加えて、進行性の疾患のため、治療をしない限り症状はどんどん悪化していきます。
潜伏期間中の症状
梅毒の初期症状としては、肛門や性器・唇などの部位に「初期硬結」と呼ばれる硬いしこりのようなものが発生します。初期硬結が痛みやかゆみを伴うことは基本的にはありませんが、ほかの細菌との重複感染がある場合にはこれらの症状が発生することもあります。
なお、初期硬結は治療をしなくても時間の経過と共に消えてしまうことがあります。このような特徴から「完治した」と勘違いして検査を受けない人もいらっしゃいますが、もししこりが梅毒によるものであった場合、梅毒トレポネーマが血管内に入って症状を重症化させてしまうため、早期に治療を開始することが大切です。また、初期の時期を「第一期梅毒」と呼ぶのに対し、梅毒の感染から3カ月が経過した時期を「第二期梅毒」と呼びます。この時期には発熱や倦怠感、頭痛、喉の痛み、リンパ腺の腫れ、食欲不振、体重減少といった症状のほか、梅毒性バラ疹、丘疹性梅毒疹、梅毒性乾癬、膿疱性梅毒といった梅毒特有の症状が現れます。
中でも、リンパ腺の腫れは第二期梅毒に進行した人の2人に1人の確率で発症します。さらに、約1割の人は目に炎症が起きたり、骨や関節に強い痛みが生じたりするなどほかの臓器が冒されるというデータも出ています。第二期梅毒の症状も時間の経過と共に消えていきますが、完治したわけではないため治療が不可欠です。
梅毒に感染し、治療をせずに10年ほど経つと皮膚、筋肉、骨、肝臓などの臓器に硬いしこりやゴムのような腫瘍が発生します。また、神経障害や脳梗塞、心不全などの病変が生じ、最悪の場合は死に至ることもあります。ただ近年では早い段階から治療を開始する症例が多く、抗菌薬が有効であることからここまで進行することはほとんどありません。
潜伏期間中の感染リスク
一言で潜伏期間といっても、パートナーにうつる場合とうつらない場合があります。うつる場合の主な状態としては、潜伏期間の初期に粘膜や皮膚がただれて、そこに触れることで感染します。一方で、生涯潜伏状態にとどまる無症候梅毒や、感染後1年以上経過した後の潜伏期間では感染リスクは非常に低いとされています。
梅毒の予防方法
症状があるにも関わらず放置してしまうと死に至る危険性もある梅毒ですが、どのような対策をすれば感染を防げるのでしょうか。また、感染していることを早期に知る方法はあるのでしょうか。ここからは梅毒の予防方法についてご紹介します。
避妊具の使用
梅毒の感染を防ぐために第一に有効なのは、性行為の際にコンドームを正しく着用することです。ただ、感染リスクを低下させることはできるものの、100%防ぐことはできないため注意が必要です。
リスクのある行動を避ける
次に大切なのは、梅毒に感染するリスクのある行動を避けることです。たとえば、不特定多数との性行為は、感染リスクを高めるだけでなく、気づかぬうちにほかの人にうつしてしまう可能性もあるため行わないようにしましょう。また、感染力の強い早期梅毒患者との性行為(膣性交、肛門性交、オーラルセックスなど)を避けることも重要な対策となります。
パートナーと一緒に定期的に性病検査を行う
梅毒トレポネーマは粘膜だけでなく皮膚にも感染すると前述しました。そのため、コンドームを正しく着用していたり、不特定多数との性行為を避けたりしていても感染してしまう可能性があります。そこで大切なのが定期的に性病検査を受けることです。感染していることを早期に発見して治療ができれば、パートナーにうつしてしまったり重症化したりすることを防ぐことができるからです。
梅毒の検査方法
しこりや原因不明の発疹がある方は梅毒に感染している疑いがあるため早期に検査を受けることが重要です。有効な検査方法として「血液検査」「病変検査」「検査キット」の三つの種類がありますので、それぞれ解説していきます。
血液検査
血液を採取して行う検査には二つの方法があります。一つは、約5mlの血液を採取して梅毒菌(Treponema pallidum)に対する抗体の反応を調べるTP法です。感染してからある程度の時間が経過しなければ陰性となってしまう「ウインドウピリオド」の期間を超えてから検査をする必要があるため、感染機会から2カ月以上経過していれば検査が可能となります。検査結果は15~30分でわかります。
なおTP法は、一度でも梅毒に感染すると半永久的に陽性反応が出てしまうため、治療の進捗状況を確認するのには向いていません。もう一つの方法は約6mlの血液を採取するRPR法です。この方法にもウインドウピリオドがあるため感染機会から4週間以上経過している必要がありますが、陰性・陽性という結果だけでなく数値も併せて判明するのが特徴です。
病変から直接菌を検出する方法
初期硬結が見られる場合、そこから漿液を採集して、顕微鏡を用いて目視により梅毒菌(Treponema pallidum)の有無を確認する方法もあります。梅毒トレポネーマはもともと人体には住み着いていない菌なので、分泌液から検出された場合には梅毒にかかっていると考えられます。
自宅で受けられる梅毒検査キット
「誰にも知られずに検査したい」「病院で人と会いたくない」という方におすすめなのが、検査キットです。梅毒検査キットを活用することで、医療機関に行かなくても自宅での検査が可能になります。検査キットは誰でも簡単に使えます。まず、キットの中から採血器具を取り出し、指先を針で軽くつついて血液を出します。次に、ろ紙の先端で血液を採取し、検査申込書などと一緒に検査機関へ返送します。その後1~3日程度で結果が確認できます。
誰でも手軽に、匿名で検査ができることがメリットではありますが、検査キットを購入してから結果がわかるまで1週間ほどの時間を要するため、すぐに結果が知りたいという方は医療機関での検査を受けるようにしましょう。
梅毒の治療
最後に、一般的な治療方法をご紹介します。
抗生物質による治療
検査で陽性だった場合、ペニシリン系の抗生物質が処方されます。飲み薬として処方されることが一般的ですが、必要に応じて注射や点滴を行うことがあります。また、もし感染者がペニシリン系に対してアレルギーを持っている場合は、別の抗生物質を用いて治療を行うことも可能です。
治療期間とフォローアップ
抗生物質を服用する期間は2~12週間です。治療経過を確認するため、服用してから約1カ月後にRPR法による検査を行います。数値がどれくらい下がったかを医師が確認し、陰性の基準数値内であれば治療は終了となります。
治療における注意点
抗生物質を内服する場合、その期間は進行度合いなどを考慮したうえで医師が判断します。そのため、たとえ症状が良くなったとしても、自己判断で内服を中断しないようにしましょう。また、性行為など感染拡大につながる行動は、医師の許可が下りるまで控えることが大切です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?梅毒は近年急増していて、早期発見・早期治療が重要な疾患であることがご理解いただけたかと思います。性感染症の検査・治療は性病科のほか、皮膚科や泌尿器科、婦人科などでも受けられる場合があります。性器周りに気になる症状がある、いつもと様子が違うと感じた際は、積極的に診察を受けるようにしましょう。