白内障手術で失敗することはある?失明リスクも解説
白内障とは、眼の水晶体が濁ってしまう眼の疾患です。
水晶体は眼の中で光を屈折し、焦点を合わせる役割を果たしています。
白内障手術は濁った水晶体を取り除き、人工レンズで置き換える手術であり、視力の回復を目指す治療法です。
白内障手術は高い成功率を誇る一般的に安全な手術ですが、稀なケースでは手術の失敗や失明のリスクが存在する可能性があります。
失明のリスクについても、以下に詳しく解説していきましょう。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
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白内障手術で失敗することはある?
白内障の手術は、年間約100万件以上行われており、その安全性は非常に高いといえます。実際、手術を受けたほとんどの方が「あっという間に終わった」と感じ、痛みを訴える方はほとんどいません。
手術自体に関しては、失敗することはほぼありません。医師による慎重な事前検査と適切な手術によって、合併症のリスクを最小限に抑えます。
まれなケースで手術後に合併症が発生することもありますが、これは手術自体の失敗ではなく、個人の体質や特殊な状況によるものです。
手術の成功率は非常に高く、多くの方が手術を経て視力を回復しています。安心して手術を受けるためには、信頼できる経験豊富な眼科医との相談が重要です。
適切な検査と診断を受け、リスクや合併症について詳しく説明を受けることが大切でしょう。
白内障手術で失敗と感じる症状
白内障手術で失敗と感じる症状には、下記のような症状が挙げられます。
- まぶしさを感じる
- 黒いものが飛んで見える
- 青みがかって見える
- 左右で見え方が違う
- 近くが見えにくくなる
- 眼が乾きやすくなる
これらの症状が発生した場合、失敗と感じることがあります。
ただし、合併症や予期せぬ問題はまれであり、白内障手術は一般的に安全で成功率が高い手術です。症状や不安がある場合は、担当医に相談しましょう。
まぶしさを感じる
白内障の手術により視界が明るくなった一方で、光の刺激による眼の痛みを感じることがあります。
これは、手術によって白内障の濁りが取れたことで、眼の中に入る光をより直接感じやすくなったためです。
しかし、多くの場合、徐々に慣れてくることが一般的です。眼の光に対する感度が高まるのは手術後の一時的な現象であり、時間が経つにつれて症状は緩和されます。
黒いものが飛んで見える
飛蚊症の原因の一つは、眼の中にある硝子体というゼリー状の物質の濁りが考えられます。
飛蚊症は、視界に黒い異物や虫のようなものが飛んでいるように見える症状です。
眼の前を動くように移動し細かく揺れるため、まるで蚊が飛んでいるかのように感じられます。
異物の形や大きさは様々で、通常は気づかないこともありますが、白いものや空を見た時に意識することが多いです。
白内障手術によって濁った白内障が取り除かれることで、本来は自覚しづらかった硝子体の濁りが目立つようになることがあります。
手術後は急激な変化が起こるため、飛蚊症の症状が強く現れることもありますが、通常は2〜3ヶ月経つと症状が軽減していきます。
ただし、まれに白内障手術後に網膜剥離という病気が発生することがありますので、飛蚊症を感じた場合は念のため医療機関を受診しましょう。
青みがかって見える
手術後、物が少し青みを帯びて見える青視症になることがあります。
手術前は水晶体が加齢によって黄色味を帯びており、青色や他の短波長の光が眼に入りにくくなっていました。しかし、眼内レンズのおかげで手術後は青色の光が眼に入りやすくなります。
手術後、色の感覚がわずかに変化することがあります。両眼手術を受けるとあまり気にならない傾向がありますが、片眼の場合は気になるかもしれません。
しかし、時間が経つとほとんどの方は気にならなくなります。気になる場合は、薄い茶系のサングラスを使用すると良いでしょう。これによって眼の感度を調整し、快適な視界を得られます。
左右で見え方が違う
両眼の白内障手術を受けた後、左右で見え方に違いがある場合は残っている乱視が原因です。
白内障手術で多焦点レンズを採用した場合、遠方と近方の両方にピントが合うので乱視も改善できる可能性があります。
しかし、眼内レンズの度数が両眼に適合していない場合や残っている元々の乱視が強くて改善しきれない場合があるのです。
この場合、左右で見え方に違いが生じることがあります。これを防ぐためには眼内レンズの度数を各眼に合わせて選ぶことが大切です。
度数の選択ミスがあると、左右で見え方に差が生じます。差が大きい場合はレンズ交換手術が必要になることもありますが、まずは左右の見え方の比較をやめて、眼鏡を使用してみましょう。
もし違和感が続く場合は担当医に相談し、医師から適切なアドバイスや処置を受けることが必要です。
近くが見えにくくなる
手術後、遠くは見えるようになった一方で、近くの視力が手術前よりも低下する場合があります。
それは近視だった方が手術後に遠くを見ることを希望して、単焦点レンズを使用した場合に起こりやすい現象です。
手術前の説明を思い出し担当医と話し合うことをおすすめしますが、基本的には単焦点レンズを使用して遠くを見るためには、老眼鏡を使用する必要があると考えてください。
眼が乾きやすくなる
手術後、眼が乾くと感じることがあります。特に手術前から少し乾燥があった方は、手術後に一時的にドライアイの症状が悪化することがあります。
最近、広く知られるようになったドライアイは眼が乾く病気です。パソコン作業などの際にまばたきが著しく少なくなり、仕事中だけ眼が乾燥する方や、寝起き時に涙の分泌が少なくなり症状が現れる方もいます。
ドライアイは周囲の空気が乾燥していて、エアコン使用時・長時間のパソコン作業・テレビ鑑賞などでまばたきの回数が減る場合に起こります。
手術や手術後の点眼などの刺激が関与しているので、担当医と相談しドライアイの治療を行うことで、通常は2〜3ヶ月で症状が改善されるでしょう。
白内障手術中の合併症
白内障手術中の合併症の種類には下記のようなケースがございます。
- 後嚢破損
- 核落下
- 虹彩脱出
頻度は極めて低いですが重篤な後遺症を残す可能性のある合併症と、また人によって発生頻度が違い、場合によっては後遺症を残す可能性のある合併症について紹介します。
後嚢破損
白内障手術では、眼内レンズを水晶体嚢の中に埋め込むことが主な目的です。しかし、水晶体嚢の後方にある後嚢と呼ばれる部分が破損することがあり、この状態を後嚢破損といいます。
後嚢破損が生じると、水晶体の一部が眼の奥にある液体状の空間である硝子体に入り込み(水晶体核落下)、逆に硝子体が眼外に脱出することがあります(硝子体脱出)。
後嚢破損と硝子体脱出が起きた場合でも、適切な処置が施されれば眼内レンズの埋め込みが可能です。
ただし、後嚢破損は完全に防げないため、熟練した医師が手術を行っても発生する可能性があります。
また、患者さん自身が後嚢破損を引き起こしやすい眼の状態を持っている場合、眼内レンズの埋め込みができない場合もあるでしょう。
そのような場合は眼内レンズを強膜に固定し、別の手術で挿入する方法の選択が必要です。ただし通糸時に一時的な出血が起こる可能性や、2点固定による乱視のリスクが存在します。
核落下
白内障手術中に水晶体を覆っている袋である後嚢が破れてしまい、水晶体の核が眼の奥の硝子体内に落下することがあり、この状態を核落下といいます。
核落下が発生した場合は硝子体手術が必要となり、一部の医療機関では硝子体手術ができる設備が備わっていないため、患者さんは大学病院などへの緊急搬送が必要です。
核落下手術では硝子体手術用の機器を使用して、落下した水晶体の核片を特殊な液で浮かせ、超音波で砕いて吸引し眼内レンズを挿入します。
ただし水晶体嚢が使用できない場合は眼内レンズを縫着(ほうちゃく)して手術を完了し、2.4mmの小さな切開を行ってインジェクターを使用します。
虹彩脱出
虹彩脱出は、白内障手術の合併症の一つであり、人によって発生頻度は異なります。
虹彩脱出とは手術時に創口から虹彩(茶目の部分)が一時的に眼外に脱出してしまうことです。
ただし、これは通常見え方に影響を与えることはほとんどありません。
白内障手術後の合併症
手術の安全性は昔と比べて大幅に向上しましたが、合併症のリスクはゼロではありません。
中でも最も深刻な合併症は感染性術後眼内炎と呼ばれるものです。
この合併症は細菌が眼の中で増殖し、眼の組織を溶かす恐ろしい状態であり、全国平均で約2000件に1件発生するといわれています。
現在の医療のレベルでは完全に予防することはできません。その他の白内障手術の合併症についても説明します。
白内障手術後の合併症について、下記の症状について詳しく解説していきましょう。
- 細菌性眼内炎
- 後発白内障
- 眼圧上昇
- チン小帯断裂
細菌性眼内炎
白内障手術中または手術後に眼内に細菌が侵入して増殖し、まれに強い炎症が起こることがあり、この炎症を眼内炎と呼びます。
眼内炎は通常手術後の3日から1週間程度で発症することが多く、急激な視力の低下・目やに・充血・痛みなどが出る場合に注意が必要です。症状が現れたら早めに医師に相談しましょう。
後発白内障
手術後数ヶ月から数年経つと眼内レンズを収めている水晶体嚢が濁ってしまい、白内障と似た症状が現れることがあり、この状態を後発白内障と呼びます。
この症状は、手術後の約20%の方に起こる可能性があるでしょう。
後発白内障ではかすみや見えにくさが現れることがありますが、専用のレーザー治療によって濁りを取り除くことが可能で、手術直後の視力状態に戻ります。
この治療は入院が必要なく、通院で行うことができます。また、痛みもありません。
眼圧上昇
眼圧が高くなる理由は、眼球内の房水が正常に排出されないことです。
眼球は房水によって内部が満たされ、丸い形状を保っています。房水は眼に栄養を供給し、老廃物を含んで隅角と呼ばれる部位から排出されるのです。
しかし、線維柱帯や隅角の詰まりや狭窄が起こると房水の排出が妨げられ、眼球内の圧力が高まります。これによって視神経が圧迫され、機能が阻害されるのです。
チン小帯断裂
チン小帯は、水晶体を支える重要な組織です。この部分が弱い場合手術中にチン小帯が切れてしまい、水晶体が眼の奥の硝子体に落下することがあります。
白内障手術では水晶体内部を砕き吸引し、人工眼内レンズを挿入しますが、この人工眼内レンズを支えるために水晶体の袋は残されます。
しかし一部の患者さんはチン小帯が弱っているため、人工眼内レンズを十分に支えられず、手術の衝撃に耐えられないために断裂してしまうことがあります。
そのため、手術の難易度が大幅に上昇するのです。
白内障手術で失明することはある?
白内障による失明は一般的にはほぼありません。しかし、白内障を放置することでリスクが高まることは知っておく必要があります。
日本国内では、失明原因のうち約3%が白内障によるものです。しかしこの割合も症状を放置したケースがほとんどで、手術を受けることで視力を回復するでしょう。
一方世界的に見ると、白内障による失明のケースはまだ少なくありません。これは医療レベルの地域差が原因で、発展途上国などでは適切な治療が行える医療施設が限られているためです。
進行した白内障は手術が難しくなり、手術自体の合併症や回復に時間がかかる可能性もあります。手術後の合併症として眼内炎が起こることもあるので、早めの受診と適切な治療が重要です。
白内障手術はやり直しできる?
眼内レンズは基本的に劣化しません。白内障手術は主に60代以上の方が受けるものですが、40代や50代の方、時には10代の方にも手術が必要な場合があります。
若い年齢で手術を受ける場合は、手術後の眼との長い期間を過ごすことになるため、眼内レンズについての疑問は重要なポイントです。
答えは基本的に「いいえ」であり、心配する必要はありません。
以前あるメーカーのレンズで、レンズ内に小さな水滴が見られたり、薄く白い濁りが生じたりなどの現象が起きてわずかにコントラストが悪くなる可能性がありました。
しかしこの問題はほとんど自覚症状を引き起こさず、特に日本の医師はこの点を重視し、製法を改善しました。
他のレンズでも濁りが生じた場合には製法が変更され、現在これらの問題に関しては製法が改善されており、それ以降の報告はありません。
したがって眼内レンズの劣化はほとんどないと考えられますが、絶対的に劣化しないと断言はできません。
一般的に手術のやり直しの必要はなく、心配な場合のみ医師とご相談ください。
編集部まとめ
白内障は眼の病気であり、早期の治療が重要です。もしも視力の低下やものの見えにくさを感じているなら、迷わず眼科を受診しましょう。眼科医は経験豊富で専門知識を持っており、適切な診断と治療を提供します。
白内障手術は安全かつ効果的な方法で、失明のリスクは非常に低いです。放っておくと合併症のリスクが高まるため、病院に行って専門家の助けを受けるのが重要です。
自分の眼の健康を大切にするためにも、あなたの眼の問題を解決する手助けをしてもらいましょう。