受け身から積極的な防御へ。治療ではなく、守り育てる予防歯科治療を生活習慣に【岡山市中区 リーベデンタルクリニック】


口腔内の健康状態は全身疾患に関係する。しかし、歯科での定期健診は未だ定着率が低く、その大事さがあまり理解されていないようだ。むし歯や歯周病は、対策すれば予防できるもの。そのためには、リスク要因をきちんと把握し、自身の歯を守っていこうとする意識を向上させる必要がある。そんな予防歯科の重要性について、岡山市のリーベデンタルクリニック院長の福江善朗先生に話を伺った。
福江 善朗(ふくえ・よしろう)
リーベデンタルクリニック 院長
甲南大学大学院にて博士号(理学)を取得後、2006年4月からハーバード大学医学部にて研究者として基礎研究に従事。分子生物学を専門としていた。その後、岡山大学歯学部へ学士編入した後、医療法人しみず歯科グランデンタルクリニックでの勤務を経て、2017年11月に「LIEBE Dental Clinic」を開設。地域密着型のかかりつけ歯科医院として、小児から成人まで幅広い診療に対応しながら健康寿命の増進に努めている。
むし歯は風邪と同じ感染症。だから防御ができる
まず、むし歯のメカニズムについて教えてください
むし歯は細菌による感染症で、代表的な原因菌にはミュータンス菌があります。この細菌が、砂糖を取り込んでネバネバした物質(不溶性グルカン)をつくって歯の表面に付着し、プラーク=歯垢となります。

プラークが歯に穴を空ける原因ですか?
プラーク内の細菌は、砂糖(ショ糖)を取り込みながら代謝し、排泄物を出しています。細菌も生きているので、要するにウンチを排出します。このウンチが、乳酸という歯を溶かしてしまう物質というわけです。
乳酸はお口の中で常に発生していますか?
一般的な食生活では朝昼晩と3回食事をしますが、その間に歯は溶け続けているといっても過言ではありません。
食べ物や飲み物に含まれる砂糖を取り込んで乳酸が発生すると、お口の中は酸性状態に傾きます。pHで表す酸性度がありますが、これが5.5以下になると歯のエナメル質が溶け始める「脱灰」が始まるからです。脱灰は食事の度に起こる現象なのです。
エナメル質が溶け始めるとはどういうことですか?
エナメル質とは、歯の表面を覆っている硬組織で、さまざまな刺激から歯を守っています。また、エナメル質の表面は、厚さが0.1~約1マイクロメートルの「ペリクル」という薄い膜で覆われていて、ミュータンス菌は自身が作り出す不溶性グルカンを利用して、このペリクルを足場として歯面に強力に固着し増殖します。

エナメル質は再生しないのでしょうか?
唾液に含まれるカルシウムやリンの働きによって、溶けたエナメル質が元に戻ろうとする働き(再石灰化)は促されます。つまり、お口の中では常に、脱灰と再石灰化が繰り返されていて、3回の食事以外にも間食やジュースを飲んだりすると、当然脱灰している時間が増え、むし歯の罹患率が高くなるということです。
一生涯自分の歯で健康に生きるための投資が予防

予防治療の重要性について、感染症予防という観点がひとつありますね
最初に申し上げたように、むし歯は感染症です。インフルエンザを予防するために、手洗い・うがいに気をつけたりマスクを装着したりすることと同様、細菌から体を守るための行動や、免疫力を高めるといった、受け身ではない積極的なアプローチがカギになります。
お口を守ることが、体を守ることにつながるのですか?
お口は「消化器官」です。口から肛門まで、摂取した食物を分解・吸収し、老廃物として排出するまでの働きを担う器官の入口にあたります。お口をおろそかにすれば体全体に影響するし、お口を守ることは体全体を守ることと同じ意味だと私は考えています。
歯科医療は健康寿命の延伸にも大きな影響があると聞きます
そのとおりです。健康寿命を平均寿命にどれだけ近づけられるかは、これからの歯科医療に課せられた重要な役割の一つです。
ちなみに海外では、日本と比べて定期健診の受診率が非常に高いことが特徴です。特に北欧諸国では、子どもの頃から無料の歯科検診や教育による意識向上、充実した公的保険制度が整備されています。スウェーデンでは国民の9割は歯科を定期的に受診しているようです。
予防治療への意識を高めるには何が必要ですか?
たとえば乳幼児期から学童期においては、やはりご両親を含めた周りの大人たちがお口の健康にどれだけ高い関心を持っているかが影響します。ときどき子どもを治療に連れてきた親御さんが、治療中に泣いている子どもに「おやつばっかり食べるから」とか「歯を磨かないから」と言っているのを耳にしますが、これはとても悲しいことです。
幼少期や小児期にいかにデンタルIQを高められるかは、大人たちのサポートが欠かせません。
大人にもデンタルIQを高める努力が大切ですね
そうですね。大人でも歯医者を嫌う方は少なくありません。自身のお口に関心がない方、特に痛くないから歯科に行かなくても大丈夫と思っている方、最新の知見がアップデートできていない方など、歯科に対して腰が重い人たちは総じて、お口の健康と体の健康を切り離して考えられている方が多いように感じます。
予防治療に対して先生の理想はありますか?
むし歯の罹患率は年々下がっています。これは子どもを含めた若い世代の、お口に対する意識向上の現れだと思います。その人たちが生涯を通して自身の歯でいるために、あるいはできるだけよい状態を維持するためにも予防治療が果たす責任は非常に重くなってくるはずです。最も理想的なのは、治療ではなく予防だけが歯科医に課されることですね。
貴院の予防治療で行っていること、先生の想いなどを聞かせてください
まずは、患者さん一人ひとりのお口の状態を把握します。歯周検査をはじめ、口腔内写真撮影、レントゲン診査などを行い、個々にあった治療を提案することはもちろん、当院での治療や患者さんが行うセルフケアにより、どのように状態が変化しているかを確認し合うことで、医療コミュニケーションの質を高めています。
むし歯治療に用いられる材質が関係するのですね

はじめの一歩は検診から。プロのケアをセルフケアの土台に

セルフケアで大切なことは何でしょうか?
まず心がけるべきは、自身のお口の中をきちんと理解することです。どの位置の歯がむし歯になったのか、それはいつ、何が原因だったのかなどです。
背景を考えるときは、ライフステージに応じた生活スタイルの変化にも注意する必要があります。同時に、歯科医でレントゲンや歯周検査を行い、状態を把握することも欠かせません。
生活スタイルとは何ですか?
むし歯の発生リスクは、生活スタイルが大きく影響します。何を食べるか、どう食べるかはもちろん、歯磨きのやり方も日々の心がけひとつで変えられます。セルフケアの効果を上げるには、口腔環境の悪化を生活習慣病と捉えて、生活スタイルを見直すことが非常に重要になるのです。
食生活ではどんなことに気をつけるべきですか?
たとえば、12時の昼食から18時の夕食までの間、子どもにおやつをあげるとします。1時間に1個ずつアメを5回食べるよりも、おやつの時間に5個まとめて食べる方がむし歯になりにくいのです。先に説明した脱灰時間を短くできるからで、ショ糖などの摂取量よりも、間食の頻度でリスクを抑えることができます。
歯磨きの注意点としては、どんなことがありますか?
実はこれまで歯磨きのタイミングについて食前が良いのか、あるいは食後が良いのか、様々に議論がされてきました。中でも食事前に歯磨きを行い、食後は20~30分ほど経ってから歯を磨く、これを繰り返すことで予防効果が高められるという意見があります。この考え方には私は賛成です。つまり、食べる前に歯のプラークを落とすことで、食後に発生する乳酸の量を減らせるという考えです。また、食後の歯の脱灰は20~30分程度持続することが分かっているので、再石灰化の促進に有効なフッ素を塗るタイミングとして、再石灰化の作用が始まる食後30分を目安に歯を磨くのが有効ということです。もちろん生活スタイルによっては歯磨きのタイミングが食後30分以内になる方も少なくないですし、時間によっては食直後にする方も多くおられるでしょう。そういう場合においても少なくともフッ素配合の歯磨剤を使用することが大事になります。フッ素はむし歯予防には必須アイテムです。
やはりフッ素は歯を守るために必要なのですね
フッ素を塗ることで歯がコーティングされるというイメージを持たれている方が多いと思いますが、実際はエナメル質をつくるリン酸カルシウムという結晶構造が、フッ素を取り込むことでエナメル質が溶けにくいよう強化されています。
フッ素の効果は約3カ月~6カ月なので、検診での定期的な塗布がすすめられているというわけです。また、乳歯や生えたての永久歯はエナメル質が柔らかいので、特にフッ素によるケアが重要です。

ブラッシングにも注意点はありますか?
ブラッシング時に大切なのは圧力です。歯ぐきの際を優しくマッサージするようにブラッシング圧をかけるイメージで歯ぐきを引き締めましょう。強すぎると歯肉に負荷がかかり歯ぐきがさがりやすくなります。また、歯ぐきを下げてしまう要因の一つに歯石があります。歯石は歯ぐきの際に付きやすいのですが、一度歯石が付くと歯磨きで除去することはできず、歯ぐきへのマッサージ効果もなくなってしまい、放置していると知らない間に歯周炎をひきおこしてしまうリスクもあります。歯科を定期的に受診して歯石を除去してもらいましょう。
最後に、読者の方にメッセージをお願いします
日本はすでに超高齢社会に突入し、平均寿命は男性が81歳、女性は87歳。しかしながら健康寿命は、それよりも10年ほど短く直近のデータでは男性が72歳、女性が75歳です。健康寿命をどれだけ平均寿命に近づけるか、これはこれからの日本の課題です。口腔機能をできるだけ長期に渡って健全に維持することは、全身の健康を維持することにもつながりますし、いろんな疾患の予防やQOLの向上、認知症予防などにもつながってきます。そして恐らく誰もが願っていることだと思いますが、やはり最後の最後まで自分の歯で何でも美味しく食べたい、これにつきるのではないでしょうか。
まずは自身のお口の中を理解し、歯を失うリスクを減らすことに努め、同時に歯科のサポートをきちんと受けながら予防の意識を向上していってもらいたいと思います。
編集部まとめ
定期的に歯科検診を行う重要性は、近年多くの人が認識していることです。とはいえ、具体的に何を行えばよいのでしょうか。今回の取材を通じて、口腔環境を健康に維持するモチベーションの保ち方など、さらに理解を深めて自身の生活に取り入れていく大切さを改めて学びました。岡山市のリーベデンタルクリニックでは、予防治療に関する豊富な知識のもと、地域への啓もう活動を積極的に取り組んでいます。安心して相談できる歯科医院であると同時に、個々に応じた寄り添い方も工夫されているので、気になる方はぜひ問い合わせてみてください。

医院名
LIEBE DENTAL CLINIC
診療内容
所在地
岡山県岡山市中区関157-1
アクセス
宇野バス「兼基東」バス停留所より徒歩2分
JR山陽本線・JR赤穂線「東岡山」駅より車で6分



