一般的に虫歯治療の際の詰め物・被せ物には、いわゆる「銀歯」「
金歯」が用いられる。しかし、とくに
銀歯については保険が適用されるというメリットはあるものの、後に虫歯が再発するなどのリスクが高いともいわれる。そこで注目されているのがセラミック治療。ここではデンタルクリニックララ院長・佐久間尚志先生に、最新の
セレックシステムによる
セラミック治療の実際と、そのメリットについて伺った。
Doctor’s Profile
佐久間 尚志
デンタルクリニックララ 院長
1971年、神奈川県横浜市生まれ。1996年、鶴見大学歯学部を卒業。その2年後に同大学歯学部有床義歯学講座に入局し、併せて付属病院総合歯科2にて研鑽を積む。2000年、平沼歯科クリニック副院長、2007年に若林歯科クリニック院長の経験を経て、2012年、千葉県市原市に「デンタルクリニックララ」を設立。セレックシステムを2017年に導入する。辰巳台中学校の学校歯科医を務めるほか、市原警察署の嘱託医の経験も。日本歯科医師会会員。
はじめに、銀歯での治療をした際にどのような問題があるのか教えてください。
まず見た目の問題がありますね。銀歯には銀が45%ほど含まれています。そのため、時間が経過すると錆びてしまいます。銀の指輪やネックレスをお持ちの方はわかると思いますが、真っ黒になってしまう。錆びると表面がザラザラになって、元の歯からわずかに浮いた状態になります。そのわずかな隙間から虫歯の菌が浸透することで、虫歯が再発する可能性があります。
何年くらいで虫歯が再発するのでしょうか?
口腔内の状態などによりますが、早い人では2~3年で再発、よくもっても10年というところでしょうか。歯周病などが進んでくると、口腔内に口臭の原因となる揮発性硫黄化合物ができます。硫黄は腐食作用が強いので、とくに歯周病の方は銀歯が腐食するリスクが高まります。
虫歯が再発すると、再治療が必要になりますね。
銀歯をいったん外し、虫歯に侵されている部分を削って再治療することになりますから、歯への負担はさらに大きくなります。
金歯の場合はどうでしょうか。
銀歯に比べれば、虫歯の再発は少ないといえます。ただし、ほかのトラブルは起こり得ます。一般的に
金歯は合金でできており、金以外の金属が含まれていますから、人によってはそれが金属アレルギーを引き起こす原因になることがあります。もちろんこれは、銀歯でも同様です。そして
金歯にも、やはり
目立ってしまうというデメリットがあります。
体に合わない患者さんがいるということですね。
そもそも金属は生体(細胞)との親和性が低い素材です。つまり、細胞が密着しにくいのですね。このことから私は、治療にはできるだけ銀歯・
金歯を使いたくないと考えています。ちなみに純金は生体親和性が極めて高いのですが、詰め物に純金を使うケースはごくまれです。
一方、
セラミックは無機材料なので、アレルギーの問題はありません。また、錆びたり劣化したりすることがないので、長い間もたせることが可能です。生体親和性も非常に高い素材ですので、安心して使うことができると考えています。
それはどのような理由からですか?
レジンは有機材料ですので、年月が経つと劣化します。また、水分を取り込むため、プラーク(歯垢)が付着しやすいのも欠点です。そのため、純粋な
セラミックより、予後(治療後)が悪くなる可能性が高いのです。
小臼歯については
ハイブリッドセラミックの被せ物が保険適用とされているので、これで治療される患者さんも多いかと思いますが、レジンが入っていることによるデメリットは知っておいていただきたいですね。
保険がきかないのは患者さんにとって大きな負担ではないでしょうか?
歯科医院によって差がありますが、当院では、奥歯の被せ物で69,000円(税抜)、前歯の被せ物で98,000円(税抜)としています(2020年1月現在)。
保険適用の治療と比較すれば高いと感じて当然かもしれませんが、
セラミック治療のメリットを理解すれば治療費に納得していただけるのではないでしょうか。
早いと2~3年で虫歯が再発する銀歯を入れたがために、再治療をしたり、歯を失ってインプラントなどの高額な治療をしなければならなかったりというリスクが下がるわけですからね。
貴院で導入されている「セレック」システムとは、どのようなものですか?
「
セレック」とは、
コンピュータ制御で詰め物・被せ物を設計し、さらに製作まで行うシステムです。
一般的なセラミック治療と、具体的にどこが違うのでしょう。
一般的にいわれる
セラミック治療とは、銀歯・
金歯の代わりに
セラミックを使うもので、治療の流れも銀歯・
金歯と同様です。シリコンで型を取って歯科技工士に製作してもらい、出来上がるまで1週間~10日ほど待ち、それから患者さんの歯に取り付けるという流れになります。これに対して「
セレック」では、医院内に導入した機械を使用して、
その日のうちに詰め物・被せ物をつくることが可能です。
来院したその日のうちに治療が終わるということですか?
まず、患者さんに一度、診察に来ていただいて治療の日程を決めます。治療当日は、虫歯に侵されている部分を削ったのちに、3D(立体)光学カメラで口腔内をスキャン(光学印象)します。その画像をモニターで見ながら詰め物・被せ物の設計・調整を行ったら、「ミリングマシン」という機械がデータどおりに
セラミックのブロックを削り出します。後は出来上がった詰め物・被せ物を歯にセットすれば終了。特に問題がなければ、
治療は最短で1時間ほどで終了します。
前歯も「セレック」で治療できますか?
可能ですが、前歯の治療にはアゴの動きなども把握する必要があるので、奥歯よりもスキャンする範囲が広くなります。そのため治療費は若干、高く設定しています。付け加えると、
歯の前面に薄いセラミック素材を取り付けて見た目をよくする「ラミネートベニア」も、「セレック」で行うことが可能です。
「セレック」で使われるセラミックブロックには、どのような特徴がありますか?
「
セレック」で用いられる
セラミックは、天然の歯と特性がほとんど同じものです。そのため対向歯(噛んだときに当たる歯)を傷める心配はありません。
一般的な
セラミック治療でも同様の特性をもつ
セラミックを使用するのが普通ですが、
治療目的によっては「ジルコニア」というセラミックの一種を使うことがあります。ジルコニアは非常に硬い素材で、
インプラントやブリッジの土台としても使うことができるほどなのですが、硬すぎるがゆえに対向歯を傷めてしまうことがあることを理解しておく必要がありますね。
「セレック」は色を合わせるのが難しいと聞きましたが…。
歯科技工士に依頼したほうが、きちんと色を合わせられるという考え方もあるようですね。ただ、それは歯科技工士次第だと思います。
当院では、
色味がグラデーション状になったセラミックブロックを多数用意し、患者さんに確認していただいた上で選んでいますので、色が合わないというケースはほとんどありません。
治療が最短で一日で終わるということ以外にどんなメリットがありますか?
一般的な
セラミック治療では詰め物・被せ物ができるまでの間、患者さんには仮歯で過ごしていただくことになります。実はこれが問題で、仮歯の隙間からプラークが入り込んで象牙質が感染してしまうのです。しかも、感染に要する時間は36時間ほどといわれています。
その点、
最短一日で治療が終わる「セレック」は他の治療法と比較すると感染のリスクがとても低いです。私としては、ここが「
セレック」の一番のメリットだと考えています。
詰め物・被せ物の正確性などには差がありますか?
一般的な
セラミック治療では、歯科医師が型を取り、それをベースに歯科技工士が詰め物・被せ物を製作しますが、その工程で人的なミスが起こることがあります。また、輸送中に型が変形することもあり得ます。
しかし、
スキャンデータから補綴物を削り出す「セレック」では人的ミスが起きる可能性が低く、ぴったりはまる詰め物・被せ物をつくることができます。
ぴったりはまるということは、そんなに大事なことなのですか?
詰め物・被せ物が「
セレック」でつくられたものであっても、一般的な
セラミック治療と同様に歯と接着する必要はあります。接着にはレジンセメントなどを使用しますが、レジンは固まるときに縮みます。その縮む力が元の歯に加わると、まれにクラック(ひび)が入ることがあります。
詰め物・被せ物が正確につくられておらず、元の歯との隙間が広い状態だと、レジンセメントの量も多くなりますよね。すると、収縮による悪影響が大きくなってしまいます。ほとんど隙間なくぴったりはまる詰め物・被せ物であれば、接着に使うレジンセメントの量を最小限にでき、
結果的に元の歯を痛めるリスクも低下するというわけです。
長くもたせるために、やはりメンテナンスは必要ですか?
治療した歯はもちろんのこと、それ以外の歯についても歯周病になったり虫歯になったりするリスクがなくなるわけではありませんから、通常のメンテナンスは必要です。患者さんには「治療が終わったら、予防のスタートですよ」とお話ししています。
「セレック」を導入されている歯科医師であれば、どこでも同じ治療が受けられますか?
歯科医師の技術が問われるのは、主にスキャンする前の段階です。とくに形成、つまり虫歯に侵された部分をどう削るかが大切です。健康な部分を極力削らないということだけでなく、そこに取り付ける詰め物・被せ物が割れたり欠けたりしないように配慮する必要があります。単純にいうと、特定の場所に大きな力がかからないよう、できるだけなだらかな形状にするということですね。
最後に、この記事を読まれている方にメッセージをお願いします。
歯は、できるだけ削らないほうがいいに決まっています。たとえば虫歯を治療するにしても、初期の小さなものであればCR(
コンポジットレジン)で補修するだけで済みます。「
セレック」治療などが必要になる前に、できることはあるのです。
歯を削らずに済ませるために必要なのは予防です。
歯に不具合を感じていなくても、定期的に歯科医院でチェックを受けていただきたいですね。そして、虫歯治療が必要になってしまった方や、現在銀歯を入れている方には、「
セレック」が選択肢のひとつになります。
「セレック」は見た目がいいだけでなく、良好な予後が期待できる治療法です。早い段階でしっかり治し、そのあとは定期的なメンテナンスを含めた予防で、歯を大事にしていただきたいですね。
「保険適用の虫歯治療は、その場しのぎにしか思えないのです」ともおっしゃる佐久間院長。確かにお話を伺って、銀歯は虫歯再発のリスクが高いということがわかりました。現在、虫歯に悩んでいる方、そして銀歯を入れている方は、「セレック」治療を検討してみてはいかがでしょうか。見た目だけではない、「セレック」のメリットを理解すれば、治療費も決して高いものではありません。虫歯はできるだけ早い段階でしっかり治すのが賢い、ということですね!
医院情報
デンタルクリニックララ
所在地 |
〒290-0025
千葉県市原市加茂2-1-21
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アクセス |
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診療内容 |
セレック治療 歯科一般 歯周病治療 審美治療 小児歯科 |