【インプラント手術の種類】抜歯即時埋入法と通常の手術の違い
そこで今回は、インプラント手術に詳しい歯科医師【石川歯科医院 石川正浩先生】に、次のようなテーマでお話を伺いました。
石川 正浩
石川歯科医院 野幌院 院長
1993年に北海道大学歯学部卒業後、北大歯学部第一口腔外科に入局。その後5年ほど歯科医師として経験を積んだのち、1998年札幌市北区に石川歯科医院を開院。2003年10月からは、石川歯科医院 野幌院の院長に就任。虫歯などの歯科治療だけでなく、国際口腔インプラント専門医学会や日本顎咬合学会など様々な学会に参加し、インプラント治療などで歯の美しさも提供できる歯科医師として活動中。
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【インプラント手術の種類】抜歯即時埋入法と2回法の違い
抜歯後すぐにインプラントを入れる抜歯即時埋入法
抜歯即時埋入法には、次のような特徴があります。
抜歯後すぐにインプラントを埋め込める
虫歯や歯周病で抜歯を必要と判断された場合、通常では抜歯による炎症が治まってからインプラント手術を行います。抜歯即時埋入法は、炎症が治まる前にすぐインプラントを埋め込めるため、比較的早く歯の機能を補えることが特徴です。
1回の手術で済む
抜歯即時埋入法では、次のような工程を行います。
- 抜歯後に空いた骨の穴にインプラントを埋め込み、骨との隙間に骨補填剤を詰める
- 仮歯を入れて歯茎の形を整える
- 術後3~6ヶ月程度経つと、インプラントの周囲が骨で囲まれて歯茎も治癒するので、あとは人工の歯を被せて完了
このように抜歯即時埋入法は一般的に1回の手術で済むため、心身への負担を抑えられることでしょう。
感染リスクが比較的低い2回法
抜歯後、炎症が治まってから行うインプラント治療の2回法には、次のような特徴があります。
手術を2回に分けて行う
2回法では、次のように2回の手術が必要です。
- 顎の骨にインプラントを埋め込むための穴を開ける(1回目の手術)
- 穴にインプラントを埋め込み、歯茎で覆って縫合
- 下顎で2~3ヶ月、上顎で4~6ヶ月程度経ってから、歯茎を切開してインプラント上部を露出させる(2回目の手術)
- 人工の歯をつなげるためのアバットメントを取り付けて、仮歯を装着
- 人工の歯が完成したら、インプラントに装着して完了
このように、1回目の手術で歯茎を覆って縫合するため、2回目の手術で歯茎を切開する必要があります。歯茎を切開することで、手術中や手術後に痛む可能性があるのです。ただ、麻酔や感染症対策によって、痛みや術後感染のリスクが抑えられることや、痛みは我慢せず手術中は医師に相談し、手術後の痛みに関しては処方される痛み止めを服用することにより痛みはかなり軽減できるとされています。
またインプラントができるまでの間は仮歯を入れるという点に、割れてしまう心配はないかという声も少なくはありません。ただしこの点について、石川先生は次のようにおっしゃっているので、過度な心配は不要といえるのではないでしょうか。
費用面や身体の負担が大きい
2回法はその名の通り2回の手術が必要なため、それだけ金銭面や心身への負担が大きくなります。ただし、歯茎を閉じてしまうことで感染リスクを抑えられるため、2回法が抜歯即時埋入法に劣るとは言い切れません。
その他のインプラント治療方法
また今回お話を伺った石川歯科医院では、これらの以下のような術式にも取り組んでいるといいます。
骨造成術
上顎の骨の高さが不足しているためにインプラント体を埋入できない場合に、高さをだすために行う
サイナスリフト
上顎の骨の高さが不足している場合に、上顎洞という空洞につながる粘膜を剥がし、自分の骨や人工骨を移植する
象牙質移植
抜歯が必要な歯があり、インプラント埋入部位に十分な骨量がない場合に適用
このようにインプラント手術の方法は、歯科医院それぞれで取り入れているものが異なります。またそのうち、どれが適しているのか、患者の一存ではなく、体質や症例などから医師が判断して選ぶことになるのです。そのためまずは歯科医院を受診して、詳しい説明を受けることから始めてみてはいかがでしょうか。
【麻酔と鎮痛剤】インプラント手術中と手術後の痛み
眠っているような感覚でインプラント手術を受けられるため、不安や緊張を抑えられることでしょう。(※静脈内鎮静法の対応については、施術を担当される歯科医院までご確認ください。)
さらに静脈内鎮静法を受ける注意点として、石川先生から以下のようなご意見を伺いました。
手術前:8時間前から絶食、3時間前から絶飲になります。
術後:麻酔が切れて口の中の感覚が戻ってきたら、食事をとることが可能です。ただし、硬い物や刺激の強い物は控える必要があります。飲酒は、2~3日は控え、その後1~2週間も少量に留めてください。
このように、飲食や飲酒の制限を守ることが、術後のトラブルのリスク低下につながるでしょう。インプラント手術は、どうしても身体に負荷がかかるため、このような注意点を守って受けることが大切といえます。
インプラント手術後は痛む可能性が高い
インプラント手術後に麻酔が切れたら、痛みだす可能性が高いといえます。ただし、痛み方には個人差があるため、思っているほど痛くない場合も考えられるでしょう。また、しばらくしてから痛む場合もあるため、手術を受けた日に痛くならなければ、その後も痛みださないわけではありません。
その点について、石川先生は次のようにおっしゃっています。
また痛みや腫れを抑えるために、インプラント手術を受けた日は術部を冷やしてください。
なお痛み止め薬はインプラント手術後に処方されるため、自分で用意しておく必要はありません。また、術後は腫れる場合もありますが、2日目をピークに落ち着いていき、約1週間でほぼ元の状態に戻るとされています。
このような見解からもわかるように、インプラント手術後の痛みは特別に強いものではありません。ただし状態や体質によっては、抜糸のときにチクチクと痛む場合があります。その点が気になる方は、塗る麻酔「表面麻酔」を塗ってもらえるか医師に相談してみてもいいかもしれませんね。
【費用】インプラントへの保険適用は一部可
歯科医院によって料金差が大きいため、あまりにも相場からかけ離れている場合は、その根拠を十分に確認しましょう。また、抜歯即時埋入法は、通常の手術と比べて料金が高めに設定されている傾向があります。
このような点から、インプラント治療の料金は高ければ高いほど技術的に優秀なのかという疑問を感じる方も多いことでしょう。ただしこの疑問について石川先生は、次のように否定されています。
ただし、技術の習得やスタッフの教育などに資金が必要なことから、高めな料金に設定する場合もあります。そのほか、使用しているインプラントの値段や、歯科医院の立地の関係で料金が高い可能性もあるため、料金ではなく「歯科医院の質」を十分に確認しておくことが大切です。
つまり費用が安いからといって、歯科医院を選ぶのはやや説得力不足ということに。後悔しないためにも、「歯科医院の質」をいかに見極めることができるかということが、歯科医院選びの大事なコツということですね。
また、たとえ料金が安く質が良い歯科医院だと判断できたとしても、患者自身が抱える事情により費用が高くなるケースも考えられると、石川先生はおっしゃっています。
編集部まとめ
インプラント手術は症例に適した方法で行うことが大切
インプラント手術には、抜歯即時埋入法や抜歯の炎症が治まってから行う方法があり、これらは医師が患者の症状や体質などを踏まえて適切なものを選択します。
つまりインプラント手術は、症例に適した治療法の選択が重要となるのです。そのためにも、患者と医師が意思疎通できる信頼関係がとても大切に。手術方法の選択はもちろん、手術中の痛みや不安についても医師に遠慮なく相談しながら、医師の指示に従って安全で効果的なインプラント治療を目指していきましょう。