なぜ心臓病の人は「納豆」を止められるのか? 知っておきたいビタミンKの働き【医師解説】

納豆には「ビタミンK2」という栄養素が豊富に含まれており、骨の健康や血液の凝固に深く関わっています。この働きが健康な方にとっては有益でも、特定の治療を受けている方にとっては予期せぬ影響をもたらす可能性があります。本記事では、どのような方が納豆の摂取に注意すべきか、その背景にあるメカニズムをわかりやすく解説します。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
納豆とビタミンK:血液をかたまらせる成分が問題になるケース
納豆の栄養成分の中でも特に注目されるのが「ビタミンK2」です。このビタミンは、健康な身体を維持するために不可欠な役割を担っています。例えば、骨の健康においては、骨の形成を促すタンパク質「オステオカルシン」を活性化させ、カルシウムが骨に沈着するのを助けます。また、血液凝固においては、肝臓で血液を固めるために必要な複数の凝固因子(プロトロンビンなど)の生成に関与しています。しかし、この血液を正常に固めるという重要な働きが、特定の状況下にある方にとっては、逆に問題を引き起こす原因となることがあります。どのような方がビタミンKの摂取に注意すべきなのか、そのメカニズムを正しく理解することが、安全な食生活を送る上で非常に大切です。
ビタミンKとは何か
ビタミンKは、水に溶けにくく油に溶けやすい脂溶性ビタミンの一種で、血液凝固作用に深く関わることから「凝固ビタミン」とも呼ばれます。ビタミンKには主に2種類あり、ほうれん草やブロッコリーなどの緑黄色野菜に多く含まれる「ビタミンK1(フィロキノン)」と、納豆やチーズなどの発酵食品や腸内細菌によって作られる「ビタミンK2(メナキノン)」が存在します。特に納豆はビタミンK2を極めて豊富に含む食品として知られており、その中でも体内での半減期が長い「メナキノン-7(MK-7)」が主成分です。市販の納豆1パック(約40〜50g)には、数百マイクログラム(μg)という非常に多くのビタミンK2が含まれており、これは成人の1日の摂取目安量を大幅に上回る量です。
健康な方にとって、ビタミンKは骨を丈夫にし、血管の石灰化を防ぐなど、生命維持に欠かせない重要な栄養素です。しかし、心臓の病気などで血液を意図的に固まりにくくする薬(抗凝固薬)を服用している方にとっては、ビタミンKのこの働きが薬の効果を妨げてしまいます。特に古くから使用されている「ワルファリン」という薬は、ビタミンKの作用を阻害することで効果を発揮するため、ビタミンKを多く含む納豆を摂取すると薬の効果が著しく弱まる可能性があります。そのため、ワルファリンを服用している方は、原則として納豆の摂取を厳しく制限するよう指導されます。
ビタミンK摂取が身体に影響を及ぼす可能性がある方の特徴
ビタミンKの摂取が特に問題となりやすいのは、心臓弁膜症(特に機械弁置換後)、心房細動、深部静脈血栓症、肺塞栓症といった疾患の治療や再発予防のために、ワルファリンによる抗凝固療法を受けている方です。これらの疾患では、心臓や血管内に血の塊(血栓)ができやすく、その血栓が脳や肺の血管に詰まることで脳梗塞や肺塞栓症といった命に関わる病気を引き起こすリスクがあります。ワルファリンは、血栓ができるのを防ぐために血液を固まりにくくコントロールする薬であり、ビタミンKを多く含む食品を摂取すると、このコントロールが乱れ、血栓塞栓症のリスクが再び高まってしまうのです。
また、非常に稀なケースですが、新生児や肝臓の病気、長期の抗生物質投与などによってビタミンK欠乏症となり、その治療としてビタミンKの補充療法を受けている方も注意が必要です。この場合、治療計画に基づいてビタミンKの投与量や食事が管理されているため、自己判断で納豆などのビタミンKが豊富な食品を大量に摂取すると、過剰摂取につながる恐れがあります。ご自身の身体の凝固機能の状態や治療内容に応じて、必ず主治医や薬剤師、管理栄養士から食事指導を受けることが極めて重要です。
まとめ
納豆は非常に栄養価の高い優れた食品ですが、すべての人にとって手放しで推奨できるわけではありません。
「食べてはいけない」のか、「注意すれば食べられる」のかは、個々の健康状態、病状、服用している薬の種類によって大きく異なります。ご自身の健康に関して少しでも不安や疑問がある方は、自己判断せず、まずはお薬手帳を持参の上、かかりつけの内科医、腎臓内科、薬剤師などの専門家に相談することをおすすめします。


