「急性大動脈解離」の予防法はご存じですか? 治療法や類似する疾患も医師が解説
「急性大動脈解離」の予防法はご存じですか? 治療法や防ぐためにどのようなことに気をつければいいのかについて「のがたクリニック」の和久井先生に解説していただきました。
監修医師:
和久井 真司(のがたクリニック)
編集部
急性大動脈解離を予防するためには、どのようなことに気をつければいいでしょうか?
和久井先生
高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などが発症と深い関わりを持っているため、これらの危険因子を避けることが重要です。特に高血圧は重大なリスクとなるので、普段から血圧のコントロールを心がけましょう。
編集部
ほかに気をつけることはありますか?
和久井先生
特に気をつけてほしいのは「睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)」との関係です。睡眠時無呼吸症候群とは睡眠中、頻繁に呼吸が止まったり、浅くなったりして体が低酸素状態になる疾患です。睡眠時無呼吸症候群を発症している人は普段から高血圧になりやすいため、急性大動脈解離の発症リスクが高まることがわかっています。
編集部
なぜ、睡眠時無呼吸症候群になると急性大動脈解離を発症することが多いのですか?
和久井先生
「睡眠中、無呼吸になる」のは、いわば寝ているときにずっと首が絞められているような状態です。本来、寝ているときは副交感神経が優位になって心臓や血管はリラックスしていないといけないのに、睡眠時無呼吸症候群の場合は交感神経が過剰になるため心臓や血管に大きな負担がかかり、血圧も上昇します。それが毎晩繰り返されて、ストレスが蓄積されているのです。また、睡眠が浅いことで日中のストレスも大きくなり、その結果、急性大動脈解離を発症しやすくなります。
編集部
ストレスが大敵なのですね。
和久井先生
そのとおりです。ストレスの多い生活は血圧の変動を招きやすく、急性大動脈解離のリスクとなります。適度にストレス発散を心がけるとともに、十分な休養、適度な運動習慣、良質な睡眠を取るようにしてほしいですね。
編集部
急性大動脈解離と診断された場合にはどのような治療をおこなうのですか?
和久井先生
解離している部位や病状によって大きく変わります。裂け目が心臓に近い上行大動脈に及んでいる場合(スタンフォードA型)には、ただちに緊急手術をしないと24時間以内に93%の人が亡くなります。裂け始めがある部分の血管を人工血管に置換するなどの手術が適応になります。A型以外では緊急入院とはなりますが、手術をしないで血圧コントロールやリハビリが中心の治療となることが多い傾向にあります。
編集部
前兆がないと、予防するのも困難ですね。
和久井先生
大動脈解離に似た疾患として、「大動脈瘤」があります。大動脈の血管壁の一部がコブ状に膨れ上がった状態のことで、大動脈瘤があるということは血管の壁が薄くなっているということです。大動脈が破けてしまえば大動脈破裂、裂けた場合は、急性大動脈解離を発症します。大動脈瘤の中には、破裂や解離となる前に、症状が出る場合もあります。
編集部
大動脈瘤の症状はどんなものがあるのですか?
和久井先生
一般的に大動脈瘤の症状はないと言っていいですが、例外として、頭や上肢に向かう血管が分岐する大動脈弓部から下行大動脈に移行する遠位弓部大動脈付近で大動脈瘤が生じた場合には、嗄声(させい:声がしわがれる)、嚥下しづらくなるなど反回神経麻痺の症状がみられる場合があります。このような症状がみられたら、大動脈瘤があるかもしれません。
編集部
あらためて、どのように急性大動脈解離と向き合えばいいですか?
和久井先生
レントゲン検査、CT検査、超音波検査などでたまたま発見するケースを除いて、大動脈瘤を早期に発見することは非常に困難です。大動脈解離は、「ストレスが強い」「血圧が高い」「運動不足」「睡眠不足」などの要因で発症するリスクが高いため、定期的に血管の状態をチェックする必要があります。また、一部には遺伝的に急性大動脈瘤を起こしやすい体質もあります。親が急性大動脈解離を起こしたことがあるという人は、若いうちから定期的に専門医を受診し、超音波やCT検査などを受けましょう。
※この記事はMedical DOCにて【「急性大動脈解離」の前兆を医師が解説 初期症状なしで突然発症することも? 原因と治療法も紹介】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。