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疥癬(かいせん)の症状や原因、治療法とは?

 更新日:2023/03/27

疥癬とはどんな病気なのでしょうか?その原因や、主にみられる症状、一般的な治療方法などについて、医療機関や学会が発信している情報と、専門家であるドクターのコメントをまじえつつ、Medical DOC編集部よりお届けします。

村上 友太 医師

監修医師
村上 友太 医師(東京予防クリニック)

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医師、医学博士。福島県立医科大学医学部卒業。福島県立医科大学脳神経外科学講座助教として基礎・臨床研究、教育、臨床業務に従事した経験がある。現在、東京予防クリニック院長として内科疾患や脳神経疾患、予防医療を中心に診療している。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、神経内視鏡技術認定医。日本認知症学会、抗加齢医学会、日本内科学会などの各会員。

疥癬(かいせん)とは

疥癬とは、ヒゼンダニ(疥癬虫)による感染症のことです。性行為、集団生活などによってヒトからヒトへの感染が生じ、撲滅することは困難です。感染拡大防止のため早期診断と治療介入を要しますが、軽症例では湿疹・皮膚炎群の疾患との鑑別が難しいことが多く診断するに悩ましい例も多くあります。

疥癬はどんな症状が現れるの?

疥癬で認められる皮疹は大きく3つに大別されます。

【1】疥癬トンネル

疥癬トンネルとは、疥癬に特異的な唯一の皮疹です。皮膚表面からわずかに盛り上がっており、蛇行し白っぽく見える線状皮疹のことをいいます。これは、メス成虫が産卵しながら角層を掘り進んだ痕であり、多くは手関節、手のひら、指間、指側面などに見られます。足の裏、足の甲、乳頭部(女性)、外陰部(特に男性)、お尻、脇の下などにみられることもあります。ダーモスコープという拡大鏡で観察すると、先端に虫体が観察できることもありま。

【2】掻痒の強い紅斑性丘疹

臍部や腹部、胸部、脇の下、太もも内側、上腕などに紅斑性丘疹(赤みのあるポツポツした発疹)が散在します。疥癬以外の疾患でもこのような赤い皮疹はみられますが、皮疹の状況に比べてかゆみが非常に強いことが特徴的で、眠れなくなる人もいます。この発疹から虫卵や虫体が検出されることは珍しいといわれています。

【3】男性の外陰部に見られる結節

男性の外陰部に見られる結節の頻度は7~30%と低いのですが、かゆみが非常に強いことが特徴です。新生後間もない結節上には疥癬トンネルが認められる場合があり、その際にはトンネルから虫体の検出が可能です。

村上 友太 医師村上先生の解説

疥癬の皮疹は、非常に強いかゆみが特徴的であり、痛みを伴うことはほとんどありません。

疥癬の原因は?

ヒゼンダニが角層内に感染して発症します。性行為、集団生活などによる肌と肌の直接接触や、衣類や寝具を介した間接接触によってヒトからヒトへの感染が生じます。特に、家族内発生や老人ホーム、病院での感染例が多く見られます。

村上 友太 医師村上先生の解説

高齢者や免疫不全者、不潔生活者では疥癬を発症しやすく、角化型疥癬(ノルウェー疥癬)と呼ばれる重症の疥癬となることがあります。

疥癬の検査方法・診断方法は?

疥癬を疑われた場合には、KOH(苛性カリ)直接鏡検法で虫体や虫卵を確認することで、確定診断となります。
検査にかかる時間は5分程度です。

村上 友太 医師村上先生の解説

1カ所のみの検査では陰性となることが多く、複数箇所から検体を採取する必要があります。また、1回の検査で陰性でも否定することは難しく、診察の度に鏡検を繰り返して診断に至ることもあります。

疥癬の治療方法・治療薬

薬物治療として、ストロメクトール®(イベルメクチン)という内服薬が最も効果が高いとされています。外用としては、スミスリン®ローション(フェノトリン)や、イオウが保険適用とされています。その他ではオイラックス®クリーム(クロタミトン)や安息香酸ベンジルなどが使用されることもあります。
ストロメクトール®は空腹時に1回服用しますが、治療時に虫卵であったものには効果がありません。そのため、1週間後の受診で顕微鏡検査かダーモスコピー検査でヒゼンダニが検出される、もしくは疥癬に特徴的な皮疹の新生が認められる場合には再度ストロメクトール®を投与することで、孵化した虫体を駆虫することができ、治癒の確率が高まります。
スミスリン®ローションも1週間間隔で少なくとも2回外用するとが推奨されています。
基本的に、ストロメクトール®やスミスリン®ローションで治癒するケースが多いですが、免疫抑制状態の患者や高齢者においては、2回の治療後も治癒しないことがあり、皮疹の新生を注意深く観察することが重要です。

村上 友太 医師村上先生の解説

ストロメクトール®の副作用としては肝機能障害、黄疸、血小板減少、重症薬疹などの報告があります。フェノトリン®ローションの副作用としては皮膚炎や、肝酵素上昇などが報告されています。使用中に体調不良や皮疹の出現に気がついたらすぐに主治医に相談しましょう。

疥癬の予防方法

通常疥癬の場合では、入浴の時に手足の指の間や外陰部も丁寧に洗うこと、タオルなど肌に直接触れるものは自分専用のものを使うことなどが大事です。
角化型疥癬の場合では、できるだけ個室を使って、寝具の交換をまめに行うこと、入浴の順番は最後にして、垢が飛び散らないように気をつけることが大事です。

村上 友太 医師村上先生の解説

どちらの場合も、家庭や医療機関において強いかゆみを訴える高齢者や免疫抑制状態の患者を見つけたら皮膚科を受診させること、なども重要です。

もしかして疥癬?初期症状・気になる症状を解説

ここでは疥癬の初期症状や、疥癬の疑いのある症状、病院へ行くべき目安や対処法などをなどを解説します。
疥癬トンネルという特異的な皮疹の存在や、非常にかゆみの強い紅斑性丘疹、男性の外陰部に見られる結節などの非特異的な皮疹などから、疥癬を疑います。

村上 友太 医師村上先生の解説

安易に市販薬や自宅にある薬を塗ることで皮疹が悪化する可能性もあるため、自己判断での外用などはせずに、早めに皮膚科を受診するようにして下さい。

疥癬を放置するとどうなる?自然治癒の可能性はある?

1940年代のボランティアによる研究では、無治療で約6ヶ月後に自然治癒したという報告があります。ただ、実際に臨床の現場では自然治癒するまで待つことにより施設内で感染が拡大するリスクが高まることもあり、自然治癒を待つことは現実的ではありません。特に、高齢者や基礎疾患により免疫抑制状態になっている人では治療に対する反応性も悪いため、そもそも自然治癒することは難しいと考えられます。

村上 友太 医師村上先生の解説

高齢者や免疫抑制状態の患者に、強いかゆみを伴う皮疹が生じた場合は皮膚科の受診を促してください。

疥癬はうつる?感染したときに気を付けること

性行為、集団生活などによる肌と肌の直接接触や、衣類や寝具を介した間接接触によってヒトからヒトへのヒゼンダニの感染が生じます。
なお、犬や猫、タヌキもヒゼンダニによって疥癬を発症します。動物から人への感染はあり得ますが、基本的には、動物に寄生しているヒゼンダニが人に寄生しても繁殖はできないため、一時的なかゆみ症状でおさまると言われています。

村上 友太 医師村上先生の解説

ステロイド外用薬を安易に塗布することで症状が悪化してしまうことがあるため、自己判断で市販薬や過去の処方薬を塗布することは避けて下さい。また、寝具類の共用や雑魚寝環境は避けて下さい。
消毒薬が有効であるという報告はありません。外用薬はスミスリン®ローション、イオウ、オイラックス®クリーム、安息香酸ベンジルなどの有効性が報告されており、使用されています。

通常疥癬と角化型疥癬の違い

村上 友太 医師村上先生の解説

通常疥癬の場合、健康成人ではメス成虫が患者の半数例で5匹以下とされます。そのため同じ寝具を使用する、長時間手をつなぐ、といった濃密な接触の場合に限り感染します。
一方、角化型疥癬では100~200万匹と桁違いに虫体が多いため、直接的な接触以外にも、剥がれた角質が飛散・付着することにより感染が成立することがあります。また、リネンなどの間接的接触を介して感染が拡大し、集団感染が生じることもあります。このように感染力が非常に強いことが角化型疥癬の特徴です。
このように、角化型疥癬では同室者や看護・介護者などにも容易に感染しうるため、1~2週間は個室隔離とし、ケアにおいても通常疥癬とは異なる特別な対応が必要です。

通常疥癬では、多くの場合、ストロメクトール®の内服、もしくスミスリン®ローションなど外用剤のいずれか単独で治療を行います。
一方、角化型疥癬では分厚くなった角質を除去した上で、ストロメクトール®とスミスリン®ローションの併用を行うことが推奨されています。
角化型疥癬では、皮疹は灰色から黄白色で厚く、蛎殻状の角質増殖が手・足、お尻、ひじ、膝などの摩擦を受けやすい部位に認められます。爪にも同様の角質増殖を認めることがあります。また、通常疥癬では侵されないとされている頭部、頸部、耳付近を含む全身に皮疹が認められる点で通常疥癬と区別されます。最終的には、顕微鏡検査で検体中に、虫卵から正中にいたるまでの全ての段階のヒゼンダニが無数に存在することで、確定診断されます。
どちらの場合も皮膚科を受診して下さい。

まとめ

疥癬の皮疹は、非特異的でないことが多いため早期発見することが難しく、気付かないうちに家庭内や医療機関内で感染が拡大する危険性があります。高齢者や免疫抑制状態の患者に非常に強い痒みを伴う皮疹を認めた場合は、疥癬の可能性も念頭において対応し、速やかに皮膚科を受診させてください。


関連する病気


関連する症状

  • 疥癬トンネル
  • 融合傾向のない紅斑性丘疹
  • 男性の外陰部の結節
  • 蛎殻状の角質増殖(角化性疥癬の場合)