歯列矯正で口元が下がることはある?原因やデメリット、対処方法も解説

歯列矯正を検討している方のなかには、治療後の口元の変化に不安を感じる方も少なくありません。
実際に歯列矯正によって、口元が過度に下がってしまうケースもあります。本記事では、口元が下がる原因やデメリット、さらに予防方法や対処法を詳しく解説します。
正しい知識を身に付けて、理想的な治療結果を目指しましょう。

監修歯科医師:
小田 義仁(歯科医師)
院長 小田 義仁
岡山大学歯学部 卒業
広島大学歯学部歯科矯正学教室
歯科医院勤務をへて平成10年3月小田歯科・矯正歯科を開院
所属協会・資格
日本矯正歯科学会 認定医
日本顎関節学会
日本口蓋裂学会
安佐歯科医師会 学校保健部所属
広島大学歯学部歯科矯正学教室同門会 会員
岡山大学歯学部同窓会広島支部 副支部長
岡山大学全学同窓会(Alumni)広島支部幹事
アカシア歯科医会学術理事
目次 -INDEX-
歯列矯正で口元が下がることはある?

歯列矯正は歯並びを整える治療ですが、同時に顔の印象も大きく変化させます。特に口元の変化は顕著で、治療によって口元が下がるケースも実際に起こり得ます。
この現象は医学的にオーバーコレクションと呼ばれ、過度な歯列矯正により生じる問題の一つです。
歯列矯正では、歯を動かすだけでなく、顎の位置や唇の位置も変化します。出っ歯の治療では前歯を後方に移動させるため、唇も後退するのが特徴です。
この後退が適切な範囲を超えると、口元が下がりすぎた印象を与えてしまいます。
日本矯正歯科学会によると、歯列矯正治療を受ける患者さんの約15%が治療結果に何らかの不満を持っています。そのなかでも口元の変化に関する不満は上位を占めており、慎重な治療計画が欠かせません。
口元が下がる現象は、すべての歯列矯正治療で起こるわけではありません。適切な診断と治療計画により、理想的な口元のバランスを実現できます。
重要なのは、治療前に十分なカウンセリングを受け、予想される変化に理解を深めておくことです。
歯列矯正で口元が下がる原因

歯列矯正で口元が下がってしまう原因はいくつか存在します。これらの原因を理解しておくことで、治療前の相談で歯科医師と適切なコミュニケーションが取れます。
また、自分の症例に当てはまるリスクがあるかどうかも判断しやすくなるでしょう。
抜歯をした
抜歯を伴う歯列矯正治療は、口元が下がる一般的な原因です。
歯を抜くことで生まれたスペースに残りの歯を移動させるため、前歯が後方に下がります。特に小臼歯を4本抜歯する場合、前歯の後退量が大きくなりやすく、結果として口元全体が引っ込んだ印象になるのが特徴です。
抜歯矯正では平均して前歯が4〜6mm後退し、唇も3〜4mm後退します。この変化が顔全体のバランスを崩し、口元が下がりすぎたと感じる原因です。
ただし、適切な治療計画があれば、抜歯をしても理想的な口元を実現できます。
歯列矯正で顔全体のバランスが考慮されなかった

歯並びだけに注目して治療を進めると、顔全体のバランスが崩れる可能性があります。
理想的な横顔のラインは、Eライン(鼻先と顎先を結んだライン)で評価されますが、このバランスを考慮せずに歯を動かすと不自然な仕上がりになるのが特徴です。
日本人の場合、矯正歯科では上唇がEラインに届くか届かないか、下唇がラインを少し超えるあたりがバランスがいいといわれています。
しかし、歯の位置だけを重視した治療では、このバランスが大きく崩れてしまいます。顔の骨格や軟組織の厚さも個人差があるため、画一的な治療では満足のいく結果が得られません。
歯列矯正で歯の角度が変わった
前歯の角度変化も口元の印象に大きく影響します。歯列矯正治療では歯を移動させることに加え、歯の傾きも調整するのが特徴です。
前歯が過度に内側に傾斜すると、唇のサポートが失われて口元が下がって見えます。正常な前歯の角度は上顎で約110度、下顎で約95度とされていますが、この角度が大きく変わると顔貌も変化します。
特にワイヤー矯正では、歯の角度を細かくコントロールすることが難しい場合があるため注意が必要です。また、マウスピース型矯正でも、計画通りに歯が動かないケースでは角度の問題が生じやすくなります。
年齢を考慮した歯列矯正をしなかった
年齢によって口元の組織の反応は異なり、これを考慮しない治療は問題を引き起こします。
若い世代では皮膚や筋肉の弾力性が高く、歯の移動に伴う変化に適応しやすいですが、40代以降では組織の弾力が低下しているのが特徴です。
加齢により口輪筋の筋力も低下するため、同じ量の歯の移動でも口元の変化が大きく現れやすいです。
また、年齢とともに顔の脂肪が減少し、歯の後退による影響がより顕著に表れます。50代以降の歯列矯正治療では、若い世代の半分程度の移動量でも口元が下がりすぎる可能性があるため、慎重な治療計画が必要です。
歯列矯正で口元が下がりやすい方の特徴

歯列矯正で口元が下がりやすい方には、いくつかの共通した特徴があります。
まず、もともと出っ歯の程度が軽い方は注意が必要です。軽度の出っ歯を大きく後退させると、口元が不自然に引っ込みすぎてしまいます。
次に、顔の骨格が華奢な方も口元が下がりやすい傾向にあります。顎骨が小さい方や、頬骨が目立ちにくい方は、歯の移動による影響を受けやすくなるのが特徴です。
特に日本人女性によく見られる細面タイプの方は、わずかな歯の移動でも顔貌の変化が目立ちます。
また、唇が薄い方も要注意です。唇の厚みが少ないと、歯の後退による影響をダイレクトに受けます。厚い唇の方と比べて、同じ量の歯の移動でも口元の変化が大きく現れるのが特徴です。
さらに、口輪筋の筋力が弱い方も口元が下がりやすくなります。普段から口呼吸をしている方や、表情筋を日常的に使う習慣が少ない方は、歯列矯正治療後に口元の支えが弱くなりがちです。
そして、皮膚の弾力性が低下している方も注意が欠かせません。加齢やストレス、紫外線の影響で皮膚の弾力が失われていると、歯の移動に伴う変化に適応しにくくなります。
歯列矯正で口元が下がりすぎることで生じるデメリット

歯列矯正で口元が下がりすぎると、見た目だけでなく機能面でもさまざまな問題が生じます。これらのデメリットを事前に理解し、治療計画の段階で適切な判断ができるようにしましょう。
また、歯科医師との相談時には、これらのリスクについて具体的に確認しておくことが大切です。
表情が乏しくなる可能性がある
口元が下がりすぎると、表情筋の動きが制限されて表情が乏しくなります。
特に笑顔を作るときに必要な口角挙筋や大頬骨筋の働きが弱まり、自然な笑顔が作りにくくなる場合があります。
口元が引っ込みすぎると、笑っても口角があがりにくく、無表情に見られがちです。また、唇の動きも制限されるため、会話時の表情も硬くなります。
コミュニケーションで表情は重要な要素であり、この変化は対人関係にも影響を与える可能性があります。実際に、歯列矯正治療後に笑顔が不自然になったと感じる患者さんも少なくありません。
噛み合わせが悪くなる可能性がある

見た目を重視しすぎた歯列矯正治療では、機能的な噛み合わせが犠牲になるケースがあります。
口元を下げすぎると、上下の歯の接触関係が不適切になり、食事の際に効率よく噛めなくなることがあるため注意しましょう。
正常な噛み合わせでは、上下の歯が均等に接触しますが、過度な後退により前歯が噛み合わなくなる開咬状態の場合もあります。
また、顎関節にも負担がかかり、顎関節症を引き起こすリスクも高まります。噛み合わせの不良は、消化不良や頭痛、肩こりなど全身の健康にも影響を及ぼすことも考えられるため事前に話し合うことが大切です。
老けた印象になりやすい
口元が下がりすぎると、実年齢より老けて見られる傾向があります。唇周りのボリュームが失われることで、ほうれい線が目立ちやすくなり、口角も下がって見えるのが特徴です。
特に40代以降の方では、もともとの加齢変化と相まって、より老けた印象が強まります。また、口元が引っ込むことで顎のラインが強調され、頬がこけて見える場合もあります。
若々しい印象を保つためには、適度な口元のふくらみが欠かせません。過度な歯列矯正治療によってこのバランスが崩れてしまいます。実際に歯列矯正後に5歳以上老けて見られるようになったとの声も聞かれます。
しゃくれて見えやすい
口元が過度に後退すると、相対的に顎が前に出て見え、しゃくれた印象を与えます。
実際には下顎の位置は変わっていなくても、上唇が後退することで下顎が強調されて見えます。特に横顔で見たときに、この変化は顕著に現れるでしょう。
Eラインを大きく超えて口元が後退すると、顎先だけが突出して見え、バランスの悪い横顔に見えます。
また正面から見ても、口元の後退により顎の幅が強調され、男性的な印象を与えてしまう場合もあります。
女性の場合、この変化は特に気になる問題となりやすく、治療後の満足度を大きく左右させる要因の一つです。
歯列矯正で口元が下がるのを防ぐ方法

歯列矯正で口元が下がりすぎるのを防ぐには、治療前から適切な対策を講じることが重要です。
患者さん自身ができる対策と、歯科医院選びのポイントを理解しておくことで、理想的な治療結果を得られる可能性が高まります。
予防は治療後の修正よりもはるかに効果的で、時間もコストも節約できます。
食事のときによく噛んで食べる
日常的によく噛んで食事をすれば、口輪筋や咬筋を鍛えられます。
一口につき30回以上噛むことを意識すると、口元の筋肉が発達し、歯列矯正治療後もふくらみを保ちやすくなります。硬い食べ物を意識的に取り入れることも効果的です。
するめや根菜類、ナッツなどを積極的に食べることで、自然と噛む回数が増えます。また、左右均等に噛むことも大切で、片側だけで噛む癖があると顔の歪みにつながるため注意しましょう。
食事中はテレビやスマートフォンを見ずに、噛むことに集中すると効果が高まります。この習慣は矯正治療中も継続することで、よりよい結果が期待できます。
技術力があり経験が豊富な歯科医院を選ぶ
歯列矯正治療の成功は、歯科医師の技術力と経験に大きく左右されます。日本矯正歯科学会の認定医や専門医資格を持つ歯科医師は、厳しい審査基準をクリアしており、高い技術力を持っているのが特徴です。
また症例数が豊富な歯科医院では、さまざまなケースに対応した経験があり、適切な治療計画を立てられます。
治療の記録を公開している歯科医院や、ビフォーアフターの写真を多数掲載している歯科医院は信頼性が高いでしょう。
カウンセリング時には、同じような症例の治療経験を質問し、具体的な説明を受けることも大切です。複数の歯科医院でカウンセリングを受けて比較検討する方法もおすすめします。
事前に精密検査をしてくれる歯科医院を選ぶ
精密な検査は適切な治療計画の基礎です。セファログラム(頭部X線規格写真)による分析は必須で、これにより骨格的な問題や歯の角度を正確に把握できるのが特徴です。
また、歯科用CTスキャンを使用する歯科医院では、3次元的な骨の状態や歯根の位置まで詳細に確認できます。
顔貌写真の撮影も重要で、正面や横顔、斜めからの写真を撮影すれば治療による変化を予測しやすくなるでしょう。
さらに、デジタルシミュレーションを行う歯科医院では、治療後の顔貌変化を事前に確認ができます。
これらの検査結果をもとに、患者さんの希望と医学的な観点から理想的な治療計画を立てることが可能です。
セカンドオピニオンを受ける
一つの歯科医院の診断だけでなく、複数の専門医の意見を聞くことは重要です。歯列矯正治療にはさまざまなアプローチがあり、歯科医師によって治療方針が異なる場合があります。
特に抜歯の必要性は、判断がわかれることもよくあり、セカンドオピニオンを受ける価値があるでしょう。
別の歯科医院では、非抜歯での治療や部分歯列矯正など、異なる選択肢を提示してもらえる可能性もあります。
セカンドオピニオンを受ける際は、最初の歯科医院での検査結果や治療計画書を持参すると、より具体的な比較検討ができるのが魅力です。遠慮せずに納得いくまで相談し、自分に合った治療方法を選ぶことが大切です。
歯列矯正で口元が下がりすぎた場合の対処方法

万が一、歯列矯正で口元が下がりすぎてしまった場合でも、改善する方法はあります。早めに対処すれば、よりよい結果が期待できます。
まずは担当医に相談し、現状を正確に把握することから始めましょう。そのうえで、理想的な対処方法の選択が欠かせません。
再矯正を行う
口元が下がりすぎた場合、再矯正によって改善できる可能性があります。再矯正では、後退しすぎた前歯を前に移動させ、口元の厚みを取り戻します。
ただし、一度後方に移動した歯を前方に戻すには、スペースの確保が必要です。歯間を広げるIPR(歯間削合)や、場合によっては人工歯根を使用した前方移動を行います。
再矯正の期間は初回の歯列矯正より短い場合がよくあり、6ヶ月から1年程度で改善が見込めるでしょう。
費用面では、同じ歯科医院で行う場合は割引が適用されることもありますが、別の歯科医院では新規の治療として扱われます。再矯正を検討する際は、慎重な治療計画が必要です。
表情筋のトレーニングをする

表情筋トレーニングは、手軽に取り入れられる改善方法の一つです。口輪筋を鍛えるあいうえお体操は、大きくお口を開けてあ・い・う・え・おと発音するやり方で、お口周りの筋肉を効果的に鍛えられます。
また、ペットボトルを使ったトレーニングも効果的で、少量の水を入れたペットボトルを唇だけでくわえて持ちあげる運動を行う方法も有効な手段です。
頬の筋肉を鍛える風船トレーニングでは、頬を膨らませて空気を左右に移動させます。
これらのトレーニングを毎日5分程度行えば、2〜3ヶ月後には口元の印象が改善される場合があります。継続が重要で、習慣化で長期的な効果が期待できるでしょう。
編集部まとめ

歯列矯正で口元が下がることは、適切な治療計画と対策により防げる問題です。抜歯の有無や歯の角度、顔全体のバランス、年齢などを総合的に考慮した治療計画が必要になります。
治療前には、日本矯正歯科学会の認定医がいる歯科医院を選び、精密検査を受けることが大切です。
セファログラムや歯科用CTによる詳細な分析により、リスクを少なく抑えられます。必要に応じてセカンドオピニオンを受け、納得のいく治療方針を選びましょう。
日常生活では、よく噛んで食事をする方法で口輪筋を鍛え、口元のボリュームを維持できます。万が一、口元が下がりすぎた場合は、再矯正や表情筋トレーニングによる改善が可能です。
歯列矯正治療は単に歯並びを整えるだけでなく、顔全体の印象を左右する重要な治療です。歯科医師との十分なコミュニケーションを取り、理想的な口元を実現するために、焦らず慎重に治療を進めていくことが成功となります。
参考文献




