親知らずが横に生える原因とは？放置しておくリスクや治療の流れなどを解説

親知らずが横に生える原因

はじめに、親知らずが横に生える原因について解説します。

顎の骨にスペースが足りない

親知らずが横向きに生えてしまう一番の要因は、顎の骨に親知らずが生えるための十分なスペースが確保されていないことにあります。現代人は昔に比べてやわらかい食事を摂る機会が増え、顎の骨が発達しにくくなったと考えられています。顎の発育が十分でないと、親知らずが正しい方向へ生えるためのスペースが不足し、前方の歯に当たる形で横向きに萌出しようとするのです。 例えば、上下の歯並びが整っている方でも、親知らずだけが奥の骨の中に埋まったまま、あるいは途中で斜めに止まってしまうことがあります。特に成長期に顎の発育が不十分だったり、歯列のアーチが小さかったりすると、こうした横向きの親知らずが見られやすくなります。

遺伝や顎の発育バランスの影響

親知らずがどのように生えるかは、遺伝や顎の発育バランスも関わっています。両親の顎の大きさや歯のサイズ、歯並びの特徴は子どもに引き継がれることがあり、顎が小さい家系では親知らずの萌出スペースが足りなくなる傾向があります。 また、親知らずはお口の中で最後に発育する歯です。生える時期が10代後半から20代前半と遅く、他の永久歯がすでに並んだ後にスペースを探して生えてくるため、顎の大きさと歯の数のバランスがとれていないと、どうしても正しい向きに生えられず、横向きや斜めに生えることになります。 なかには、成長の頃に矯正治療などでスペースをコントロールできれば、親知らずが正常に生えやすくなる場合もあります。しかし、多くの患者さんの場合、顎の成長と歯のサイズのバランスは個々で異なり、完全にコントロールできるとは限りません。

歯胚の位置の関係で萌出方向がずれる

歯は「歯胚」と呼ばれる芽のような組織が顎の骨の中で発育していきますが、親知らずの歯胚は位置が奥深く、他の歯に比べて埋まっている深さや角度が複雑です。この歯胚の位置がわずかにずれていたり、成長途中で向きが変わったりすると、萌出する方向が本来のまっすぐな方向から外れてしまうことがあります。 歯胚が下顎の奥深く、下歯槽神経に近い位置にある場合、斜めや横向きに発育するケースも少なくありません。特に下の親知らずはこうした傾向が強く、骨の内部で横向きに埋まっているまま成長し、歯茎から頭だけが見えている状態で止まることもよく見受けられます。これはいわば、親知らず特有の萌出障害ととらえてよいでしょう。

横に生える親知らずを放置しておくリスク

次に、横向きの親知らずを何もせずに放置することで生じるリスクを解説します。

隣接する奥歯にむし歯や歯周病が発生する

横向きに生えた親知らずを放置しておくと、隣の奥歯との隙間に歯ブラシが届きにくくなり、むし歯や歯周病の原因になります。親知らず自体がむし歯になってしまうだけでなく、手前の大切な奥歯までむし歯や歯周病が進行することがあります。 特に、親知らずと隣の歯が密着している部分は汚れがたまりやすく、プラークや食べかすが停滞しやすい環境です。自分ではしっかり磨いているつもりでも、歯ブラシの毛先が届かず、むし歯が進行してしまうことに気付くのが遅れることも少なくありません。その結果、歯の神経を取る治療が必要になったり、手前の奥歯を失ってしまったりするリスクも考えられます。

智歯周囲炎や膿瘍による強い痛みと腫れが生じる

親知らずが半分埋まったままの状態では、歯茎との間に細菌が入り込みやすくなり、智歯周囲炎と呼ばれる炎症を引き起こすことがあります。智歯周囲炎が進行すると、歯茎が大きく腫れ、痛みが強くなり、物を噛むのが困難な状態になることも珍しくありません。 さらに炎症が深部へと広がると、膿がたまり膿瘍を形成し、顔の腫れや発熱を伴う場合もあります。こうなると抗生物質の服用や排膿処置が必要になり、全身の体調にも影響が及ぶおそれがあります。特に免疫力が低下している時期などは、智歯周囲炎の発症頻度が高まる傾向があります。

歯列不正や噛み合わせの乱れを招く

横向きに埋まった親知らずが隣の歯を押すように力が加わると、全体の歯列に影響を与えることがあります。親知らずの萌出力は弱いようでいて、長期間かけて隣の歯をじわじわと前方へ押し出すため、歯並びが崩れたり、噛み合わせのバランスが変わったりすることがあります。 特に、矯正治療を受けてきれいに整えた歯並びが、親知らずの影響で再び乱れてしまうことは、患者さんにとって大きなストレスです。歯列矯正で整えた後でも、奥歯の位置がズレると前歯の隙間が開いたり、歯列がデコボコになったりしてしまうこともあります。

顎関節や下歯槽神経への圧迫によるしびれや開口障害が生じる

横向きに埋まった親知らずは、周囲の骨や神経に影響を与えることがあります。特に下顎の親知らずは、顎の骨の中を通る下歯槽神経という重要な神経に近いため、親知らずが神経を圧迫すると、下唇や顎先にしびれを感じることがあります。 また、炎症や膿瘍が顎関節周囲に波及すると、口が開けにくくなったり、顎の痛みを伴う開口障害を引き起こしたりすることも考えられます。こうした症状が慢性化すると、日常生活での会話や食事が不自由になるだけでなく、治療も長期化する可能性があります。症状が悪化する前に適切な処置を行うことが大切です。

横向き親知らずかどうか見分ける方法

続いては、親知らずが横に生えているか、それとも正常に生えているのかを見分ける方法を解説します。

パノラマレントゲンやCTでの位置の確認を行う

横向きに生えた親知らずは、お口のなかを鏡で見ても一部しか確認できないことが多く、肉眼だけでは正確な状態を把握するのは難しいといえます。そのため、親知らずの位置や角度を正確に確認するためには、歯科医院でのパノラマレントゲン撮影が欠かせません。 パノラマレントゲンでは、顎全体の骨の中に親知らずがどのように埋まっているかを広い範囲で把握できます。さらに、神経の位置や歯の根の形態を詳しく確認するためには、歯科用CTを用いることもあります。CTでは立体的に撮影ができるため、親知らずと下歯槽神経との位置関係を詳細に把握することが可能です。 こうした検査により、親知らずが横向きに埋まっているのか、抜歯が必要かどうか、治療の難易度などを総合的に判断します。痛みや腫れがない場合でも、親知らずの位置を把握しておくことで、将来的なリスクを事前に把握でき、適切なタイミングでの処置につながります。

横に生える親知らずの抜歯の流れ

横向きに生えている親知らずは、次の流れで抜歯をします。

術前検査・診断

横向きに埋まった親知らずの抜歯は、一般的な抜歯と異なり骨の中に深く埋まっていることが多いため、事前の検査がとても重要です。まず、パノラマレントゲンやCT撮影を行い、親知らずの位置や形、顎の骨との関係、下歯槽神経との位置関係を正確に把握します。これにより、抜歯の方法や難易度、周囲の歯や神経への影響を最小限にする術式を計画します。 また、患者さんの全身状態を確認することも大切です。持病や服薬状況を確認し、必要に応じて内科と連携することもあります。術前に血液検査を行い、感染や出血のリスクを把握しておく場合もあります。

抜歯手術

横向きに生えた親知らずの抜歯は、通常の歯のように引き抜くことはできません。局所麻酔を行った後、歯茎を切開して顎の骨を一部削り、歯冠部や歯根部を分割して少しずつ取り除く方法をとります。親知らずが神経に近い場合には、神経を傷つけないよう慎重に器具を操作する必要があります。 歯を分割する際は、専用のドリルや器具を使用し、周囲の歯を傷つけないよう細心の注意を払います。抜歯が終わったら、切開した歯茎を縫合し、止血を確認して治療終了となります。処置の所要時間は、親知らずの位置や骨の状態によって異なり、通常30分から60分程度が目安です。

術後ケア・経過観察

抜歯後は、止血と傷口の保護が重要です。止血のためにガーゼをしっかり咬んでいただきますが、無理にうがいを繰り返すと血の塊が取れてしまい、治りが遅れることがあります。 また、術後は腫れや痛みが出るのが一般的です。必要に応じて鎮痛薬や抗生物質を処方し、細菌感染を予防します。抜糸が必要な場合は、約1週間後に再来院し、経過を確認したうえで糸を取り除きます。 経過観察では、傷口の治り具合だけでなく、周囲の歯や噛み合わせへの影響がないかも確認します。まれに神経の一時的なしびれが残る場合があり、数週間から数ヶ月で回復することが多いですが、状態によっては追加の処置が必要となることもあります。

完治までの期間

親知らずの抜歯後、腫れや痛みが落ち着くまでには数日から1週間程度かかります。通常、歯茎の傷が閉じて骨が安定するまでには、抜歯後おおむね1ヶ月ほどを目安と考えてください。ただし、骨の修復が完全に整うまでは数ヶ月単位でかかるため、その間は強い噛みしめや食いしばりに注意し、経過観察を続けることが大切です。

抜歯後のケアと注意点

最後に、横に生えている親知らずを抜歯した後のケア方法と注意点を解説します。

出血を止めるケア方法

抜歯直後は、血液が傷口をふさぐ血餅（けっぺい）と呼ばれる血の塊をつくり、これが傷の治癒を助ける大切な役割を果たします。血餅が剥がれてしまうと、ドライソケットと呼ばれる強い痛みを伴う状態になることがあるため、止血は特に重要です。ガーゼは20〜30分程度しっかり噛むことで圧迫止血を行います。ガーゼの交換が必要な場合も、血餅が取れないように優しく取り替え、無理にうがいを繰り返さないことが大切です。出血が気になるからと何度もうがいをしてしまうと、せっかくできた血餅が洗い流され、治癒が遅れる原因になります。また、血流が増えると再出血しやすくなるため、抜歯当日は激しい運動や長時間の入浴、熱い飲み物は控えてください。

痛み・腫れを軽減するケア方法

抜歯後は組織がダメージを受けているため、痛みとともに炎症反応として腫れが生じます。冷却することで血管を収縮させ、炎症を和らげる効果が期待できます。ただし、冷やしすぎると血流が滞り、治りが遅れる可能性があるため、15〜20分ほど保冷剤をあてては外す、を繰り返す方法が推奨されます。 鎮痛薬は、痛みが強くなってからではなく、術後の麻酔が切れる前に服用を始めると痛みをコントロールしやすいとされています。腫れは通常、抜歯後2〜3日目頃をピークに、自然に引いていきますが、まれに血腫ができると腫れが長引くこともあるため、経過を観察し必要に応じて歯科医院に相談してください。

感染予防のための正しいケア

親知らず抜歯後は、抜歯窩（ばっしか歯を抜いた後の穴）に細菌が侵入しないようにすることが重要です。血餅がしっかりとどまり、周囲が清潔に保たれることで感染のリスクを下げられます。抜歯当日は強いうがいを避け、翌日からは指示にしたがって優しくうがい薬や水でお口をすすぎましょう。歯ブラシは傷口に直接当たらないようにしつつ、ほかの歯はプラークをためないよう丁寧に磨いてください。 抗生物質が処方された場合、途中でやめてしまうと耐性菌が生まれる原因にもなるため、処方されたとおりに最後まで飲み切ることが大切です。

日常生活での注意点

抜歯後の数日は、傷口を刺激しないように、硬い食べ物や辛いもの、熱すぎる飲み物は避けましょう。食事の際は、できるだけ抜歯した側では噛まず、反対側で噛むことを意識してください。喫煙や飲酒は血管収縮や炎症の悪化を招き、血餅が剥がれやすくなるため、治癒を妨げる大きな要因です。少なくとも数日は控え、できれば治癒が進むまで控えることが望ましいでしょう。 噛み合わせに違和感を覚えたり、長引く痛みや腫れ、膿のような味を感じたりする場合は、二次感染の可能性があります。放置せず、必ず歯科医院で状態を確認してもらうようにしてください。