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「歯ぎしり」をする原因はご存じですか? 歯ぎしりしやすい人の特徴や対処法も歯科医が解説!

 公開日:2025/06/07

これまで、噛み合わせやストレスが原因と考えられてきた「歯ぎしり」ですが、「舌の筋力」や「寝ているときの呼吸」との関係も明らかになってきているようです。歯やあごの関節、さらには睡眠の質にも悪影響を与えかねない歯ぎしりのメカニズムや対処法について、「むらかみ歯科クリニック」の村上先生に解説していただきました。

村上 明延

監修歯科医師
村上 明延(むらかみ歯科クリニック)

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福岡歯科大学卒業。その後、広島大学歯学部附属病(現・広島大学病院)や広島市内の歯科医院で勤務医として経験を積む。2013年、広島県廿日市に「むらかみ歯科クリニック」を開院。患者さん一人ひとりの生活習慣に寄り添い、むし歯や歯周病の根本的な予防を通じて、健康な口腔環境の維持をサポートしている。

なぜ、歯ぎしりは起こる? 原因と歯ぎしりをしやすい人の特徴

なぜ、歯ぎしりは起こる? 原因と歯ぎしりをしやすい人の特徴

編集部編集部

寝ているときに、歯ぎしりをしてしまうのはなぜでしょうか?

村上 明延先生村上先生

歯ぎしりの原因についてはストレスとの関連などいくつかの説があり、歯科医師の間でもその見解はわかれています。そのなかでも、近年注目されているのが「舌の筋力不足」と「睡眠時の呼吸」に関する問題です。これらの要因が複合的に働いて、寝ている間に歯を強く噛み締めたり、すり合わせたりする現象が起きると考えられています。

編集部編集部

舌の筋力不足と睡眠時の呼吸が、なぜ歯ぎしりを引き起こしてしまうのでしょうか?

村上 明延先生村上先生

舌というのは意外と大きくて重さもあるため、筋力が弱いと寝ている間に重力で奥に下がってしまい、その先にある「気道」という空気の通り道を塞いでしまうことがあります。しかし、息苦しさを感じても舌を自力で持ち上げる筋力がないため、無意識のうちに下あごを前方へギリギリと動かして舌を持ち上げようとするわけです。

編集部編集部

つまり、呼吸のしづらさを解消するために、歯ぎしりをしているということでしょうか?

村上 明延先生村上先生

はい。基本的に口の中の歯列の形は舌の形です。しかし、舌の筋力のない人は筋力で口腔内の歯列をしっかり拡げきれていないため、口の中が狭い傾向にあります。そのため、舌の筋力がない人は口の中も狭い傾向があるため、舌を動かすスペースも十分ではありません。舌を持ち上げる筋力もスペースもないため、体はあごの筋肉を使って舌を持ち上げようとします。あごを横や前に動かすことで、気道を塞いでいた舌が前方に移動して、呼吸ができるようになるわけです。つまり、歯ぎしりは舌の筋力不足による呼吸困難を解消するための体の防御反応とも言えます。

編集部編集部

歯ぎしりは自覚しにくいと言いますが、自分で気づくためのサインや症状はありますか?

村上 明延先生村上先生

まず、「いびき」をよくかく人は歯ぎしりをしている可能性があります。なぜなら、舌が気道を塞ぐと、いびきをかきやすくなるからです。ただし、いびきも自分で気づきにくい場合があるため、それだけでは判断が難しいかもしれません。

編集部編集部

そのほかに、自分で確認できるサインはありますか?

村上 明延先生村上先生

歯の根元や上あごの中央あたりにごつごつしたコブのような骨の出っ張り、いわゆる「骨隆起」のある人は歯ぎしりをしている可能性が高いでしょう。また、なんとなく寝足りない感覚があったり、日中に極端に眠くなったりする人も、夜間に歯ぎしりをしている可能性があります。そのほかに、「歯のでこぼこがすり減って平らになっている」「知覚過敏がある」というのも、歯ぎしりをしている人の代表的な症状です。

歯ぎしりによる健康リスク 口や全身への影響は?

歯ぎしりによる健康リスク 口や全身への影響は?

編集部編集部

歯ぎしりによる健康面へのリスクや影響について教えてください。

村上 明延先生村上先生

歯ぎしりの厄介な点は、「それをしないと呼吸ができない」という状態にあることです。睡眠中、無意識に気道を確保しようとする反応として起きている歯ぎしりは、やめようと思ってもやめられるものではありません。しかし、歯ぎしりによって歯には自身の体重の4~5倍もの力がかかっているとも言われています。起きている間、体は脳によってコントロールされているため、あまり力を出すことができません。力が出過ぎると体を痛めてしまうからです。ところが、寝ている間は脳が休んでいるため筋肉の力の制御ができず、強烈な力が歯やあごの関節にかかってしまいます。

編集部編集部

そうすると、歯やあごにはどのような問題が生じますか?

村上 明延先生村上先生

歯ぎしりによる過度な力によって歯にヒビ(クラック)が入ると、そこから細菌が侵入してむし歯が急速に進行することがあります。歯はエナメル質という硬い組織で覆われていますが、ひとたびヒビが入ってしまうと歯ブラシの毛先も届かないため、進行を防ぐことができません。さらに、歯周病に関しても、歯ぎしりによる強い力で歯が揺すぶられることで、急速に悪化する傾向があります。

編集部編集部

歯ぎしりが原因で、むし歯や歯周病が進行してしまうことがあるのですね。

村上 明延先生村上先生

むし歯・歯周病というと「細菌」や「歯磨き」ばかりがクローズアップされますが、じつは歯ぎしりも要因の1つになっていることがあります。歯磨きをする・しないは自分で決められますが、歯ぎしりはそれがむし歯や歯周病の原因になっているとわかっても自分でコントロールすることができません。そういう意味において、歯ぎしりは細菌を除去することよりももっと難しい問題だと常々感じています。

編集部編集部

歯ぎしりは、歯以外にも影響が出ることはありますか?

村上 明延先生村上先生

歯ぎしりの際に下あごが真っすぐ前に出てくれるといいのですが、実際は奥歯が引っかかったり、親知らずがあったりしてあごが斜めにズレて動くのがほとんどです。その結果、あごの関節の片方ばかりに負担がかかって、顎関節症といった症状や、下あごの関節が頭蓋骨を圧迫することによる頭痛、関節のそばにある耳の穴を刺激されることによる平衡感覚機能へ影響を及ぼすことがあるのです。また、筋肉のバランスが崩れて顔に歪みが出たり、片方だけほうれい線が深くなったりなど、見た目にも影響が出てしまうこともあります。

気になる歯ぎしりの対処法 治療法と日常のケア

気になる歯ぎしりの対処法 治療法と日常のケア

編集部編集部

歯ぎしりの対処法にどのようなものがありますか? 歯科医院でできる治療や処置を教えてください。

村上 明延先生村上先生

歯ぎしりの対処法としては「マウスピース(ナイトガード)の着用」が一般的です。ただ、マウスピースにも種類があり、適切なものを選ぶことが重要です。患者さんのなかには柔らかいソフトタイプを使用されている人も多いのですが、歯に力をかけない点では効果があるものの、滑りが悪いためあごの動きを妨げてしまいます。すると、舌が持ち上がらないため呼吸がしづらく、かえって睡眠を妨げてしまいます。

編集部編集部

では、どのようなタイプのマウスピースがおすすめですか?

村上 明延先生村上先生

個人的におすすめするのは、硬いハードタイプのマウスピースです。歯ぎしりが必ずしも口の中の様々なトラブルを引き起こすわけではありません。要は、歯ぎしりがしやすい状況なのか、そうではないのかという点です。歯列に乱れがある人とそうでない人では、乱れがない人の方が歯ぎしりがしやすく、つまり「歯ぎしりしやすい=歯にあまり力がかからない」ということです。

編集部編集部

もう少し詳しく教えてください。

村上 明延先生村上先生

歯ぎしりしやすい噛み合わせを獲得できればいいのですが、根本的にその噛み合わせを獲得するためには矯正などのハードルの高い治療になってしまいます。しかし、マウスピースを歯ぎしりしやすい状態に作り、装着して寝ていただくことで、歯のでこぼこをマウスピース上で平らにして、あごの動きをスムーズにする効果があります。歯ぎしりしやすいということは、歯に力がかかりにくいということになります。歯ぎしりは完全に止めてしまうと呼吸ができなくなるという問題があるため、むやみに止めようとするのはかえって逆効果です。大切なのは歯に負担をかけずに歯ぎしりをしやすくすることで、ハードタイプであれば歯に力がかからないうえに、あごもスムーズに動くようになります。これにより舌が持ち上がりやすく、気道も確保されるため睡眠の質の改善にもつながります。

編集部編集部

そのほかに、歯ぎしりを軽減するためのセルフケアや予防法はありますか?

村上 明延先生村上先生

舌を鍛えることも、効果的な予防法の1つだと思います。あいうべ体操」や舌を口のなかでぐるぐる回す「舌回し運動」などがおすすめです。舌の筋力がついて前にしっかり出せるようになれば、歯ぎしりを軽減できる可能性があります。加えて、食生活の見直しも重要です。歯ごたえのあるものを意識して食べるだけでも、舌の筋力が自然に鍛えられます。

編集部編集部

最後に、読者へメッセージをお願いします。

村上 明延先生村上先生

口のトラブルは「細菌」や「清掃不足」が原因だと思われがちですが、じつはそれだけではありません。一生懸命歯磨きをして、定期的に歯医者さんに通っているのになぜかむし歯ができたり、詰め物や被せ物が外れたりする原因の1つに歯ぎしりがあると思っています。セルフケアの質を高めるだけでは防ぎきれない口の問題があることを、ぜひ本記事をきっかけに知っていただければ幸いです。歯ぎしりは口だけでなく、睡眠の質など体全体にも影響してくるものですので、気になる症状があれば早めに対処されることをおすすめします。

編集部まとめ

歯ぎしりはストレスやクセの問題だけではなく、睡眠時の呼吸を確保するための体の防御反応の可能性があることがわかりました。その要因として、舌の筋力不足が指摘されています。歯ぎしりを放置すると歯やあごの関節に大きなダメージを与えるほか、顔貌や睡眠の質にも影響を及ぼすおそれがあります。自覚症状や気になる兆候がある人は、お近くの歯科医院で一度相談してみましょう。

医院情報

むらかみ歯科クリニック

むらかみ歯科クリニック
所在地 〒738-0013 広島県廿日市市廿日市1-6-39
アクセス 広島電鉄宮島線「広電廿日市駅」 徒歩4分
JR山陽本線「廿日市駅」 徒歩7分
診療科目 歯科

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