スポーツ歯科の存在をご存じですか? お口の健康がパフォーマンスに与える影響を解説
アスリートにとって体のメンテナンスと同じぐらい大切なのが、歯の健康管理です。競技中の転倒・接触によるケガ、スポーツドリンクや補食によるむし歯リスクの上昇など、スポーツ選手は一般の患者さんとは異なる悩みを抱えています。そこで着目したいのが、「スポーツ歯科」という診療科。歯科医療の観点からアスリートを支えるスポーツ歯科の取り組みについて、おおしか歯科医院の大鹿先生に解説してもらいました。
監修歯科医師:
大鹿 明完(おおしか歯科医院)
目次 -INDEX-
スポーツ歯科とは? アスリートに多いお口トラブルとスポーツ歯科の役割
編集部
スポーツ歯科とは、どのような診療科なのでしょうか?
大鹿先生
スポーツ歯科は、アスリートの口腔や歯の健康を専門的にサポートする診療科です。むし歯や歯周病の予防・治療はもちろん、競技中のケガの防止やパフォーマンス向上を目的としたマウスガードの作製を行っています。近年は、お口の健康が競技に与える影響についての研究も進んでおり、その成果を治療やサポートに取り入れているのが特徴です。選手一人ひとりの競技特性に合わせた取り組みによって、ベストコンディションで競技に臨めるようサポートしています。
編集部
主に、どのスポーツをしている方が受診されるのでしょうか?
大鹿先生
スポーツ歯科は競技スポーツから生涯スポーツまで、幅広いジャンルのスポーツ選手を対象としています。なかでも、ボクシングやラグビー、格闘技などのコンタクトスポーツでは、お口周りのケガの発生率が高いため、受診される方が多くいらっしゃいます。ケガの予防策を立てることや、万が一のケガの際に速やかに治療を行うことも、スポーツ歯科の重要な役割です。
編集部
スポーツ選手にとくに多い歯科疾患やトラブルに、どのようなものがありますか?
大鹿先生
強く噛みしめることによる歯の摩耗(すり減り)や衝突・転倒によるケガにくわえ、近年はとくに若い選手の間でむし歯が増加しています。実際に、オリンピック委員会が行った追跡調査においても、20~30代の現役選手は過去のオリンピック選手に比べて、むし歯が圧倒的に多いことがわかっています。
編集部
なぜ、若い選手のむし歯が増えているのでしょうか?
大鹿先生
主な理由は、スポーツドリンクによる水分補給と、エネルギー補給のための頻繁な補食(間食)です。競技中はエネルギーが減らないように、選手は合間に補食を頻繁に食べるのですが、これがむし歯リスクを高める要因となっています。この問題は近年、スポーツ歯科でとくに注目されている課題の1つです。
実は密接? スポーツパフォーマンスとお口の健康の深い関係
編集部
実際、お口の健康とスポーツにはどのような関係があるのでしょうか?
大鹿先生
お口の健康は、スポーツパフォーマンスに大きく影響します。例えば、むし歯や歯周病の痛みは選手の集中力を著しく低下させますし、抜けた歯をそのままにしておくと体全体のバランスにも影響がでてしまう可能性があります。また、噛み合わせが悪いと姿勢が乱れる可能性があり、それがケガのリスクを高める要因にもなります。
編集部
噛む力がスポーツのパフォーマンスに影響するという話もよく聞くのですが、本当なのでしょうか?
大鹿先生
確かに、噛み合わせが良好でしっかり噛めることは、スポーツにおいてとても重要です。ただ、実際に選手の様子を見ると、踏ん張る瞬間に歯を噛みしめる選手と、口を開けている選手がいることに気づくと思います。これは、人には集中したり力を出したりする時に、下あごを固定しようとする特性があるからです。その固定方法として、噛みしめる選手もいれば、口を開けて顎周りの筋肉を使って固定する選手もいるわけです。
編集部
そうすると、強く噛むことが必ずしもパフォーマンスの向上につながるわけではないのでしょうか?
大鹿先生
噛みしめることで筋力が瞬間的に高まるのは確かです。ただ、すべての選手が力を入れるときに歯を噛みしめているわけではありません。下あごを固定する方法は人それぞれで、口を開けた状態でも十分に力を発揮できる選手もいます。その点において、マウスガードは噛みしめる選手でも噛みしめない選手でも、あごの筋肉や骨格筋の動きをスムーズにすることが研究で明らかになっています。
編集部
プロ野球選手がプレー中にガムを噛んでいるのも、パフォーマンスと何か関係があるのでしょうか?
大鹿先生
これについては様々な文献がありますが、ガムを噛むと緊張状態が和らぎ、心拍数も下がることがわかっています。試合中の過度な緊張はパフォーマンスを低下させる原因になりますが、ガムを噛んで適度に注意をそらすことで結果的に精神的なリラックス効果を生み出しています。また、噛む行為には脳を活性化させる効果もあり、これらの効果が組み合わさることでパフォーマンスの向上につながっているようです。
アスリートの悩みや不安に応える! スポーツ歯科にできること
編集部
スポーツ歯科では、具体的にどのような治療やサポートが受けられますか?
大鹿先生
最も多いのが、マウスガードの作製と調整です。選手一人ひとりの口の形に合わせて作ることで、ケガの予防と同時にパフォーマンスの向上が図れます。また、定期的な健診でむし歯や歯周病を早期に発見し、症状が悪化する前に治療することも大きな役割です。そのほかに、噛み合わせの調整を通じて体全体のバランスを整えたり、スポーツドリンクの適切な飲み方や食事に関するアドバイスを行なったりなど、選手の競技生活を総合的にサポートしています。
編集部
マウスガードには、具体的にどのような効果があるのでしょうか?
大鹿先生
マウスガードは歯や口腔内を保護するだけでなく、相手選手を傷つけるリスクを軽減する効果があります。具体的には、ボールやほかの選手との接触で起こる歯の破折や顎の骨折、唇や舌の裂傷のほか、自分の歯で相手の顔を傷つけるのを防いでくれます。さらに、強い噛みしめによる歯の摩耗(すり減り)を予防するなど、選手が安心してプレーに集中できる環境づくりに貢献しています。
編集部
スポーツをしている方が、スポーツ歯科を受診する一番のメリットは何でしょうか?
大鹿先生
最も大きなメリットは、選手が不安なく練習や試合に挑めることです。お口の健康に不安や心配がないことは、選手の精神面に大きな影響を与えます。定期的なチェックで歯の本数を維持し、噛める状態を保つことはスポーツをする・しないに関係なく非常に重要です。スポーツ歯科ではそこからさらに、選手が安心して競技に集中できる環境づくりを行っていきます。また、選手一人ひとりの状況や競技の特性にあわせて、きめ細やかなアドバイスができることもスポーツ歯科のメリットです。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
大鹿先生
スポーツをされる方なら、誰しも「もっと上手くなりたい」「もっと良い結果を出したい」という向上心をお持ちだと思います。このような方々の願いをサポートするのが、私たちスポーツ歯科医の役割です。アスリートのケアというと整形外科や整骨院などが一般的ですが、そこに「歯科」という新たな視点からのアプローチが加われば、競技力向上の可能性はさらに広がります。ぜひ本記事をきっかけに、「スポーツ歯科」という選択肢があることを多くの選手に知っていただきたいと思います。
編集部まとめ
スポーツ歯科は、アスリートのお口の健康を通じて競技力向上をサポートする診療科です。むし歯や歯周病の予防はもちろん、マウスガード作製や噛み合わせの調整、食事指導など、様々なアプローチで選手をサポートしています。お口の健康は競技中のケガのみならず、パフォーマンスの向上にも深く関わっています。競技レベルを問わず、スポーツでより良い結果を目指す方はぜひ一度、スポーツ歯科を受診してみましょう。
医院情報
所在地 | 〒395-0817 長野県飯田市鼎東鼎72-1 |
アクセス | 「西友飯田鼎店」から車で2分 |
診療科目 | 歯科、小児歯科、歯科口腔外科 |