つわりがひどい時はどうしたらいい? 妊娠中の口腔ケアやブラッシングのコツを歯科医が解説
「つわりで歯磨きをするのもツライ……」。そんな日々をお過ごしの妊婦さんも多いのではないでしょうか? 妊娠中はつわりにくわえ、ホルモンバランスや生活習慣の変化により、お口トラブルが生じやすくなります。これらのトラブルは妊婦さんのみならず、お腹の赤ちゃんにも影響を与える可能性があるため注意が必要です。そこで妊娠中に注意したいお口トラブルや、つわりの時期のセルフケアのポイント、歯科受診のタイミングについて、江並歯科の江並先生に解説していただきました。
監修歯科医師:
江並 大和(江並歯科)
妊娠中に気をつけたいお口トラブルとそのリスク
編集部
妊娠中はむし歯や歯周病などのお口トラブルが増えると聞きますが、それはなぜでしょうか?
江並先生
妊娠期特有のホルモンバランスによる体の変化に伴い、お口の中にも様々な変化が生じてしまうためです。つわりの影響で歯磨きが難しくなったり、繰り返す嘔吐で口内が酸性に傾いたりするのがその代表例です。これにより、妊娠中は通常よりもむし歯リスクが高まります。さらに、注意が必要なのが歯周病です。妊娠中はある種の歯周病菌が増殖しやすく、歯ぐきの腫れや出血が起こりやすくなります。
編集部
そのほかに、お口の中に影響する要因はありますか?
江並先生
食生活の変化も大きな影響を与えます。妊娠中は一度にたくさん食べられないので、少量ずつ頻繁に食事をする傾向があります。この状態で食後の歯磨きが十分にできないとお口の環境はさらに悪化し、むし歯や歯周病、口臭などの問題が生じやすくなるわけです。
編集部
むし歯や歯周病、口臭のほかに、妊娠時に気をつけたいお口トラブルはありますか?
江並先生
ほかにも、いくつか注意したいトラブルがあります。1つは、「歯の揺れ」です。妊娠中は出産に備えて骨盤の靭帯が少しずつ緩んでいきますが、これが歯にも影響を及ぼし、一時的に歯が揺れることがあります。このような妊娠特有の歯の揺れは、出産後に自然に消失しますが、それが妊娠によるものか・ほかの病気によるものかどうかは歯科医による診断が必要です。
編集部
ほかにも、妊娠期特有の症状はあるのでしょうか?
江並先生
「妊娠性エプーリス」と呼ばれる症状があります。これは歯ぐきにコブのような膨らみや腫れが生じるもので、多くの場合、出産後に自然に消失します。したがって、特別な治療は必要ありませんが、歯周病を併発しやすいため注意が必要です。
編集部
以上のようなお口のトラブルは、母体や胎児にも影響を及ぼす可能性はあるのでしょうか?
江並先生
妊婦さん自身については、妊娠中に歯や歯ぐきの状態が悪化すると、その影響が出産後にまで及ぶ可能性があります。歯は一生使い続けるものですから、以後も快適に過ごすためにも妊娠中の口腔ケアは非常に重要です。胎児への影響としては、歯周病による早産や低体重児出産のリスクに注意が必要です。歯周病による炎症は出産リスクを高める可能性があるため、お腹の赤ちゃんの健康を守るためにも、妊娠中は普段以上に口腔ケアに取り組んでいただきたいと思います。
つわりの時期を乗り切る! 妊娠中の口腔ケアのポイント
編集部
妊娠中はつわりで歯磨きをするのが難しい場合もあると思いますが、どのように工夫すればよいでしょうか?
江並先生
食後すぐに歯磨きができない場合は、体調の良い時間帯を選んで磨くようにしてください。その際、歯ブラシを大きく動かすと気持ち悪くなりやすいので、小さいヘッドの歯ブラシを小刻みに動かすのがポイントです。また、歯磨きに集中しすぎると吐き気が起こりやすくなるため、テレビを観ながら、外を眺めながらの「ながら磨き」で気を紛らわせるのも効果的です。
編集部
そのほかに、妊娠中の口腔ケアのポイントはありますか?
江並先生
今まで使っていた歯磨き剤の味が苦手になってしまったら、別の製品に変えてみるのもよいでしょう。「どの歯磨き剤が自分に合うか、実際に使ってみないとわからない」という場合は、歯科医院で相談するのも方法の1つです。歯科医院によっては、院内で取り扱っている歯磨き剤を試用させてもらえるところもありますので、上手く活用していただければと思います。
編集部
妊娠中の歯の健康を保つために、食生活で気をつけるべきポイントを教えてください。
江並先生
妊娠中はむし歯や歯周病のリスクが高まるため、甘いものやジュース類はできるだけ控えるようにしましょう。また、栄養バランスのとれた食事を心がけることも大切です。歯の健康に関しては「カルシウム」が歯と骨に働きかけるので、妊娠期は積極的に摂っていただきたいです。その際、ビタミンDと一緒に摂ると吸収率が上がりますので、カルシウムとビタミンDをセットで取り入れるようにしましょう。
妊娠中こそ歯科受診を! 安心して通うためのポイント
編集部
妊娠中に歯科を受診することに不安や疑問を持つ妊婦さんも多いと思いますが、それでも受診するメリットはあるのでしょうか?
江並先生
妊娠中の歯科受診には大きなメリットがあります。妊娠中は通常よりもむし歯・歯周病になりやすい一方で、体の様々な変化によりセルフケアが不十分になってしまうことも少なくありません。このような時期だからこそ、歯科医院で適切なアドバイスを受けることが、お口のトラブルを防ぐうえで非常に重要となります。
編集部
妊娠中の歯科受診は、出産や出産後の生活にも良い影響はありますか?
江並先生
もちろん、あります。例えば、妊娠中にむし歯があると、出産時の「いきみ」で歯が割れてしまうことがあります。また、先述のように、妊娠中の歯周病は早産や低体重児出産のリスクを高めてしまいます。このような出産に関わるリスクを軽減することも、妊娠中の歯科受診の大きな目的の1つです。さらに、出産後は育児で忙しくなり、歯科治療の時間を取るのが難しくなります。出産前にしっかりと治療を終えておくことで、その後の育児に安心して集中できる環境が整えられるでしょう。
編集部
妊娠中に歯科医院を受診する場合、どのタイミングに受診するのが良いですか?
江並先生
一般的に言われているのが、「安定期」と呼ばれる妊娠16週から27週の時期です。ただ、安定期に入ってもなかなか体調が落ち着かなかったり、つわりが続いていたりする方もいらっしゃいます。そのような場合は無理に安定期にこだわらず、体調が落ち着いた段階で、産婦人科の先生に歯科受診のタイミングについて相談してみましょう。
編集部
妊娠中でも、安定期であれば歯科治療を受けることはできるのでしょうか?
江並先生
基本的に、安定期であれば歯科治療は問題なく受けることができます。ただし、抜歯などの外科処置については、母体への影響を考えて慎重な判断が必要です。気になる麻酔やレントゲンの影響ですが、麻酔に関してはお腹の赤ちゃんへの影響はほとんどありません。また、レントゲンに関しても、近年はデジタル化によって被ばく量が大幅に抑えられていますし、お腹に防護エプロンもつけるので、問題なく行えます。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
江並先生
妊娠中は様々な不安を抱えてしまうものですが、お口は赤ちゃんの栄養の入り口となる部分でもありますので、歯科医院のサポートを積極的に受けていただきたいと思います。歯科医院は多くの女性スタッフが働いていることが多い場でもあるため、お口に関する不安を解消できるだけでなく、妊娠や出産に関する経験談や共感、アドバイスが得られるでしょう。お口の健康だけでなく、妊娠中の様々な不安を少しでも軽減できる場として、ぜひ歯科医院を活用していただきたいと思います。
編集部まとめ
女性は妊娠すると、体に様々な変化が起こります。これはお口の中も例外ではなく、ホルモンバランスの変化や生活習慣の変化によって、普段よりもむし歯や歯周病のリスクが高まります。これらのトラブルは母体だけでなく、お腹の赤ちゃんの健康にも影響を与える可能性があるため注意が必要です。妊娠中の口腔ケアは妊婦さんと赤ちゃんの健康に直結する重要な要素です。何か不安なことがあれば歯科医院に相談し、快適な妊娠ライフを過ごしていきましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |