出っ歯をセラミックの被せ物で治すのは危険? おすすめしない理由やセラミックの特徴を歯科医が解説
出っ歯の治療では矯正治療のほかに、近年はセラミックの被せ物で治す方法がインターネットやSNSで話題となっています。一方で、出っ歯をセラミックの被せ物で治すことについては、多くの歯科医がその危険性やリスクについて警鐘を鳴らしているようです。今回は、出っ歯をセラミックで治すのがタブーとされる理由やセラミックの特徴などを、「大塚歯科第3ビル診療所」の大塚先生にお聞きしました。
監修歯科医師:
大塚 淳平(大塚歯科第3ビル診療所)
目次 -INDEX-
出っ歯をセラミックの被せ物で治すのは避けるべき? 歯科医がおすすめしない理由とは?
編集部
出っ歯をセラミックの被せ物で治すことはできるのでしょうか?
大塚先生
できるか・できないかで言うと、セラミックの被せ物でも出っ歯を改善できるケースはあります。ただ、歯科医として積極的におすすめはできません。出っ歯を治したい場合に治療の第一選択肢になるのは、やはり矯正治療だと思います。
編集部
歯科医からみて、出っ歯をセラミックの被せ物で治すのをおすすめできない理由を教えてください。
大塚先生
神経がある歯とない歯で理由が少し異なります。神経のある歯については、前に出ている歯を被せ物で後ろに引っ込めるためには、歯を多く削る必要があります。歯の表面は非常に硬いエナメル質で覆われていますが、被せ物をするということはそれを全て取り除くのと同じです。さらに口元を後ろへ引っ込めるとなると、神経の近くまで歯質を失うことになるでしょう。そうすると神経を失うリスクが高く、歯にとって大きなダメージとなります。
編集部
神経のない歯やすでに被せ物が入っている歯はどうでしょうか?
大塚先生
出っ歯の治療で神経のない歯をセラミックの被せ物で治す場合、本来の歯の角度とは違った角度で被せ物を入れることが予想されます。歯の角度が変わると、本来は垂直方向に働く噛む力が、歯の割れる方向に働くようになります。したがって、被せ物を入れた直後は見た目も綺麗ですが、将来的には歯根破折で歯を失ってしまう可能性が高くなるでしょう。
安易なセラミック治療はリスク大! 出っ歯を治したい場合に知っておきたいこと
編集部
先ほどの話をまとめると、出っ歯をセラミックの被せ物で治すのはメリットよりもリスクの方が大きいということでしょうか?
大塚先生
そういうことになります。実際、歯科医療の現場ではセラミックの被せ物で治療したことを後悔して来院される患者さんが多くみられます。やはり、どんな治療でも自身の歯は極力残して改善するのが理想的です。そのような意味において、出っ歯の改善でもともとあるべき治療は歯列矯正であると考えます。
編集部
そのリスクを承知の上で、あえてセラミックで治療することに何かメリットはあるのでしょうか?
大塚先生
メリットがあるとすれば、短期間で出っ歯が改善できる点です。セラミックの被せ物で出っ歯を治す場合、医療機関によっては最短2日で治療が終了するところもあります。したがって、期間に猶予のない人にとってはメリットのある治療と言えるかもしれませんね。
編集部
あえて治療の決め手をあげるなら「治療期間」というわけですね。
大塚先生
強いて言えばそういうことになります。矯正治療で出っ歯を治す場合、短いケースで3~6カ月、長いケースになると2~3年ほどかかりますから、それを苦痛だと思う人にとってセラミック治療は魅力的でしょう。ただし、よほどやむを得ない事情がない限りは、出っ歯は矯正治療で治すべきというのが専門家としての見解です。
なぜ「セラミック」に注目が集まる? ほかの素材とセラミックの被せ物の違いについて
編集部
前歯に入れる被せ物では、セラミック以外に保険の被せ物もあると思うのですが、なぜセラミックが注目を集めているのでしょうか?
大塚先生
保険適用の前歯の被せ物は、金属のフレームの表側に「硬質レジン」と呼ばれる歯科用のプラスチックを貼り付けています。硬質レジンと比較した場合、セラミックは審美性が非常に高く、天然歯とほぼ変わらない見た目を再現できる点が前歯の被せ物で注目される理由の1つです。ただ、両者については審美性もさることながら、材料学的な安定性も大きく異なります。
編集部
プラスチックとセラミックの安定性の違いを教えてください。
大塚先生
例えば、日常的に使う食器でもプラスチック製のものは、使っているうちに徐々にヒビが入ったり変色したりします。その一方、セラミック製のものは落とさない限り割れたりヒビが入ったりはしませんし、変色もありません。まとめると、プラスチックとセラミックを比較した場合、プラスチックは経年劣化を生じますが、セラミックは劣化がなく材料学的に非常に安定した素材と言えます。
編集部
セラミックは見た目が美しいだけでなく、綺麗な状態を長く維持しやすいわけですね。
大塚先生
はい。セラミックは金属と比較しても安定している物質で、金属のように唾液の成分で溶けだすこともありません。歯科治療で使用される素材のなかでは、材料学的にセラミックが最も優れています。
編集部
そのセラミックにも、デメリットはあるのでしょうか?
大塚先生
セラミックは薄いとどうしても割れやすいため、強度を保つために一定の厚みが必要です。そのため、金属の詰め物や被せ物と比べると、歯を削る量が0.5~1mmほど多くなります。また、強い力で噛むと割れることがあるため、とくに日頃から歯ぎしりや食いしばりのある方の場合は、ナイトガードなどの対策が必須となります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
大塚先生
出っ歯をセラミックの被せ物で治療することに関しては、よほどの事情がない限り歯科医としておすすめすることができません。ただ、セラミックという素材自体は材料学的にみても歯科材料の中で最も優れています。一方で、セラミックの品質は連携する歯科技工士の技術力にも大きく左右されるため、価格や治療期間だけをみて飛びつくというのは控えましょう。歯科で入れる被せ物や詰め物はお口の環境とうまく付き合っていくことが大切なので、「入れたら終わり」ではなく治療後もしっかり管理していただきたいと思います。
編集部まとめ
出っ歯をセラミックの被せ物で治す方法は「短期間で改善できる」というメリットがある一方で、歯に対するダメージが計り知れず、安易な治療は危険であることがわかりました。インターネットやSNS上ではセラミックの被せ物に関する様々な情報が溢れていますが、リスクやデメリットについても情報収集することが大切です。長期的にみたとき、自身にとってどの治療が最適か、歯科医とよく相談のうえ検討していきましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |