「子どもが寝る前に歯磨きしない…」健康リスクを歯科医が解説! 時々なら問題ない?
「子どもをむし歯にしたくない」と毎日必死なのに、肝心の子どもが歯磨きしないで寝てしまうとついイライラしてしまいますよね。しかし、子どものむし歯予防は歯磨きを頑張ることよりもっと重要なことがあるようです。今回は、歯磨きをしない子どもの対処法や歯磨きのやり方・考え方などについて、「医療法人NINE NETWORK」の竹山先生にお聞きしました。
監修歯科医師:
竹山 旭(医療法人NINE NETWORK NINE DENTAL 心斎橋PARCO)
目次 -INDEX-
夜、歯磨きしないで寝るのは子どもの体に悪い? 健康リスクを歯科医が解説
編集部
歯磨きは「寝る前」が大事とよく聞きますが、それはなぜでしょうか?
竹山先生
寝ている間は唾液の量が減るため、むし歯になるリスクが高くなるからです。人は誰しもご飯を食べた後、お口の中がむし歯になりやすい環境になっています。しかし、すぐにむし歯にならないのは唾液がお口の中を洗い流したり、再石灰化(歯の修復機能)を促したりするからです。就寝中は唾液の分泌が少なくなるため、これらの働きが弱くなってしまいます。このように、寝る前に歯を磨く本来の目的は「むし歯予防」です。ただし、子どもの場合はそれよりも「しつけ」や「習慣づけ」の意味合いの方が強いと言えるでしょう。
編集部
子どもの歯磨きは「むし歯予防」より「しつけ・習慣づけ」の方が重要ということですか?
竹山先生
そのとおりです。例えるなら「用を足したら、お尻は必ず拭きなさい」ということと同じです。何も教えなかったら、おそらく子どもはお尻を拭きません。これはよくないですよね。寝る前の歯磨きも同様に、その目的よりもまずは「寝る前は歯を磨く」というのを生活の中で当たり前にすることが重要だと考えます。
編集部
子どもは夜に歯磨きしないで寝てしまうことも多いと思いますが、やはり起こして歯磨きをさせた方がいいのでしょうか?
竹山先生
これはケースバイケースだと思います。ある程度成長して物心もついている年齢であれば、起こして磨かせるというのもやり方の1つでしょう。ただ、「起きなさい!」と親御さんに怒られながらやらされるほど、子どもは「やりたくない!」と強く思ってしまいます。したがって、言葉でのコミュニケーションが確実にできる6歳頃までは、寝てしまった子を無理に起こしてまで歯を磨かせる必要はないと思います。もしくは、夜ご飯を食べた後、すぐに歯を磨く習慣をつけていただくのがいいでしょう。また、それまでにやらなければならないのは、むし歯になりにくい食生活を心がけることです。
編集部
「むし歯になりにくい食生活」とは、具体的にどのような食生活でしょうか?
竹山先生
むし歯はお口の中にいる細菌の一部が「糖」を主原料に代謝の過程で酸をつくり、この酸が歯を溶かしてしまう疾患です。例えば、親御さんが成長に良かれと子どもに与える果汁ジュースや野菜ジュースには「遊離糖」という糖が含まれます。このような遊離糖を含む飲み物を毎日与えてしまえば、歯磨きをどんなに頑張ってやっても子どもの歯をむし歯から守ることはできません。実際に、アメリカの小児歯科学会では「1歳ぐらいまでは遊離糖を与えるべきでない」と警告しています。子どもの時期は歯磨きも大切ですが、それよりも簡単に遊離糖を与えないことの方が重要なわけです。
子どもの歯磨きはいつから? 赤ちゃんの歯磨き習慣
編集部
子どもの歯磨きはいつ、どのようにはじめたらいいでしょうか?
竹山先生
子どもの歯磨きは、最初の乳歯が生えたらはじめてください。「歯磨き=歯ブラシを使う」と思われがちですが、はじめから硬い歯ブラシをいきなり口の中に突っ込むと赤ちゃんは嫌がります。お口の中は髪の毛1本でも気づくぐらいとても敏感なので、はじめはガーゼで汚れを拭うだけでもいいでしょう。歯ブラシが抵抗なくお口に入れられるようになったら、柔らかめのブラシで磨いてあげてください。
編集部
赤ちゃんの歯磨きをスムーズにはじめられるコツなどを教えてください。
竹山先生
個人差はありますが、最初の乳歯は生後8カ月頃に生えてきます。それまでに清潔な手でお口の周りを触ったりマッサージしたりしながら、お口に物が触れる感覚に慣れさせておくと歯磨きがスムーズにはじめられるでしょう。
理想的な子どもの歯磨きの回数・やり方や歯磨きが苦手な子の対処法
編集部
子どもの歯磨きは、1日何回が理想的ですか?
竹山先生
エビデンスがあるのは1日2回です。時間が決められる、あるいは保育園などに通っているのであれば、お昼を入れて1日3回磨いてもいいと思います。ただし、子どもが磨く場合は、必ず最後に親御さんが仕上げ磨きをするようにしてください。
編集部
仕上げ磨きを効率よくおこなうポイントを教えてください。
竹山先生
子どもの集中力は数分程度なので、「右上から磨く」というように順番を決めてしまうと下の歯を磨く段階で嫌がって終わってしまいます。このようなやり方では、いつまで経っても下の歯が磨けませんよね。したがって、仕上げ磨きをおこなう場合は「朝は右上から」「夜は左下から」「明日は裏側から」というように、スタートの位置をランダムに変えるのがポイントです。こうすると、その回では下の歯を磨けなかったとしても次の仕上げ磨きで磨けますし、どの歯にもくまなく歯ブラシが当てられます。
編集部
歯磨き粉は使った方がいいですか?
竹山先生
はい。フッ素配合の歯磨き粉は、ぜひ使っていただきたいですね。化学成分が気になるという人もいらっしゃいますが、フッ素は海産物などにも含まれており、毎日の食事でも普通にとっている栄養素の1つです。フッ素は唯一、むし歯予防の効果が科学的研究で証明されているアイテムですから、ぜひ毎日のケアに取り入れていただきたいですね。
編集部
子どもが歯磨きを嫌がる場合、どう対処したらいいでしょうか?
竹山先生
子育てに忙しい親御さんには少し耳の痛い話となりますが、歯磨きのやり方よりもお子さんとのコミュニケーションを一度振り返ってみてください。歯磨きの時だけやたら怒っていませんか。さっきまで自由に遊ばせていたのに、いきなり「歯磨きしなさい!」「仕上げ磨きするよ!」と連れ出したり、羽交い締めにして無理矢理磨いたりしていませんか。そうすることにどんな意味があるのか、もう一度よく考えていただければと思います。繰り返しになりますが、子どもの時期は歯磨きを必死にするよりも、むし歯になりにくい食生活を心がける方が大切です。「仕上げ磨きするからこっちに来なさい!」「口を開けなさい!」という前に、子どもにお菓子やジュースを安易に与えていないかも見直してみましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
竹山先生
お子さんの歯の健康や毎日の歯磨きにお悩みの親御さんは多いでしょう。ただ、「むし歯予防=歯磨き」ではないので、子どもが歯を磨かない・磨かせてくれないことにそれほどストレスを感じる必要はありません。子どものむし歯予防については歯磨きよりも食生活や生活習慣の方が重要なことが、最新の研究でも明らかになっています。歯を磨く行為はむし歯予防においてほんの一部にしかすぎないので、肩の荷をおろして別の方面からアプローチしていただければと思います。
編集部まとめ
子どもが歯磨きをしないで寝てしまっても、言葉で意思疎通ができる6歳頃までは無理に起して磨かせる必要ありません。むしろこの時期は、歯磨きよりも正しい食生活や生活習慣を身につけることの方がむし歯予防においてはとても重要です。「むし歯にしたくないから」と歯磨きばかりに力を入れすぎず、間食やジュースの与え方などを見直してみましょう。
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