赤ちゃんにむし歯菌がうつりやすいタイミング「感染の窓」にご用心! 子どものむし歯を防ぐには親の口腔環境から
菌やウイルスは他人からうつるものなので、普通に考えれば自分の内から自然発生することはなさそうです。赤ちゃんや子どものむし歯菌も同様で、おそらくどこかのタイミングで他人からうつされているのでしょう。だとしたら、そのタイミングはいつなのか、うつした相手は誰なのか。今回は、「陽光台ファミリー歯科クリニック」の渡辺先生が、“はじめてのむし歯”のメカニズムを解き明かします。
監修歯科医師:
渡辺 泰平(陽光台ファミリー歯科クリニック 院長)
明海大学歯学部歯学科卒業。明海大学大学院歯学研究科小児歯科分野修了。都内の歯科医院勤務を経た2021年、千葉県木更津市に「陽光台ファミリー歯科クリニック」を開院。10年、20年後の口の健康を守っていくための歯科医院を目指している。歯学博士。日本顎咬合学会認定医、日本アンチエイジング歯科学会認定医、日本健康医療学会認定医。日本小児歯科学会、日本歯内療法学会、日本顕微鏡歯科学会の各会員。
赤ちゃんがむし歯菌をもらう経路
編集部
赤ちゃんは本来、むし歯菌をもった状態では産まれてこないですよね?
渡辺先生
はい。産まれたての赤ちゃんはむし歯菌をもっていません。そのため、いずれむし歯を発症するとしたら、まわりのお子さんや大人から感染が起きているということです。例えば、食べ物の熱を「フーフーして冷ます」ときなど、知らないうちに感染者の唾が飛んでいることも考えられます。
編集部
唾液を介してむし歯菌がうつるということですか?
渡辺先生
そうです。新型コロナウイルス感染症の影響で、感染経路についての理解が深まったと思われます。ただし、むし歯菌のサイズはウイルスに比べて大きいため、「空気感染することはない」とされています。したがって、感染者の唾液を赤ちゃんからいかにして遠ざけるかが重要です。食器の共有やキスはもちろんですが、“頬ずり”などをしながら「近い距離でしゃべること」でもうつる可能性があります。
編集部
とはいえ、無言で赤ちゃんと接するのも非現実的ですよね。
渡辺先生
ですから、「感染ゼロ状態」は難しいかもしれないですよね。やろうと思えば、赤ちゃんの食器とご家族の食器を、分けて管理することはできます。ところが、コミュニケーションは必須でしょうから、食器を完全に分けて管理することの意義が薄れてきますよね。また、むし歯菌そのものを「ゼロ」にする必要もないと思います。
編集部
むし歯になったら、治療すればいいということですか?
渡辺先生
いいえ。「むし歯菌がうつっても繁殖しないような口内環境」を築けばいいということです。「腸内コロニー」という言葉が周知されてきましたが、お口の中にもいろいろな菌は存在し、そのバランスを保てていればむし歯になりません。このことはご家族にも言えて、むしろ、「理想的な口内コロニー」を赤ちゃんにうつしていただきたいですね。むし歯菌の感染を封じるというより、「むし歯になりにくい環境をうつす」方が、コミュニケーションのうえでも現実的だと思われます。
むし歯にかかりやすい「感染の窓」という時期
編集部
そうなると、まず親の側が「理想的なコロニー」を築かないといけないですよね?
渡辺先生
そういうことです。当院では妊娠中のお母さんに、「マイナス1歳からのむし歯予防」というアドバイスをしています。加えて、赤ちゃんにはむし歯になりやすい「感染の窓」と呼ばれている時期があります。具体的には「生後1歳6カ月~2歳6カ月」頃です。そのため、妊娠中から口内環境を整える「口活」に取り組み、お子さんが2歳になる頃には完成させておくのが理想です。
編集部
妊婦健診から先、公的な費用助成のある歯科健診ってないですよね?
渡辺先生
はい。なおのこと「マイナス1歳からのむし歯予防」が重要になってきます。正しい知識をもっていないと、赤ちゃんがむし歯になってから受診されるものの、これでは遅いわけです。我々歯科医師も、妊婦さんに届く情報発信をしていくべきだと考えます。
編集部
ところで、「感染の窓」の時期には具体的な理由があるのでしょうか?
渡辺先生
「乳歯の奥歯が生え揃う頃」なので、奥歯にむし歯菌が定着しやすいからだと思います。大人でも、前歯より奥歯の方がむし歯になりやすいですよね。さらに、「タケノコ」をイメージしていただくとわかりやすいと思いますが、「生え立ての歯」は柔らかく、むし歯菌が出す酸で溶かされやすいのです。そのため、必要によってはフッ素で歯質を整えていきます。
編集部
いっそのこと、1歳くらいから歯科健診を受けさせて、歯科医師にお任せするのも方法という気がしてきました。
渡辺先生
小さい頃からの歯科健診は推奨します。ただし、院内にいる時間よりご家庭にいる時間の方が「圧倒的に長い」ですから、適切なブラッシング方法など自宅でもできるケアを学んでいってください。歯科医師に任せるのではなく、「一緒に頑張りましょう」ということですね。もちろん、見つけたむし歯は歯科医師が治療します。
赤ちゃんがむし歯にならないために大切なこと
編集部
感染のきっかけとは離れますが、甘い物はむし歯菌の大好物ですよね?
渡辺先生
はい。また、甘さを感じるスイーツのほかにも、炭水化物などに含まれる糖分も含まれます。ほか、盲点とされているのが、飲み物に含まれる糖分ですね。できれば、「白砂糖」ではなく、むし歯菌のエサにならない「キシリトール」のような人工甘味料へ置き換えていくのがおすすめです。
編集部
ほかにも、よく言われるのが「ダラダラ食べ」の弊害です。
渡辺先生
おやつや食事の後は口内が酸性に傾くため、むし歯になりやすいタイミングと言えます。そこで、歯磨きや唾液による中和作用が十分に働けばいいのですが、「ダラダラ食べ」だと酸性に傾き続けます。これが、お口にとっては好ましくないのです。おやつの後なら「水ですすぐ」だけでも違ってくると思います。「お口の中を中性に戻す」ことが大切なので、おやつを食べたら逐一、ブラッシングする必要はないです。
編集部
つまり、ダラダラ食べのような家族の行動も子どものむし歯に関係してくるということですよね?
渡辺先生
はい。子どもがむし歯の感染を起こすということは、ご家族がむし歯になっているということです。つまり、生活のどこかに「むし歯菌の増殖を許しているファクター」が潜んでいるのでしょう。なお、お子さんが2人いらっしゃる場合、下のお子さんの方が、年齢的に早くむし歯を発症するようです。おそらく、お兄ちゃんやお姉ちゃんのファクターを“若くして”取り入れてしまっていると思われます。例えば、お兄ちゃんが炭酸ジュースを飲んでいるから「自分も欲しい」といったシチュエーションですよね。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
渡辺先生
総じて、むし歯のない家庭からむし歯が起こることはありません。このとき大切なのが、「むし歯菌を感染させないこと」ではなく、「増殖させてむし歯にしないこと」です。“感染経路を完全に断つ”より、“むし歯に強い家庭をつくる”方が現実的ではないでしょうか。そのためにも、ぜひ歯科医院をご活用ください。その際、親子揃って通うのも1つの手です。
編集部まとめ
赤ちゃんや子どもの「初のむし歯」は、家族のむし歯菌が唾液に乗ってうつることで発症します。しかし、この感染経路を完全に断つことは難しそうです。そこでヒントとなるのが、「仮にむし歯菌をうつされても、むし歯にさせない口内環境」ということでした。加えて、家族ぐるみで「むし歯にさせない生活環境」も整えていきたいですね。
医院情報
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アクセス | JR「君津駅」 徒歩18分 |
診療科目 | 歯科 |