重度のむし歯・歯周病でも歯を残せる! 抜歯しない治療法を歯科医師が解説
むし歯で歯がボロボロ、もしくは歯周病で歯がグラグラして噛めなくなると、「抜歯」の2文字が頭をよぎります。ただ、それでも「抜きたくない!」という場合に、果たして抜歯せずに歯を残すことは可能なのでしょうか。今回は、その具体的な治療法や注意点などについて、「長嶋デンタルオフィス」の長嶋先生に解説していただきました。
監修歯科医師:
長嶋 秀和(長嶋デンタルオフィス)
むし歯や歯周病で抜歯になるのはどんな時?
編集部
むし歯で抜歯になるのは、どのような状態になった時ですか?
長嶋先生
主に、むし歯で歯が溶けて、その大部分が失われてしまった時です。むし歯は進行の状況によってC0~C4の5段階に分類されますが、一般的にC4の段階になると抜歯の可能性が高くなります。より具体的に言うと、むし歯によって歯が大きく崩壊し、歯ぐきの下に根っこの部分だけが残った状態です。
編集部
なぜ、その状態になると歯が残せないのでしょうか?
長嶋先生
その状態で仮にむし歯を治療しても、その後に入れる被せ物が維持できないからです。例えば、ボールペンは細い筒の中に芯を入れ、上から口金をはめて芯を固定します。これを歯に置き換えると、細い筒が「残っている根っこ部分」、芯が「被せ物の土台」、口金が「被せ物」にあたります。ボールペンの口金を筒にはめるためにはネジの部分が必要ですが、被せ物の場合はそのネジ部分が歯ぐきより上に出ていないとうまくはめられません。具体的には、歯ぐきより上に最低でも2mm程度の歯質がないと、被せ物を入れてもすぐに取れたりダメになったりしてしまいます。そのため、歯を残すのは難しくなります。
編集部
では、歯周病で抜歯になるのはどのような状態になった時でしょうか?
長嶋先生
歯周病は進行によって歯の周りの骨が溶けてしまう病気ですが、歯の根っこの先端あたりまで骨がなくなると、歯がグラグラして食べ物が噛めなくなります。したがって、このような状態になると抜歯になる可能性は高いでしょう。しかし、近年は失われた骨を元に戻す治療(再生療法)もあるので、一概に「どのタイミングで」という判断は難しいところですね。骨を治す治療をしても歯を残せない、あるいはお口全体をみたときにその歯がない方がプラスになると判断できる場合は、患者さんと相談しながら抜歯を検討していきます。
重度のむし歯・歯周病でも歯を残す治療法を紹介
編集部
重度のむし歯でも抜歯をしないで残す治療法には、どのような方法がありますか?
長嶋先生
むし歯で歯の大部分がなくなってしまっても、歯ぐきより上にある歯質を増やしてあげれば被せ物をして歯を残すことができます。その具体的な治療法に、「エクストルージョン」と「クラウンレングスニング」という2つの方法があります。
編集部
それぞれの治療法について、もう少し詳しく教えてください。
長嶋先生
エクストルージョンは矯正治療で用いられる手法の1つで、「歯根挺出術(しこんていしゅつじゅつ)」とも呼ばれています。歯ぐきの中に埋もれている根っこを矯正力で上に引っ張り出し、歯ぐきより上の歯質を増やしていきます。一方で、クラウンレングスニングは「歯冠長延長術」とも呼ばれる外科手術の手法の1つです。歯の根っこを覆う歯ぐきや骨を外科的にめくって下げることで、歯ぐきより上の歯質を増やしていきます。
編集部
では、重度の歯周病の場合はどのような方法で歯が残せますか?
長嶋先生
歯周病の場合は、失われた骨などの組織を再生させる「再生療法」によって歯を残せる可能性があります。再生療法とは、骨や組織を治すための材料や成長因子を使って新しい組織ができる「足場」をつくり、自分では治しきれなかったものを補助してあげる治療です。代表的なものに、「骨移植法」「組織再生誘導法(GTR法)」「エムドゲイン」などがあります。
編集部
「骨を再生できる」というのは希望が持てますね。
長嶋先生
そうですね。ただし、あくまで再生療法は「体が治るのを手助けする治療」に過ぎません。治療で得た手助けを頼りに、失われた骨やそのほかの組織を「育てていく」という感覚を忘れないでほしいと思います。そのためには、術者と患者さんが、術部位を丁寧にケアしていくことが大切になります。また、体が元気であることも重要です。日常生活や食生活に気をつけながら、体全体で治すことを意識してほしいですね。
もし「抜歯」と言われたら?
編集部
歯医者さんで「抜歯」と言われた歯でも、抜きたくない場合はどうしたらいいでしょうか?
長嶋先生
まずは、今通っている歯医者さんに「抜きたくない」という気持ちを伝えてみましょう。それでも「残せない」と説明があった場合は、今回ご紹介した治療を実施している歯科医院を探してセカンドオピニオンを求めてみるのも1つの方法です。ただし、抜くか残すかのどちらを選ぶにせよ、どういうメリットとどういうリスクがあるのかをきちんと理解することが大切だと考えます。
編集部
歯やお口の状態によっては、抜歯した方がいいケースもあるのですか?
長嶋先生
基本的に、歯科医師が抜歯をすすめるのは「抜いた方が患者さんにとってプラスになる」と判断した時です。むし歯で使えるところがない歯や歯周病でグラグラの歯は、仮に痛みがなくてもそれが細菌の感染原になって、顎の骨に影響を及ぼすこともあります。また、抜歯を先延ばしにした結果、いざインプラントを入れたくても入れられないということも起こり得ますからね。このような将来的な問題も考えて、歯科医師は抜歯するか残すかを判断していることも知っていただければと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
長嶋先生
歯医者さんに「抜歯」と言われると、不安になる人もたくさんいらっしゃることでしょう。しかし、今は昔と比べると話を聞いてくれるドクターが増えているので、まずはその不安やご自身の要望などを気兼ねなくお話ししてみてください。どんな治療を選択するにしろ、ドクターと患者さんの信頼関係が一番大切だと思います。
編集部まとめ
かつては抜歯になるような歯でも、近年は様々な治療法の誕生によって歯が残せるようになっているとのことでした。「できれば歯を残したい」と希望される場合は、担当歯科医師または今回ご紹介した治療をおこなっている歯科医院にまずは相談してみてはいかがでしょうか。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |