「絶対に残せない歯」とは、どんな状態のこと?
歯の保存治療が成り立たないケースはあるのでしょうか。むし歯なら、削った分だけ詰めるなり被せるなりすれば、成り立つような気がします。それとも、歯を治療して残すことが、むしろ弊害になり得るのでしょうか。保存治療の最新事情を、「横山歯科医院」の横山先生に解説いただきました。
監修歯科医師:
横山 知芳(横山歯科医院 院長)
鶴見大学歯学部卒業。鶴見大学歯学部附属病院医局勤務を経た2008年、父親が神奈川県横浜市に開院した「横山歯科医院」を継承し現職に。戸塚区を中心に老若男女幅広い患者を診ており、とくに、歯の保存を重視する根管治療へ注力している。国際インプラント学会認定医(DGZI)。
該当症例は「歯を失う三大要素」に等しい
編集部
「歯が残せない」症例には、どのようなものがあるのでしょう?
横山先生
歯を失う三大要素として、重度の歯周病、歯の大きな割れ・破損、歯の土台まで侵されたむし歯が挙げられます。これらが、そのまま該当しますね。いずれも「残せない」というより、「残しようがない」ケースです。無理に残すと、弊害すら生じかねません。
編集部
例えば、どのような弊害が考えられますか?
横山先生
歯にかかる力のことを「咬合(こうごう)負担」といいます。例えば、割れた歯をくっつけて戻すとしたら、その歯に過度な力が加わらないようにするべきでしょう。したがって、ほかの歯に咬合負担が分散され、悪影響を招きかねません。抜歯したままの状態にも同じことが言えますね。
編集部
かといって、重度のむし歯や歯周病はどうしようもないですよね?
横山先生
重度の歯周病は歯を支えられませんし、重度のむし歯は歯が土台ごとありません。なにごとにも「絶対」はありえませんが、おおむね「残しようがない」と思います。そうならないようにすることと、他歯への被害拡大を防ぐことが大切ですね。
患者の意向が優先されるために起こりえること
編集部
抜歯はあくまで最終手段で、できれば避けたいです。
横山先生
たしかに、患者さんの多くが「歯を残したい」と希望されます。なかには、合理的な理由のないまま、かたくなに抜歯を否定されるケースも散見されます。医師としては、十分な将来リスクをご説明したうえでの結論なら、患者さんに従うほかありません。
編集部
つまり、「抜歯」が絡んだら、冷静に考えたほうがよさそうですね。
横山先生
はい。最初から結論ありきなのではなく、柔軟に検討してみてはいかがでしょうか。なお、担当医から、抜歯をするかしないか、いずれかの一面しか説明されなかったら、バイアスがかかっていると考えていいでしょう。そのような場合は、「セカンドオピニオン」も有効だと思います。
編集部
そうなると、「絶対に残せない」という言い方自体、偏りがあるのでは?
横山先生
そういうことですね。「残したらこうなる、残さなかったらこうなる」という、2通りの未来があるだけなのでしょう。実際、「では抜きません、使えるところまで使ってください」と申しあげるケースもあります。
編集部
医師としては説明をした上で適切な治療をしてあげたいが、最終的には患者が判断を下すということですか?
横山先生
医師が重視するのは、医学に基づいた判断です。ところが、患者さんからしたら必ずしもそうではなく、「自分の歯がいい」「施術が怖い」「費用をかけたくない」などさまざまな要素が加わります。この2つの考え方が、どこで折り合うかですよね。
考える材料としての「歯の役割」
編集部
じつは、「歯を残すことの重要性」がわかっていません。あるのに抜くのは“もったいない”くらいの意識です。
横山先生
主に問われるのは、歯の清掃性です。慣れ親しんだ口内環境のほうが、ブラッシングをしやすいですよね。被せ物によってできた溝や、抜歯跡にぽっかり空いた隙間の周辺は、どうしても磨き残しが生じます。つまり、歯を失うリスクがさらに高まるということです。
編集部
ほかにも、歯を抜くと「歯列が乱れる」とも聞くのですが?
横山先生
その通りです。歯の抜けた跡を埋めるように、他の歯が移動してくるかもしれません。加えて、抜けた部分に対抗する歯が伸びてくることも考えられます。そうなると、ますますお手入れがしにくくなるでしょう。
編集部
歯を何本も失うと、どのような不都合が起きそうですか?
横山先生
一般には、「軟らかい食べ物しか受け付けられず、栄養バランスが偏る」と言われています。しかし、個人的には少し違った印象をもっています。歯がなくても、お肉などを食べるご高齢者はいらっしゃいますよ。人間の対応能力は素晴らしいです。
編集部
それは驚きです。一般的には早い段階から入れ歯やインプラントなどで補うべきですか?
横山先生
そう、単純な話ではないと思います。そもそも、むし歯や歯周病にならないような環境づくりも大切で、ただ、「なくなったものを埋めればいい」というわけではありません。1本の歯が悪くなるということは、おそらく、ほかの歯もそうなりかけているということです。抜歯に至った原因を、一緒に考えていきましょう。
編集部まとめ
「歯を残せるか残せないか」は、むし歯、歯の割れ・欠け、歯周病の度合いで決まります。それと同時に、「歯を残したいか残したくないか」という患者側の“希望”にも左右されそうです。希望の範囲であればいいのですが、わがままや意地であってはならないでしょう。そもそも、“そうなるまで放置すべきではない”という話でもあります。歯の役割を十分理解し、早期発見と早期治療開始に努めてください。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |