「冷たいものが歯にしみる」のは知覚過敏? 歯医者に行くべき?
冷たいものを食べたり飲んだりすると、歯がしみる。そんな悩みを抱えている方も多いと思います。しばらく経つと症状がおさまるため、わざわざ歯医者へ行くまでもないと考えているかもしれませんが、果たして、本当にそうでしょうか?それは「知覚過敏」なのかもしれません。実際のところを医療法人修愛会上前津歯科医院の今井健二先生にお聞きしました。
監修歯科医師:
今井 健二(医療法人修愛会上前津歯科医院 院長)
朝日大学歯学部卒業、朝日大学大学院歯学研究科修了。朝日大学歯学部歯周病学講座非常勤講師を経て、医療法人修愛会上前津歯科医院に勤務。2002年同院院長就任。「患者様と一緒に治す」を基本に、誰もが安心して治療を受けられるよう心がけている。特にインプラント、審美歯科、歯周病の治療に力を入れており、CTスキャナや手術室のほか3D技工製作機を備えた技工室を併設。さらに、咬合診断装置や口腔内スキャナも揃え、矯正の診断及び補綴処置もワンストップで行える。
冷たいもので歯がしみるのは、なぜ?
編集部
そもそも、なぜ冷たいものを食べたり飲んだりすると、歯がしみるのですか?
今井先生
もし冷たいものが歯にしみていたら、「知覚過敏」のサインです。歯には象牙質と呼ばれる部分があり、一般に知覚過敏はそこが露出している場所に起きやすいとされています。正しくは、「象牙質知覚過敏症」と言います。歯周病や歯ぐきが下がってしまっていたり、歯ぎしりをしていたり、噛み合わせが悪くて歯に負担がかかっていたりすると、歯の根元にある「象牙質」が露出してしまい、それが原因で知覚過敏が起こるのです。
編集部
象牙質知覚過敏症の症状には、どのようなものがありますか?
今井先生
冷たいものを飲食したときにキーンとしみるほか、甘味や酸味も刺激になります。また、食べものだけでなく、歯磨きのときに歯ブラシの毛先が触れたり、冷たい風に当たったりすることも、しみる原因になります。
編集部
キーンとしみるのは一過性のものなので、つい放置してしまいます。歯科医の診察を受けなくても良いのでしょうか?
今井先生
知覚過敏の痛みはずっと続くわけではなく、治まることもあるため、放置している人も多いと思います。しかし、自分でむし歯による痛みなのか、むし歯ではなく知覚過敏の症状がでているのかを判断することは難しいので、症状が出た場合は、必ず診察を受けましょう。
歯周病や加齢のほか、酸っぱい食べものも知覚過敏の原因に!?
編集部
知覚過敏が起こる主な原因はなんですか?
今井先生
一番大きな原因は、歯肉炎と歯周病です。歯肉炎とは、歯の周囲にある歯ぐきが腫れている状態のこと。一方、歯周病とは、歯肉炎の状態が悪くなり、歯の支えとなっている骨まで溶かしてしまう病気です。それに伴って歯ぐきも下がっていきます。 こうした炎症を繰り返すことが、知覚過敏を引き起こす最大の要因となります。
編集部
歯周病や歯肉炎のほか、知覚過敏の原因にはどのようなものがありますか?
今井先生
適切ではない歯ブラシの使いかたをしたために、歯の根っこ(歯根/しこん)の部分がすり減ってしまった場合、知覚過敏が起こります。また、歯肉(歯ぐき)がやせて下がってしまう場合もあります。これは特に、加齢によって引き起こされるケースが多く、歯肉の位置は年齢とともに少しずつ下がっていきます。それに伴って歯の根っこが露出し、象牙質がむき出しの状態になって、歯ブラシが触れたり、冷たいものを飲食したりといった刺激で痛みを感じやすくなるのです。
編集部
そのほかにも原因はありますか?
今井先生
アクシデントなどで歯をどこかにぶつけて歯が折れたり、割れたり(破折)して、象牙質が表面化すると、知覚過敏の症状が起きることがあります。また、歯のエナメル質は酸性食品でもダメージを受けることがわかっており、pH5.5程度で溶け始めます。そのため、酸度の強い炭酸飲料を長時間かけて飲んだり、酸っぱい飲みものや食べものを頻繁に、かつ長時間、摂取したりする習慣があると、歯が溶けて内部の象牙質が露出してしまいます。
編集部
すると、酸っぱい飲みものや食べものは控えた方がいいのですか?
今井先生
いいえ、酸っぱい飲みものや食べもの自体が悪いのではなく、口のなかで酸が滞在している時間が長いのが良くないのです。そのため、酢のものやレモンなど、酸味の強いものを食べたあとは、お茶や水をひと口飲むか、あるいは、食後に歯磨きをしたり、口をすすいだりすると良いでしょう。
編集部
むし歯治療をしたあとに、キーンとしみやすくなることがあります。それも知覚過敏の一種でしょうか?
今井先生
むし歯治療をしたその歯に、知覚過敏の症状が出ることもあります。歯を削る処置をしたため、歯の神経が痛みを感じやすくなってしまうのが原因です。しばらく経過を見ていると、自然と知覚過敏がなくなる場合もありますが、もしなかなか治まらない場合は、再治療を行ったり、神経を取り除く治療をしたりすることもあります。2〜3日様子を見て治らない場合は、再度診察を受けると良いでしょう。
編集部
ホワイトニング治療を行ったあと、しみやすくなることもありますか?
今井先生
一時的にホワイトニング治療を受けた人が、軽めの知覚過敏になることはあります。この場合、原因はホワイトニングで使う薬剤にあります。ホワイトニングを1〜2日間、中断すれば症状は消えていくでしょうし、ホワイトニングを終えれば、知覚過敏も起こらなくなるので心配はありません。ただ、もしどうしても気になる場合は、歯科医に相談して、使用する薬剤を変えてもらったり、濃度を調整してもらったりすることもできます。
知覚過敏の治療方法
編集部
知覚過敏の症状を抑える方法は?
今井先生
神経が過敏になった状態を抑えてくれる成分入りの歯磨き剤を使うほか、あらわになっている象牙質を保護する治療を行うのが一般的です。象牙質に空いたたくさんの小さい穴を塞ぎ、神経に感覚を伝えさせなくすることで、知覚過敏の症状を抑えます。
編集部
「神経の過敏状態を抑える成分」とは、具体的にどのようなものですか?
今井先生
フッ素やカリウムです。どちらも歯の再石灰化を促す働きがあり、象牙質が露出した部分からしみにくくし、歯の表面に刺激が伝わりにくくしてくれます。
編集部
症状が酷くなった場合は、どのような治療が考えられますか?
今井先生
樹脂の薄い膜で象牙質の表面を覆って保護する治療や、歯の擦り減った部分に詰めものをする治療もあります。もっと症状が酷い場合には神経自体を取り除く「根管治療」(こんかんちりょう)が行われることもあります。いずれにしても、現在の状態を悪化させないようにすることが大切です。噛み合わせの悪さが原因になっているなら、まずは噛み合わせを調整した方が良いでしょうし、また、歯周病が原因なら歯周病の治療が必要です。
編集部
治療をせずに放置すると、どのようになるのですか?
今井先生
知覚過敏を発症すると、歯がしみるために歯磨きが十分にできなくなる。その結果、歯垢は蓄積してしまいます。そうなると、蓄積した歯垢は、そこに潜む細菌が酸を出しますから、露出した象牙細管は余計に広がって刺激を感じやすくなり、痛みもさらに増してしまいます。こうした悪循環を断ち切るためにも、早めに治療を行うことが大切です。また、「刺激になる冷水やお湯を極力避ける」「酸っぱい食べものや飲みものをとったときには水を飲むなどして、口のなかを洗い流す」「多量に研磨剤を含む歯磨き剤の使用を控える」「歯磨きの際には強くブラッシングしない」などの習慣づけも大切になります。これらは、象牙知覚過敏症の再発や悪化防止のためには、とても大切な心がけです。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
今井先生
知覚過敏かなと思ったら、まずは歯科医に相談しましょう。知覚過敏の原因はさまざまなので、最初の見極めが肝心です。迅速に対処すれば、軽度のうちに治すことが可能です。また、口のなかに細菌が多いと知覚過敏が起きやすいことがわかっているので、むし歯がなくても定期的に検診を受けたり、歯のクリーニングを行ったりすることも大切です。できるだけ、口腔内を清潔に保つ努力をしましょう。
編集部まとめ
「冷たいものがしみる」のは日常的なことであっても、もしかしたら知覚過敏のサインかもしれません。そのサインを見逃さず、早めに歯科医の診断を仰ぐことが悪化させないための第一歩です。早期発見、早期治療を心がけるようにしましょう。
医院情報
所在地 | 〒460-0011 愛知県名古屋市中区大須4-11-17 |
アクセス | 地下鉄名城線「上前津駅」徒歩0分 地下鉄鶴舞線「上前津駅」徒歩0分 |
診療科目 | 一般歯科、審美歯科、インプラント・口腔外科 |