目に見えないレベルのむし歯って、どうやって発見するの?
むし歯菌をはじめとする菌の大きさは、光学顕微鏡を使ったとしても、見えるかどうかというレベルです。そうなると、ミクロの世界で発生する初期むし歯が“見逃されていた”としても、不思議ではありません。果たして、むし歯は目に見えてからしか処置できないのでしょうか。そこで、「黒木歯科医院」の黒木先生に、最新事情を伺いました。
監修歯科医師:
黒木 克哉(黒木歯科医院 院長)
大阪歯科大学卒業。その後、父親が開院した現・医療法人「黒木歯科医院」に勤務。2010年、院長継承とともに、法人化に伴い同理事長就任。現在、大阪歯科大学附属病院口腔インプラント科に在籍し、米国インディアナ州立大学歯周学インプラント科教授を兼任。歯学博士。日本口腔インプラント学会認定専門医。
むし歯菌の副産物を検知する
編集部
通常、むし歯は目で見て発見しているのですよね?
黒木先生
多くのケースでは“医師の目”ですが、専用の検査機器も開発されています。約30年前から使用されている「ダイアグノデント」というレーザー光を使ったむし歯の測定装置が代表例です。しかし当院では、より精度の高い「ビスタカム」や「ダイアグノカム」という新しい技術の検査機器を導入しています。
編集部
機器によるむし歯の発見は、効率化や見逃し回避が目的でしょうか?
黒木先生
むしろ、検査機器を使用すると時間がかかるので、効率化ではないですね。主たる目的は「早期発見」です。むし歯は、ごくごく小さな菌による“悪さ”ですので、「目に見えない」変化から始まっていきます。これを「隠れむし歯」と言います。つまり、目に見える段階まで進行してしまったら初期とは言えません。歯に崩壊が起こっているということです。
編集部
患部の変化を拡大して、精密に調べているのですか?
黒木先生
患部の変化ではなく、むし歯菌がつくりだす“化学物質”を検知しています。このことにより、マイクロスコープで見るよりも高精度な精度を実現しています。ちなみに、ビスタカムは歯の表面を、ダイアグノカムは歯の中を調べられる検査機器です。
編集部
目による発見よりも早いことのメリットは?
黒木先生
歯を削らず、特殊なガスやお薬で治療できる可能性が高まります。ただし、痛みなどの自覚を伴わない段階なので、積極的かつ自主的な検査が前提になります。定期メインテナンスやほかの歯の治療といったタイミングで、有効活用してください。
予防しているつもりでも、実はできていない可能性
編集部
ビスタカムとダイアグノカムの違いについて、詳しく教えてください。
黒木先生
前述のように、ビスタカムは化学物質を検知して、むし歯菌を可視化できます。また、「化学物質の量と初期むし歯の進行具合」の関係が、膨大な臨床データから明らかにされています。数値化して示されますので、誤診や見逃しの可能性は極めて少ないといえるでしょう。
編集部
続いて、ダイアグノカムについてもお願いします。
黒木先生
ビスタカムは、削っていない歯の表面の検査に有効です。他方のダイアグノカムは、被せ物や詰め物の隙間から内部に進行しているむし歯を検知できます。そのことにより、その内側で起きているむし歯が診断できるのです。また、外見からはわからない「歯と歯の境目」や「歯と詰め物の境目」にできたむし歯も発見できます。
編集部
目に見えない内部を調べる場合、すでにX線撮影検査がありますよね?
黒木先生
X線撮影の造影診断は精度があまり高くないですし、結局は医師の目による判断です。対するビスタカムやダイアグノカムは数値で表すので、ヒトの主観が介入しません。医師によって診断結果が異なることもないはずです。ダイアグノカムは特殊なレーザーにより、レントゲンでは見えないものを見せてくれます。
編集部
発見率は、当然にして上がりますか?
黒木先生
上がりますね。他院で毎月定期メインテナンスを受けていた人ですら、当院で検査すると、複数本の“見えない”むし歯が発見されます。やはり、肉眼の診断には、限界があるのではないでしょうか。もはや、「穴が空いてから削る」のではなく、「傷の段階で治して再石灰化を待つ」時代という実感があります。これが真の「予防歯科」だと思います。
費用体系は、医療機関によって異なる場合も
編集部
低侵襲ではあるものの、時短にならないのですよね?
黒木先生
発見に割く時間は、むしろ肉眼よりかかります。ですから、検査機器を使うかどうかは、患者さんに確認しています。時間がなくて忙しいという人もいらっしゃいますからね。
編集部
機器での検査に特別な費用はかかるのですか?
黒木先生
医院によってまちまちだと思います。当院の場合、“診断時”の特別な費用はいただいておりません。ただし、その後の「削らない治療」の内容によっては、自費扱いになることがあります。具体的には、ガスやお薬を使った特殊な治療などです。
編集部
早期発見できたけど、「痛くないからいいや」という患者はいないのですか?
黒木先生
おおまかな当院比ですが、8割くらいの患者さんは治療へ進まれます。保護者がお子さんを連れてくるケースでは、ほぼ100%です。このようなケースは紹介が多いので、もともと早期治療開始の意識を高くもっていらっしゃるのでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
黒木先生
「むし歯が目で見当たらない」=「むし歯菌がいない」ではありません。むしろ、「お口の中にむし歯菌がいるのは当たり前」くらいの認識で、デンタルケアを考えていただきたいと思います。
編集部まとめ
穴が空いて痛くなったから「むし歯」なのではなく、ミクロの世界で始まった段階からすでに「むし歯」です。その兆候は、むし歯菌の副産物である化学物質で探知できます。まさか、被せ物の内側や歯と歯の隙間も調べられるということにビックリです。また、この段階なら、歯の再石灰化によって、いずれ元に戻るとのことでした。重篤化への片道切符ではない点も嬉しいですね。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |