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クリプトスポリジウム症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

クリプトスポリジウム症の概要

クリプトスポリジウム症は、クリプトスポリジウムという寄生虫の卵 (オーシスト) を経口摂取することで感染する疾患です。感染源には汚染された水や食品、動物との接触が含まれます。オーシストは塩素消毒に耐性があり、環境中で長期間生存するため、公共水道やプールを介した感染も報告されています。
潜伏期間は1週間程度で、水様性下痢、腹痛、倦怠感、食欲不振などの症状が現れます。免疫不全患者では慢性化・重症化しやすく、HIV感染者では胆道や呼吸器への感染による重症化が報告されています。

診断は主に便検査で行われ、治療は脱水を防ぐための支持療法が基本です。重症化リスクが高い場合には未承認薬の使用も検討されます。

特に畜産業従事者や流行地域への渡航者、免疫不全患者は感染リスクが高いほか、免疫不全状態の患者は重症化リスクが高いです。手洗いのほか流行地域では生水・水道水を飲まないことが感染予防の基本です。

クリプトスポリジウム症の原因

クリプトスポリジウム症はクリプトスポリジウムという寄生虫が原因となる感染症です。クリプトスポリジウム症のオーシスト (接合子嚢) シスト (嚢子) を経口摂取することで感染します

2006年から2013年までに国内で報告された100例の原因のなかで多かったのは、牛との接触が32例、海外渡航に関連するものが27例、男性間の性的接触が11例、食品が原因のものが4例というでした (参考文献 1, 2) 。

クリプトスポリジウムのオーシストは塩素消毒に耐性があり、通常の塩素濃度では死滅しません (参考文献 2) 。オーシストは環境中で長期間生存できるため、水源や食品の汚染が拡大するリスクが高いとされています。
日本国内で最も大きな集団感染事例も水道水を介したもので、1996年に埼玉県で水道水を介して地域住民の約7割にあたる8800人が発症したことがあります (参考文献 2) 。その他にも貯水槽や水泳用プールなどの水系感染事例が散発しています。

クリプトスポリジウム症の前兆や初期症状について

平均して一週間前後の潜伏期間の後、頻回の水様性の下痢、腹痛、倦怠感、食欲低下、嘔気嘔吐というような消化器症状で発症します (参考文献 1-3) 。

一般的には2週間程度で自然治癒しますが、免疫が低下している人では症状が長引き、慢性化・重症化することがあります。

特にHIV患者や免疫抑制剤を使用している患者では、クリプトスポリジウム症によって最悪死亡します。通常はクリプトスポリジウムの感染は小腸に留まりますが、HIV患者では胆道系や呼吸器系へのクリプトスポリジウムの感染が起こることもあり、重症化しやすいです (参考文献 3) 。

畜産業に携わる方や、海外渡航後の方で激しい下痢を発症した場合には、お近くの内科を受診してください。特にHIV感染者や免疫抑制剤を使用している場合には重症化リスクが高いため、早めに受診してください。

クリプトスポリジウム症の検査・診断

クリプトスポリジウム症の診断は、主に便検査で行われます。顕微鏡で糞便中のオーシストを探すほか、近年では蛍光抗体法や最近ではPCR検査が感度の高い診断法として利用されることがあります (参考文献 1,2) 。

クリプトスポリジウム症の治療

クリプトスポリジウム症の治療は症状を改善するための対症療法が中心です。脱水症状を防ぐための経口補水液や点滴を用いた補液が基本となります (参考文献 1, 3)。もともとの背景疾患がない場合には特別な治療を行わなくても自然治癒することが多いです。

重症例や免疫不全患者では、ニタゾキサニドという抗寄生虫薬が有効とされていますが、日本では未承認のため使用が限られています (参考文献 1, 3) 。この薬剤を使用する場合、専門機関に相談したうえで輸入して調達します

HIV感染や免疫抑制剤などで免疫不全状態にある患者は、免疫機能の回復を並行して行います。HIV感染している場合に発症してもHIV治療薬の中断はしないでください。

クリプトスポリジウム症になりやすい人・予防の方法

日本での感染原因の報告からは、畜産業に従事する人アジア地域 (特にインド) やラテンアメリカなどの流行地域に渡航する人で特に感染リスクが高いと考えられます。
2006年から2013年までの報告のなかで原因が不明とされた症例は100例中24例で、原因不明の24例のうち7例は基礎疾患や免疫不全状態であったとされています (参考文献 2) 。したがって免疫不全の背景がある場合には健常者と比較して感染リスクも高い可能性があります。免疫不全状態の方は重症化リスクが高いため、特に予防に気を遣う必要があるといえるでしょう。

経口感染する感染症対策の基本である手洗いや、海外渡航する際にペットボトル飲料のみ飲用することはクリプトスポリジウムにも有効です。特に哺乳動物と触れ合ったあとには念入りに手を洗いましょう。

クリプトスポリジウムは非常に感染力が強く、130個程度のクリプトスポリジウムを摂取することで半数の人が発症するとされています (参考文献 3) 。オーシストの感染力は数ヶ月維持されるほか、塩素消毒にも抵抗性であるために通常の浄水処理で完全に除去しきるのが難しいのが現状です。ここは個人の感染リスクと生活様式のバランスにはなりますが、重症化リスクが高い場合には流行地域でのプールを含む水周りでのアクティビティについて検討しなおしてもよいかもしれません。

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