監修医師:
伊藤 規絵(医師)
目次 -INDEX-
周期性四肢麻痺の概要
周期性四肢麻痺は、発作的に四肢の筋力低下や麻痺を引き起こす疾患群であり、主に血清カリウムの異常によって分類されます。この病気は大きく二つのタイプに分けられ、高カリウム性周期性四肢麻痺(Hyperkalemic periodic paralysis:HyperPP)と低カリウム性周期性四肢麻痺(Hypokalemic periodic paralysis:HypoPP)があります。原因には遺伝性と二次性があります。遺伝性周期性四肢麻痺は、主に遺伝子変異によって引き起こされます。HyperPPは、SCN4A遺伝子の変異が原因で、ナトリウムチャネルの機能異常を引き起こします。一方、HypoPPは、CACNA1SやSCN4A遺伝子の異常によるものが多く、これらは骨格筋の収縮に必要なカルシウムチャネルやナトリウムチャネルに関連しています。特に、HypoPPの場合は甲状腺機能亢進症などの内因性要因による二次的な発症も多く見られます。
発作は通常数時間から数日続き、筋肉の脱力感が特徴です。発作中は、手足が左右対称に麻痺し、時には顔面や呼吸筋にも影響を及ぼすことがあります。HyperPPの場合、発作は20歳以下で初めて発生することが多く、運動後や寒冷環境で誘発されることがあります。診断は主に問診と血液検査によって行われます。血液中のカリウム濃度を測定し、発作時には低カリウムの場合0.9〜3.0 mEq/L、高カリウムの場合5.0 mEq/L以上であることが確認されます。また、遺伝子検査も行われることがあります。治療は発作急性期と間欠期で異なります。急性期にはカリウム製剤を用いて治療し、重症例では点滴での投与が必要です。間欠期には生活指導や薬物療法が行われます。また、二次性周期性四肢麻痺の場合は、その原因となる病気の治療も重要です。
周期性四肢麻痺の原因
大きく遺伝性と二次性に分かれます。
遺伝性周期性四肢麻痺
主にCACNA1SおよびSCN4A遺伝子の変異が関与しています。CACNA1S遺伝子はカルシウムチャネルに関連し、筋肉の収縮に必要なカルシウムイオンの輸送を担っています。HypoPP type1型に関連しています。主に常染色体顕性(優性)遺伝の形式を示し、患者さんの約60%がこの型に該当します。一方、SCN4A遺伝子は骨格筋型電位依存性ナトリウムチャネルに関連し、筋細胞膜の興奮性の伝達に重要です。HypoPP type2型やHyperPPに関連しています。具体的には、p.T704Mやp.M1592Vといった特定の変異が頻繁に報告されていますが、これらの変異は筋肉の正常な機能を妨げ、発作を引き起こします。また、稀に両親が変異を持たない場合でも突然変異として発症することがあります。
二次性周期性四肢麻痺
ほかの疾患や薬剤によって引き起こされることが多いようです。特に、甲状腺機能亢進症による低カリウム血症が一般的な原因であり、この状態が筋肉の脱力を引き起こします。また、腎不全や消化管疾患もカリウム濃度に影響を与え、周期性四肢麻痺を誘発することがあります。利尿薬などもカリウム排泄を促進し、この病態を悪化させる要因となります。
周期性四肢麻痺の前兆や初期症状について
HyperPPでは、発作が始まる前に特定の前兆が見られることがあります。これには、筋肉のこわばりや軽度の脱力感が含まれます。発作は通常、運動後や寒冷環境で誘発されやすく、特にカリウムを多く含む食物を摂取した後に発生することが多いようです。発作は短時間(数十分から数時間)で収束しますが、その間に筋力低下が進行し、特に下肢に影響を及ぼすことが一般的です。HypoPPの場合、発作は主に早朝や夜間に発生しやすい傾向があります。前日の過剰な炭水化物摂取やアルコール摂取、または激しい運動が引き金となることがあります。初期症状としては、体の重さを感じることや、動きづらさがあり、特に起床時に身体が動かないといった典型的なエピソードが報告されています。これらの症状は数時間から数日間持続することがあります。
周期性四肢麻痺の病院探し
内分泌内科や脳神経内科(または神経内科)の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。
周期性四肢麻痺の検査・診断
問診
患者さんの病歴と臨床症状を詳細に評価することから始まります。発作の頻度、持続時間、誘因(運動、食事、ストレスなど)を確認します。
血液検査
発作時には血清カリウム濃度を測定し、低カリウム性の場合は0.9 mmol/L〜3.0 mEq/L、高カリウム性の場合は5.0 mEq/L以上であることが確認されます。また、甲状腺機能亢進症が疑われる場合には、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、フリーサイロキシン(F-T4)、フリートリヨードサイロニン(F-T3)の測定も行います。
筋電図(Electromyography:EMG)
発作間欠期および発作中の筋肉の電気的活動を評価するために使用されます。非発作期に脱力の残る患者さんは筋原性変化(早期動員や複合筋活動電位(Compound Motor Action Potential:CMAP〜筋肉が収縮することで記録される電位)の振幅低下)を示します。発作時には運動単位電位の減少や消失が見られることがあります。また、特異的運動負荷試験(エクササイズテスト)によって発作の再現や筋機能の評価を調べることも有効です。このテストでは、軽い負荷から始め、徐々に負荷を増加させます。その後の筋電図で異常(CMAPの振幅・面積の低下)が確認されることがあります。
遺伝子検査
CACNA1SやSCN4Aなどの遺伝子変異を特定することで、HyperPPまたはHypoPPの確定診断が可能になります。ただし、日本国内では実施できる施設が限られています。
Andersen-Tawil症候群(ATS)
周期性四肢麻痺、心不整脈、特異な骨格(低身長)および顔貌の異常(両眼隔離(目の間隔が広い)、広鼻根(鼻根部が広い)、下顎低形成(下顎が小さい)など)を特徴とする稀な遺伝性疾患です。この症候群は、主にKCNJ2遺伝子の変異によって引き起こされ、常染色体顕性遺伝(両親から50%の確率で遺伝する)のパターンを示します。通常、4歳から18歳の間に発症し、血清カリウム濃度は低下することが多いようですが、正常または高値を示すこともあります。発作は数時間から数日続くことがあり、特に運動後や安静時に誘発されることがありますが、高炭水化物食では誘発されません。
周期性四肢麻痺の治療
発作の種類(高カリウム性または低カリウム性)に応じて治療が異なります。また、適切な生活指導も重要です。
HypoPP
発作時にはカリウム製剤の投与が行われます。具体的には、アスパラK散やグルコン酸カリウム、塩化カリウムなどを体重1kgあたり0.2〜0.4 mEqの量で経口または経管で投与します。この際、消化管に問題がある場合は、経静脈的なカリウム投与も考慮されます。また、発作中は心電図モニタリングを行い、不整脈の発生に注意が必要です。
HyperPP
多くの場合は軽度の発作であるため、経過観察が選択されることが一般的です。しかし、重度の発作や心電図に異常が見られる場合には、カルシウム製剤(例:グルコン酸カルシウム)を静脈注射することがあります。また、炭水化物食(ブドウ糖など)の摂取が発作を軽減することもあります。気管支拡張薬(サルタノール〜筋肉細胞内にカリウムを移動させる作用があり、血清中のカリウム濃度を低下させる)や糖質コルチコイド(腎臓においてナトリウム再吸収を促進し、同時にカリウムの排泄を促す)も使用されることがあります。
発作間欠期
再発を防ぐための予防的な治療が重要です。
アセタゾラミド
この炭酸脱水酵素阻害薬は、両方のタイプに対して使用されることが多く、発作の頻度を減少させる効果があります。ただし、一部のHypoPPでは逆に症状が悪化することがあります。
アルダクトンA(スピロノラクトン)
HypoPPの場合には、この薬剤が使用されることがあります。これは利尿剤であり、アルドステロン拮抗薬として分類されカリウムの排泄を抑制し、体内のカリウム濃度を維持する役割を果たします。
フルイトラン
腎臓の遠位尿細管においてナトリウムの再吸収を抑制し、カリウムの排泄を促進する利尿剤です。HyperPPに対しても使用されることがあります。患者さんには生活習慣に関する指導も重要です。激しい運動や寒冷環境は発作を引き起こす可能性があるため、これらを避けるよう指導します。HypoPPの場合は高炭水化物食、HyperPPの場合は低炭水化物食を心掛けることが推奨されます。
周期性四肢麻痺の対処法
遺伝性周期性四肢麻痺は厚生労働省の特定疾患(指定難病)に指定されており、治療費の助成を受けることができます。
周期性四肢麻痺になりやすい人・予防の方法
特定の遺伝的要因や環境要因によって発症しやすい疾患です。環境要因も発症リスクに影響を与えます。特に激しい運動後に発作が起こることが多く、運動量の調整が必要です。また、寒さによって症状が悪化することがあり、温かい服装や環境調整が推奨されます。高炭水化物食やアルコール摂取も発作を誘発する可能性があります。予防方法は、低炭水化物高カリウム食を心掛けることで、HypoPPの発作を予防できます。また、カリウムを豊富に含む食品(バナナやほうれん草など)を積極的に摂取することも有効です。