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大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

成人スチル病の概要

成人スチル病はマクロファージという免疫細胞が暴走してしまうことによる病気です。
2010年の調査では日本において4,760人程度の患者がいるとされています (参考文献 1) 。
主な症状は体温が短期間で上下するスパイク熱発熱しているときの皮疹関節痛の3つですが、これらの症状が出る前に咽頭炎症状を自覚する人も多いです (参考文献 2) 。
診断には詳細な病歴聴取が一番重要です。血液検査や関節の検査の結果なども総合して、他の感染症や膠原病を除外した上で成人スチル病の診断がされます (参考文献 2) 。
治療では比較的高用量のステロイドを使いながら、症状の経過にあわせて用量の調整、他の薬剤の追加をしていきます (参考文献 1) 。

成人スチル病の原因

成人スチル病の原因はよく分かっていませんが、免疫細胞のひとつであるマクロファージが、無秩序に活性化してしまうことが原因なのではないかとされています (参考文献 1, 2) 。

マクロファージが活性化すると「サイトカイン」という炎症を引き起こす物質が放出されるのですが、無秩序に活性化したマクロファージが大量のサイトカインを放出することが、成人スチル病の病態の軸になっています。

このマクロファージの活性化には、一部のウイルス・細菌感染症や悪性腫瘍が関連するのではないかと言われていますが、そのメカニズムは不明な部分が多いです。

成人スチル病の前兆や初期症状について

代表的な症状は発熱・皮疹・関節痛の3つです。

発熱は最初に出ることが多い症状で、体温の推移が特徴的です。ずっと高い体温が続くというよりは、体温が高くなって低くなってというサイクルを、1日あるいは2日程度のサイクルで繰り返すような熱で「スパイク熱」とも呼ばれます。体温は4時間で4℃変化するといったような、普通の風邪とは考えにくいような劇的な変化をすることもあります (参考文献 2) 。

体温上昇とともに出現し体温が下がると消退する、サーモンの身のような淡いピンク色の発疹 (サーモンピンク疹) という症状も特徴的です。一般的に痒みはなく、体幹と四肢に現れることが多いです (参考文献 2) 。

関節痛は、初期には少数箇所の軽度で一時的な関節痛という程度ですが、進行してくると多くの関節に強い痛みが現れてきます (参考文献 2) 。

この他にも重度の咽頭炎を併発する患者が多いことが知られており、発熱や発疹よりも先に咽頭炎の症状が出ることもあります (参考文献 2) 。

感染症をはじめとした他の疾患と区別することが難しい疾患でもありますが、成人スチル病の咽頭炎や発熱は患者さん本人にとっては非常に辛い症状でしょう。成人スチル病か否かに関わらず、早めに近くの内科を受診して経過を追っていくことで、早めに正確な診断・治療にたどりつくことが一番かと思います。

成人スチル病の検査・診断

病歴の詳細な聴取が最も重要です。喉の痛み、体温の経過、皮疹が酷くなった・軽くなったタイミング、痛くなった関節の場所や程度などの情報を、落ち着いて整理しながら医師に教えてください。
成人スチル病では他にも様々な症状が出ることが知られています。ご自身で関係ある症状なのかどうか判断することは困難かと思いますので、気になる症状があれば遠慮せず担当の医師へ伝えてください。

検査では、血液検査で炎症反応やフェリチンとよばれるマーカーが上がっていないか確認するほか、関節炎の症状がある場合には、感染や炎症のもとになる結晶の有無を、関節内の液を採取して確かめることがあります (参考文献 2) 。

これらの情報を総合し、感染症や悪性腫瘍、他のリウマチ性疾患を除外したうえで、基準を満たす場合に成人スチル病と診断されます。

成人スチル病の治療

日本においては、まずは高容量のステロイドをもちいて炎症を抑えていくという戦略が主流です (参考文献 3) 。治療と症状の経過を観察して、ステロイドを少しずつ減らしていきます。
ステロイドの効果が不十分であったり、減量していく過程で症状が再燃する場合には短期間に点滴で大量のステロイドを投与するステロイドパルス療法が検討されます (参考文献 3) 。

ステロイドを長期間・高容量で使用すると骨粗鬆症や高血圧、血糖値のコントロールがうまくいかなくなってしまう (耐糖能異常) といった副作用のリスクもあるので、ステロイド減量していく段階でメトトレキサートという薬剤を追加して、症状の経過を見ながらステロイドを徐々に減量していきます (参考文献 3) 。

また、メトトレキサートやシクロスポリン、TNF阻害薬、トシリズマブといったステロイドとは別のメカニズムで免疫反応を抑える作用のある薬剤は、ステロイドでは炎症のコントロールができない症例では、治療の主軸になることもあります (参考文献 3) 。

成人スチル病になりやすい人・予防の方法

2010年の日本における調査では、成人スチル病の患者は男性に比べて女性の方が少し多いことや、平均発症年齢が46.5歳と、比較的若い年齢層での発症が多いことが報告されています (参考文献 1)。

成人スチル病が親から子に遺伝するのでは?と心配される方もいるかと思いますが、現時点では遺伝によって発症する病気だとは考えられていません。

発症メカニズムがはっきりとしていないため明確なことは言えませんが、感染症の罹患により成人スチル病が誘発される可能性があることが知られているので、日常生活で手洗いをしっかりすることは発症予防になるといえるでしょう。一般的に推奨されるような予防接種を受けることも、予防になるかと思います。


関連する病気

参考文献

  • 参考文献1:難病情報センター. 成人発症スチル病 (指定難病 54)
  • 参考文献2:UpToDate. Adult-onset Still’s disease: Clinical manifestations and diagnosis (2024)
  • 参考文献3:厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班. “成人スチル病診療ガイドライン 2017年版 【2023年Update】”. 2023

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