監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
イタイイタイ病の概要
イタイイタイ病は、富山県神通川流域を中心に発生した公害病の一つです。
神通川に流出したカドミウムを含む鉱山廃水が、農業用水や生活用水として体内に蓄積されたことが原因で起きたと考えられています。
り患した患者が「痛い、痛い」と泣き叫んだことから、富山県婦中町で開業医を営み多くのイタイイタイ病患者を診察した萩野昇医師によってその病名が付けられました。
カドミウムは非常に有害な金属で、体内に取り込まれることで腎尿細管障害をともなう骨軟化症や骨粗鬆症、腎機能障害、全身の激痛など深刻な健康被害を引き起こします。
1950年代から1970年代にかけて多くの被害が報告され、患者の89%は農業に従事する農家でした。
(出典:青島恵子「イタイイタイ病の現状と今後(2012年)」)
1955年に最初の患者が報告され、1961年6月、第34回日本整形外科学会において、神岡鉱山から排出されるカドミウムがイタイイタイ病の原因であると発表しました。1968年には、厚生省(現・厚生労働省)がイタイイタイ病を公害病として認定し、1971年に富山地方裁判所での裁判で、三井金属鉱業が責任を認めて賠償することになりました。
イタイイタイ病と認定された人の総数200人で、2019年3月末時点では4人、将来イタイイタイ病に発展する可能性を否定できない要観察者は、2019年3月末時点で1人となっています。
(出典:環境省「令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況 第2部 第6章 第8節 環境保健対策(2019年)」)
イタイイタイ病の原因
イタイイタイ病は、神岡鉱山から出た排水に含まれていたカドミウムが神通川に流出し、それが農業用水や生活用水として使用されたことが原因だと考えられています。
カドミウムに汚染された米や農作物を長期間摂取することで、人体にカドミウムが蓄積されます。これにより、骨を形成するのに必要なカルシウムの吸収が阻害され、骨軟化症や骨粗鬆症を発症します。
また、カドミウムが腎臓にも蓄積されると、腎機能が低下し腎機能障害が起こります。
イタイイタイ病の前兆や初期症状について
カドミウムの慢性中毒により腎臓障害を発症します。
腎臓は血液をろ過し、体内の老廃物を尿として排出する臓器です。カドミウムが体内に蓄積されると、腎臓の機能が低下し、尿中にたんぱく質が過剰に排出される蛋白尿が見られるようになります。
腎臓障害が進行すると、腎機能が低下し、腎不全に至ることもあります。腎不全は、腎臓が老廃物や余分な水分を適切に排出できなくなり、体内に毒素が蓄積される状態です。
これにより、全身の臓器に影響が及び、様々な合併症が引き起こされる可能性があります。
腎不全の進行により、尿毒症や心不全、さらには命にかかわる状態になることもあります。
また、カドミウムが骨に蓄積されると、骨軟化症や骨粗鬆症をきたし、腰、肩、膝の痛みが生じます。中には口の渇きや頻尿を訴える人もいます。
病気が進行すると、骨をつくるために必要な栄養が流出し、骨が非常にもろくなります。少し体を動かしただけでも骨折してしまうため、痛みで動けなくなり、寝たきりの状態となります。
イタイイタイ病の検査・診断
イタイイタイ病の診断には、カドミウムの暴露歴や症状の聞き取り、生活環境などが考慮されるほか、尿検査や血液検査で体内のカドミウム濃度を測定する方法が用いられます。
また、レントゲンでは骨の強度や骨粗鬆症の度合いから、骨障害の進行具合を判定します。
イタイイタイ病の治療
イタイイタイ病に限らず、カドミウム中毒の治療では、カドミウムを含んだ食品や水の摂取を避けること、カドミウムを体内から排出することが重要です。
次に、キレート剤という薬剤を使って有毒な金属や毒素と結合し体外へ排出するキレート療法が行われます。
骨障害には、カルシウムとカルシウムの吸収を促すビタミンDの投与、腎性貧血には赤血球の産生を促すエリスロポエチン治療が行われます。
重篤な腎機能障害がある場合には、腎機能をサポートするための透析療法が必要となることもあります。
イタイイタイ病になりやすい人・予防の方法
富山県神通川流域の周囲に長く住んでおり、長期間にわたりカドミウムの汚染された米や野菜などの農作物を摂取した人はイタイイタイ病を発症する恐れがあります。
イタイイタイ病を命名した萩野昇医師は、「35歳から更年期にかけての女性が多い」としています。
予防の方法としては、カドミウム汚染地域から避難することや、カドミニウムに汚染された食品の接種を避けることが考えられます。
また、公害対策として、カドミウムが流出した原因の特定や排出規制なども求められます。
参考文献