目次 -INDEX-

尿細管性アシドーシス
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

プロフィールをもっと見る
2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

尿細管性アシドーシスの概要

尿細管性アシドーシス(RTA:renal tubular acidosis)は腎尿細管の機能が異常をきたすことにより、尿細管での重炭酸イオン(HCO3-)の再吸収や水素イオン(H+)の分泌が阻害され、アニオンギャップ正常代謝性アシドーシスをきたす疾患です。尿細管性アシドーシスは臨床的にはⅠ型、Ⅱ型、Ⅳ型に分類され、それぞれ遺伝性尿細管性アシドーシスと、二次性尿細管性アシドーシスに分けられます。病型により治療法が異なります。

尿細管性アシドーシスの原因

アシドーシスとは、血液pHが下がり酸性に傾くことを示し、酸が増える(体内のH+が増える)、もしくは塩基減る(HCO3-が減る)ことで起こります。
Ⅰ型尿細管性アシドーシスは遠位尿細管からH+の分泌が阻害されることにより、アシドーシスとなります。遺伝的な要因で発症する場合や、二次性の原因として、Sjögren (シェーグレン)症候群や全身性エリテマトーデス、関節リウマチなどの自己免疫疾患や腎間質障害により起こりえます。薬剤性としてはアムホテリシンB、リチウム、非ステロイド性抗炎症薬などが原因として挙げられます。
Ⅱ型尿細管性アシドーシスは近位尿細管からHCO3-が再吸収できなくなることで、アシドーシスとなります。単独でⅡ型尿細管性アシドーシスを起こすことはまれであり、Fanconi(ファンコニ)症候群として発症することが多く、その原因は遺伝性と後天性に分類されます。遺伝性ファンコニ症候群の原因として、シスチン症、ミトコンドリア異常症、Dent(デント)病、Lowe(ロウ)症候群などの疾患が挙げられます。後天性では多発性骨髄腫やアミロイドーシスにおいて血清遊離軽鎖の尿細管毒性により発症したり、薬剤性としてバルプロ酸、イホスファミド、シスプラチン、トピラマートといった薬剤などで起こりえます。
Ⅳ型尿細管性アシドーシスは集合管でのアルドステロン作用不全・欠乏によりH+の放出が阻害される病態です。遺伝性な要因や、様々な腎疾患、薬剤で起こりえます。

尿細管性アシドーシスの前兆や初期症状について

遺伝性のⅠ型尿細管性アシドーシスは、Na・Kの排泄増加に伴う尿濃縮障害による症状として、多飲、多尿、筋力低下、歩行障害、体重増加不良などを呈します。シェーグレン症候群による二次性の場合、唾液腺と涙腺の病変に伴う乾燥症状が主症状となることが多いとされます。Ⅱ型尿細管性アシドーシスでは、低リン血症や代謝性アシドーシスの結果として、くる病による成長障害や骨軟化症による易骨折性を呈します。

尿細管性アシドーシスの検査・診断

血液ガス分析、血清電解質、尿検査所見を確認します。アニオンギャップ正常代謝性アシドーシスの場合、消化管からのHCO3-喪失や炭酸脱水素酵素阻害薬の使用がなければ、尿細管性アシドーシスと診断します。血清カリウム値の変化として、Ⅰ型尿細管性アシドーシスは低下、Ⅱ型尿細管性アシドーシスでは正常かやや低下、Ⅳ型尿細管性アシドーシスでは上昇します。腎石灰化・結石はⅠ型尿細管性アシドーシスに起こりやすく、超音波検査やCTが診断の補助となることがあります。塩化アンモニウム負荷試験や、フロセミドとフルドロコルチゾンなどの負荷試験を行うこともありますが、高度のアシドーシスをきたしている場合は悪化のリスクがあり行いません。

尿細管性アシドーシスの治療

尿細管性アシドーシスの治療は、アルカリ剤(重曹)補充によるアシドーシスの補正が基本です。遺伝性のⅠ型尿細管性アシドーシスでは、早期からクエン酸製剤を投与することにより、成長障害や腎不全の原因となる腎石灰化の予防となります。Ⅰ型尿細管性アシドーシスでは重曹の補充は比較的少量でよいとされています。先天性のⅡ型尿細管性アシドーシスではHCO3-の喪失が多いため、大量のクエン酸製剤や重曹が必要となります。低K血症が進行する場合はカリウム製剤を投与します。骨病変と呈した症例ではビタミンD製剤やカルシウムの投与を行います。Ⅳ型尿細管性アシドーシスは原因により治療方針が異なりますが、中等度の重曹補充が必要となることが多いです。アルドステロンの絶対的欠乏に基づく病態である場合は、外因性ミネラルコルチコイドである酢酸フルドロコルチゾンの内服が有効です。高カリウム血症に対してはカリウム吸着薬の投与やカリウム摂取制限を行います。
シェーグレン症候群による尿細管間質性腎炎を合併した場合はステロイドや免疫抑制剤を使用する場合もあります。薬剤性の尿細管性アシドーシスをきたしている場合は被疑薬を中止します。

尿細管性アシドーシスになりやすい人・予防の方法

遺伝的な要因によるものは比較的まれとされています。二次性の尿細管性アシドーシスは臨床的にはシェーグレン症候群、多発性骨髄腫に合併するものや薬剤性のものが多いです。Ⅰ型尿細管性アシドーシスはシェーグレン症候群に併発する場合、好発年齢は40~60歳台で、男女比は 1:13.7 で女性に多く発症します。特定の薬剤により発症する場合は、薬剤の変更や中止により予防することが可能です。

関連する病気

参考文献

この記事の監修医師