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皮膚がん前駆症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

皮膚がん前駆症の概要

皮膚がん前駆症は、皮膚がんを発症するリスクが高い状態を指します。

現在のところ、皮膚がん前駆症と考えられている疾患は複数ありますが、代表的な皮膚がん前駆症としては、日光角化症やボーエン病、色素性乾皮症(かんぴしょう)などが知られています。

皮膚がん前駆症は、正確には皮膚がんとは言えない状態です。
ただし、病変を治療せずにいると、皮膚がんを発症する可能性が高まります。

たとえば、日光角化症を治療せずに5年間経つと約2.5%、ボーエン病では3~5%が有棘(ゆうきょく)細胞がん(皮膚がんの一種)を発症すると考えられています。

とくに日光角化症は、皮膚がん前駆症において有棘細胞がんにつながる最大の要因だと言われています。
日光角化症は人口10万人あたり100~120人がかかると言われており、1987年から2001年の間で患者数が約2倍に増えているという報告があります。
日光角化症を患っている期間が長いほど、有棘細胞がんを発症するリスクが高まるという指摘もあります。

(参考:皮膚悪性腫瘍ガイドライン第 3 版‌ 有棘細胞癌診療ガイドライン 2020

皮膚がん前駆症を引き起こす要因には、紫外線や放射線、化学物質などによる皮膚のダメージ、家族歴、免疫抑制状態、ウイルス感染、慢性ヒ素中毒など、さまざまなものがあります。

皮膚がん前駆症の治療には、外科的治療や凍結療法、光線力学療法、薬物療法などがあります。
患者さんの全身状態や各病変の状態に応じて、適切な治療法が選択されます。

高齢者や長期間にわたって屋外での労働に従事している人は、皮膚がん前駆症を発症するリスクが高まると考えられています。
帽子やサングラス、日焼け止めなどの使用が、皮膚がん前駆症の予防につながります。

皮膚がん前駆症の原因

皮膚がん前駆症の原因は、外的要因と内的要因に大別されます。

外的要因による皮膚がん前駆症には、日光角化症やボーエン病、熱傷瘢痕(はんこん)、慢性放射線皮膚炎などが挙げられます。

紫外線や放射線、化学物質などによる皮膚のダメージで細胞に含まれるDNAが傷つき、突然変異が起こることで皮膚がん前駆症を発症します。

内的要因による皮膚がん前駆症には、色素性乾皮症や汗孔角化症などが挙げられます。
発症には、遺伝性疾患や免疫抑制状態などが関係していると考えられています。

また、ヒトパピローマウイルス感染と皮膚がんの関連性も指摘されています。

途上国地域でみられる地下水のヒ素汚染地域では、慢性ヒ素中毒によりボーエン病を発症する人が多く、皮膚がんとなる人も多いことが知られています。

皮膚がん前駆症の前兆や初期症状について

皮膚がん前駆症の初期症状および主な症状は、疾患ごとに異なります。病変部における見た目の変化なども前兆となり得ます。

日光角化症やボーエン病では、皮膚表面に約1~3cmの発疹がみられ、皮膚表面に角質が付着していることが多いです。
日光角化症では黒色や褐色、ボーエン病では赤色や灰色などに色が変化するケースも珍しくありません。

日光角化症が進行すると、皮角(角のように盛り上がった硬い皮膚の組織)が見られる場合もあります。
ボーエン病は一般的に単発病変の場合が多いですが、慢性ヒ素中毒が関連するケースでは多発病変もみられます。

日光角化症やボーエン病の病変は、ともに直射日光が当たる部位にみられやすいですが、ボーエン病では外陰部(がいいんぶ)や指先などにみられる場合もあります。

熱傷瘢痕や慢性放射線皮膚炎による皮膚がんの症状では、病変部のただれや治りにくい潰瘍、出血や皮膚の硬化、隆起などがみられる場合があります。

色素性乾皮症の初期症状では、光が当たった部分の皮膚が乾燥したり、そばかすのような変化が皮膚にみられたりする場合もあります。

汗孔角化症では、通常、数cm程度の丸い発疹がみられます。
炎症により生じる強いかゆみは、ステロイド薬による症状改善が得られにくいと言われています。

皮膚がん前駆症の検査・診断

皮膚がん前駆症の検査では、視診や病理検査などがおこなわれます。
視診では、病変部の状態をくわしく観察するために「ダーモスコープ」という拡大鏡を用いる場合があります。

病変の確定診断には、組織を採取して病変部を観察する病理検査が有効です。
病理検査は、皮膚がんが疑われる場合や他の疾患との鑑別が必要な場合に実施されるケースが多いです。

色素性乾皮症では、光線照射試験(光を当てて皮膚の反応を見る検査)や遺伝子検査がおこなわれる場合があります。

病理検査で皮膚がんと診断され、リンパ節や他の臓器に転移している可能性があるケースでは、画像検査(超音波検査、CT検査、MRI検査など)がおこなわれる場合もあります。

皮膚がん前駆症の治療

皮膚がん前駆症の治療には、外科的治療や光線力学療法などさまざまな方法があります。
基本的に、患者さんの全身状態なども考慮しながら、各疾患に合わせた治療がおこなわれます。

一例として、日光角化症やボーエン病の治療では、外科的治療や液体窒素を利用した凍結療法、がん組織に集まる光感受性物質に光を当てて病変を壊死させる光線力学療法(PDT)、抗がん剤やイミキモドを使用する薬物療法などがおこなわれます。

皮膚の病変が小さい場合には、通常、手術や凍結療法が選択されますが、大きい病変や複数の病変がある場合は、光線力学療法や薬物療法が選択されるケースが多いです。

ただし、ボーエン病のうち、高齢者における下肢の目立たない病変では、保湿をおこない経過観察となるケースもあります。

皮膚がん前駆症になりやすい人・予防の方法

日光角化症やボーエン病などの皮膚がん前駆症につながる要因には、紫外線や放射線、化学物質などによる皮膚のダメージ、家族歴、免疫抑制状態、慢性ヒ素中毒などが挙げられます。

とくに慢性的に紫外線を浴びつづけると、日光角化症を発症しやすくなると言われています。

このため、高齢者や長期間にわたって屋外での労働に従事している人は、皮膚がん前駆症を発症するリスクが高まります。

過度に日光を浴びないことは皮膚がん前駆症の予防手段の1つになり得ます。
帽子やサングラス、日焼け止めなどを使用して直射日光を避けるとよいでしょう。
皮膚がん前駆症の予防は皮膚がんの発症予防につながります。早期の発見、治療のため、皮膚の見た目に明らかな変化がみられた場合には、できるだけ早めに皮膚科を受診することが重要です。

また、皮膚がん前駆症には治療後に再発するものもあります。
過去に皮膚がん前駆症と診断された場合は、定期的に医療機関を受診し、経過観察を慎重におこなうことが大切です。

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