

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
毛髪奇形の概要
毛髪奇形とは、髪の毛の形に異常がある状態を指します。形態的な異常が起こることで、髪が弱くなって折れやすくなり、結果的に短く薄い髪になります。
毛髪奇形は生まれつき生じる先天性の場合と、後に何らかの原因で発症する後天性の場合があります。先天性の場合は、髪の毛を作るために必要な遺伝子に問題があることで起こります。後天性の場合は、髪への物理的な刺激や他の皮膚の病気が原因となります。
代表的な毛髪奇形には、髪が数珠のようにところどころ細くなる「連珠毛(れんじゅもう)」、髪がねじれた形になる「捻転毛(ねんてんもう)」、「ネザートン症候群」という遺伝性の病気で見られる「重積裂毛(じゅうせきれつもう)」などがあります。ネザートン症候群は髪の異常だけでなく、皮膚の炎症や免疫の異常をともないます。
毛髪奇形は見た目に影響するため、とくに若年者は精神的な負担を感じることがあり、周囲の理解とサポートが必要になります。

毛髪奇形の原因
毛髪奇形の原因は大きく「先天性」と「後天性」の2つに分けられます。
先天性の毛髪奇形は、髪の主成分であるケラチンを作る遺伝子や、髪の細胞同士をつなぐタンパク質の遺伝子に異常が起こり、髪が正常に作られないことで起こります。これらにより、連珠毛(髪が数珠状になる)、縮毛症(髪が過度に縮れる)、ネザートン症候群での重積裂毛などの症状があらわれます。
後天性の毛髪奇形は、外的要因や他の病気によって引き起こされます。強いブラッシングや熱などによる髪への刺激が続き、髪が傷つくことで奇形が生じます。
また、全身性強皮症や扁平苔癬(へんぺいたいせん)といった皮膚の病気が原因で、症状があらわれることもあります。
栄養不足やホルモンバランスの乱れも、毛髪奇形を引き起こす原因になることがあります。
毛髪奇形の前兆や初期症状について
毛髪奇形の種類によって、症状のあらわれ方や進行の程度は異なります。
連珠毛
連珠毛は髪の毛がところどころ細くなることで、数珠をつなげたような見た目になる症状です。まつげや眉毛などの体毛にも生じる可能性があります。細くなっている部分で髪が折れやすくなるため、全体的に髪が短くなります。触ると毛先がざらざらした感触がする場合もあります。
捻転毛
捻転毛は髪が平たく、ねじれた形になる状態です。連珠毛と同様に、髪が弱いため折れやすく、短くなります。また、さまざまな方向に向かって髪が伸びていくため、くしを使用してもまとまりにくく、湿度の高い環境で悪化しやすいのが特徴です。
重積裂毛(ネザートン症候群)
重積裂毛は、ネザートン症候群にともなって見られる髪の異常です。髪に竹の節のような結び目ができ、その部分で髪が折れ曲がります。重積裂毛も髪が弱くなるため、全体的に短く薄くなります。
ネザートン症候群に罹患すると、髪の異常だけでなく、皮膚が赤くなり魚のうろこのようにカサカサする「魚鱗癬様紅皮症(ぎょりんせんようこうひしょう)」やアトピー性皮膚炎のような症状もあらわれます。皮膚のかゆみが強く、かきむしると角質層がはがれたり、ただれたりすることがあります。
毛髪奇形の検査・診断
毛髪奇形の診断は、症状の確認から始まります。髪の状態(形、長さ、強度など)を調べ、同じような症状をもつ家族がいるかどうかなどを確認します。
診断の重要な手段として、髪を顕微鏡で観察する検査を実施します。この検査で、連珠毛であれば数珠状の形、捻転毛のねじれた形、重積裂毛の竹の節のような形など、それぞれの毛髪奇形に特徴的な形を確認できます。
また、確定診断には遺伝子検査が必要です。遺伝子検査は症状の原因を特定するだけでなく、家族へ遺伝する可能性についても把握できるため、早期発見と早期治療にも役立ちます。
ネザートン症候群のように、髪の異常だけでなく皮膚や免疫の異常もともなう場合は、皮膚の状態の観察やアレルギー検査、血液検査などの追加検査も必要になります。
毛髪奇形の治療
毛髪奇形の治療は、症状の種類や原因によって異なります。
先天性の毛髪奇形に対しては、現在のところ根本的な治療法が確立されていません。治療は主に、症状の管理と合併症の予防になります。毛髪奇形の症状が悪化しないよう、髪に過度な刺激を加えないようにしながら保護に努めます。
他の病気が原因として生じた毛髪奇形(ネザートン症候群など)では、病気の治療が最優先で行われます。皮膚の乾燥やかゆみには保湿剤や炎症を抑える薬、アレルギー症状にはアレルギーを抑える薬が使われます。感染症を起こした場合は、それに対する治療も必要です。
毛髪奇形になりやすい人・予防の方法
先天性の毛髪奇形は遺伝子の異常で起こるため、予防は難しいのが現状です。しかし、家族に同じ症状がある場合は、遺伝子検査を行うことで早めの対処が可能になります。
後天性の毛髪奇形については予防できる可能性があります。予防のためには、髪に負担をかける強いブラッシングや熱を加えるスタイリング、過度のカラーリングやパーマなどを避けることが大切です。また、毛髪奇形を引き起こす皮膚の病気がある場合は、早めに適切な治療を受けることで髪への影響を抑えられる可能性があります。
いずれの場合も、髪に異常を感じたら早めに皮膚科を受診することをおすすめします。とくに子どもの場合は、早い段階から適切な治療や支援を受け、見た目の問題による精神的な負担を軽減することも大切です。




