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ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群
横須賀 正人

監修歯科医師
横須賀 正人(横須賀歯科医院)

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日本歯科大学卒業。東京医科歯科大学歯学部附属病院(現・東京医科歯科大学病院)や民間の歯科医院で診療を積んだ後の2005年、東京都大田区に「横須賀歯科医院」を開院。「その人医療」をコンセプトとし、コミュニケーション主体の診察に務めている。日本補綴歯科学会、日本歯周病学会、日本歯科理工学会の各会員。

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の概要

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(Staphylococcal Scalded Skin Syndrome: SSSS)は、黄色ブドウ球菌という細菌の作り出す毒素により、皮膚上に火傷のような見た目の症状を引き起こす病気です。主に乳幼児に見られる疾患ですが、ごくまれに学童期以降の子どもや成人でも発症することがあります。

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群では、最初に皮膚が赤く腫れた状態が見られ、その後皮膚が剥がれ落ちることで、火傷のような痛みや見た目をともないます。

軽症であれば数日で軽快するケースもありますが、症状が急速に全身へと広がることもあるため、注意が必要です。

診断を受けた後の治療においては、黄色ブドウ球菌の増殖を抑えるために抗生剤を投与するほか、皮膚の炎症に対する治療も並行しておこないます。
症状が進行すると、敗血症や他の重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

乳幼児の皮膚に疑わしい症状が見られた場合には、早めに医療機関を受診することが大切です。

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の原因

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群は、ブドウ球菌のなかでも「黄色ブドウ球菌」が産生する毒素が原因で発症します。

黄色ブドウ球菌自体は、人間の皮膚、毛髪、鼻腔などに存在する皮膚常在菌の仲間として知られていますが、ときに部分的な感染症を引き起こしたり、強力な毒素を作り出したりすることがあります。
食中毒の原因菌の1つであり、乳幼児にみられる「とびひ(伝染性膿痂疹)」もこの黄色ブドウ球菌によって引き起こされます。

黄色ブドウ球菌による局所的な皮膚感染、あるいは傷口など感染をきっかけに、産生された毒素が血液中に侵入することが、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の原因だと考えられています。

毒素は「皮膚の上層にある細胞同士の接着部分を破壊する作用」を持ちます。そのため、この病気の患部は火傷のような見た目(紅斑、びらん、水疱など)になり、同時に強い痛みを伴います。

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の前兆や初期症状について

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の前兆として、発熱や全身の倦怠感、皮膚の赤み(紅斑)などがあげられます。やがて口の周りや、脇や股などのこすれやすい部分の皮膚が剥がれ、強い痛みを伴ってびらんや水泡を生じます。

発熱と全身倦怠感

発症初期には、発熱や全身の倦怠感が見られることが多くあります。乳幼児では食欲不振や不機嫌としてあらわれることもあります。

紅斑と皮膚のびらん

皮膚に痛みを伴う紅斑があらわれます。紅斑は口の周りや目の周り、首、脇、股などにみられることが多く、紅斑した部分の上皮はやがて剥がれやすくなり、びらんや水泡を生じることもあります。
患部は触れると痛みや熱感が強いのが特徴です。症状が重い場合などは、患部が全身の複数の部位で生じ、範囲も広がっていきます。

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の検査・診断

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の診断では、視診に加え、皮膚生検や細胞培養検査、血液検査が行われます。

視診・触診

視診と触診で、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群に特徴的な皮膚症状を確認します。びらんや水泡、剥落した皮膚など、外観で判断しやすい疾患ではあるものの、他の皮膚病などとの鑑別のため、診断時には他の検査もおこなうケースがあります。

皮膚生検や細菌培養検査

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の原因となる黄色ブドウ球菌を特定するために、症状があらわれている部位の皮膚や、鼻腔・咽頭などから採取した細菌を検査することがあります。
黄色ブドウ球菌の一部には薬剤に耐性を持つ「耐性菌」が存在することから、細菌培養検査によって、どのタイプの抗生物質が治療に有効かを知ることもできます。

血液検査

血液検査では、炎症反応や白血球数の増加を確認します。CRP(血液中に存在するタンパク質で炎症や組織破壊が起こると増えるタンパク質)や白血球の数値を、診断や治療方針の参考にします。

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の治療

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の治療では、抗生物質による感染の除去、炎症や皮膚障害に対する治療、皮膚を保護するための支持療法などが同時におこなわれます。

抗生物質の投与

黄色ブドウ球菌の増殖を抑え感染を除去するため、点滴または経口による抗生物質の投与を行います。使われる薬剤は、検査の結果に基づき、最も効果的な抗生物質が選択されます。

炎症や皮膚障害の治療

抗生物質の投与と同時に、炎症や皮膚障害に対する治療もおこなわれます。ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群では、患部をドレッシング材やガーゼ、包帯などで覆い、皮膚が乾燥しないよう保湿剤を使用するなど、火傷の治療に似た治療が施されます。

支持療法

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群では発熱や脱水が見られることもあり、必要に応じて解熱剤を投与します。点滴などで、水分・栄養の補給をするケースもあります。

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群になりやすい人・予防の方法

ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群になりやすい人は、新生児や乳幼児です。
乳幼児での発症はそれほど珍しいことでなく、治療する前に軽快するような軽症で発症するケースも多く、まれに重症化します。

就学年齢以上の児童や成人での発症はめったに見られませんが、腎機能低下などにより免疫力が極端に落ちている人は発症リスクがあります。
高齢者で発症すると、重症化しやすい傾向があります。

予防のためには、まず手洗いの徹底が重要です。黄色ブドウ球菌は皮膚や鼻腔内に常在していることが多く、乳幼児では手を介して発症のきっかけが生じる例が多いとされています。
皮膚上の小さな傷やかさぶた等をさわってしまわないように工夫し、皮膚を清潔に保つようにすることも、予防につながります。


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