

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
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整形外科
眼科
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脳神経内科
眼科(角膜外来)
手白癬の概要
手白癬は、白癬菌による真菌感染症の一種です。この疾患は、白癬菌が皮膚の浅層にある角質層に侵入し、ケラチンを栄養源として増殖することによって引き起こされます。湿度の高い環境では真菌の繁殖が促進されるため、日本では梅雨や夏季に発症率が上昇します。
特に男性に多く見られ、手を頻繁に使用する職業や、湿気や汚れにさらされやすい環境で働く人々、例えば農業従事者や工場労働者、水仕事に従事する人々において発症リスクが高いとされています。また、家庭内での接触により感染が広がる可能性があり、手白癬の患者さんがいる家庭では、ほかの家族にも感染が拡大するリスクが増大します。
治療としては、軽症の場合は外用の抗真菌薬が用いられることが一般的ですが、慢性化や症状の進行が見られる場合には内服薬も使用されます。治療の際には、感染拡大を防ぐために早期治療が推奨されますが、同時に日常的な予防策も重要です。
手白癬の原因
手白癬の主な原因は、皮膚糸状菌(白癬菌)による感染です。これらの真菌は湿度が高く、温暖な環境で増殖しやすいため、足白癬や股白癬からの二次感染がよく見られます。特に、足白癬に罹患している人が無意識に手で足を触れることで、手に感染が広がるケースが一般的です。白癬菌は皮膚の角質層に侵入し、そこで増殖を開始することにより、手の皮膚にかゆみや炎症が生じます。
感染経路には、感染者との直接接触や、感染者が使用したタオル、靴、グローブなどを介した間接的な接触が含まれます。さらに、免疫力の低下や皮膚のバリア機能が弱まっている場合、感染リスクが高まります。特に糖尿病や免疫抑制状態にある患者さんは、白癬菌に対する感受性が高いことが知られています。また、手が湿った状態が続いたり、水仕事により皮膚がふやけると、真菌が皮膚に侵入しやすくなり、感染のリスクが増加します。
手白癬の前兆や初期症状について
手白癬の初期症状は、手のひらや指の間に小さな水疱が出現し、その後、かゆみや発赤を伴うことが多いです。これらの症状は足白癬や股白癬と類似しており、軽微な症状から始まりますが、放置すると徐々に悪化します。症状が進行すると、水疱が破れて乾燥し、皮膚が硬化して剥離することがあります。さらに、手のひら全体に硬化が広がり、亀裂や痛みが生じ、場合によっては指の可動域に制限を与えることもあります。
慢性化すると、皮膚の肥厚や角化が進行し、表面が粗くなります。特に冬季には乾燥によるひび割れが生じ、手の機能に支障をきたすことがあります。また、かゆみや痛みにより、日常生活や仕事に影響が及ぶことも少なくありません。適切な診断と治療を受けるためには、皮膚科の受診が推奨されます。特に足白癬を併発している場合には、手と足の両方を同時に治療することが重要です。
手白癬の検査・診断
手白癬の診断は、患者さんの症状や身体所見に基づき、真菌感染が疑われた場合に行われます。最も一般的な検査は顕微鏡検査で、患部から採取した角質を10%〜20%のKOH(水酸化カリウム)溶液で処理し、顕微鏡で観察します。KOH処理により、角質内のケラチンが溶解し、真菌の構造が明瞭に観察できるようになるため、迅速に結果を得ることができ、第一選択として広く用いられています。
次に、真菌の種類を特定するために培養検査が行われることがあります。培養検査では、患部から採取した皮膚サンプルを特殊な培地で培養し、白癬菌の増殖を確認します。確定診断に有効ですが、結果が出るまでに数日から数週間を要するため、迅速な診断が必要な場合には適していないことがあります。
さらに、手白癬の診断にダーモスコピー検査が利用されることもあります。これは、皮膚の表面を拡大して観察する装置を使い、真菌による特有の病変パターンを確認する方法です。非侵襲的で簡便な検査方法であり、特に接触皮膚炎や乾癬など、手白癬と似た症状を持つ皮膚疾患との区別に役立ちます。ダーモスコピーによって、白癬による鱗屑や発赤、炎症を詳細に観察できるため、診断の精度が向上します。
鑑別診断としては、手白癬に似た掌蹠膿疱症やアトピー性皮膚炎が挙げられます。掌蹠膿疱症は手足に膿疱ができる自己免疫性疾患で、アトピー性皮膚炎はアレルギー反応による慢性的な炎症が主な原因です。これらの疾患は、KOH顕微鏡検査や培養検査で白癬菌が検出されないため、手白癬と区別できます。
手白癬の治療
手白癬の治療には、主に外用薬と内服薬の2つの方法があります。外用薬は、軽症から中等度の症例で最初に選択されることが多く、一般的には抗真菌クリームが使用されます。代表的な外用薬には、テルビナフィン、クロトリマゾール、ミコナゾールなどがあり、これらの薬剤は真菌の細胞膜を破壊し、真菌の増殖を抑制します。外用薬は、感染部位に直接作用するため、治療の効果が速やかに現れることが期待されます。ただし、外用薬のみでは真菌が皮膚の深部にまで到達するのを防ぐことが難しく、特に慢性化した症例では内服薬の併用が必要になることがあります。
内服薬としては、テルビナフィンやイトラコナゾールが最も広く使用されています。テルビナフィンは、真菌の細胞膜の構成成分であるエルゴステロールの合成を阻害することにより、菌の増殖を防ぎます。イトラコナゾールは、広範囲の真菌に対して有効であり、真菌の細胞膜に作用してその構造を破壊することで抗真菌効果を発揮します。内服薬は通常、1日1回の服用で、数週間から数か月にわたって続ける必要があります。長期間にわたる治療が必要な場合、副作用として肝障害や消化器症状が現れることがあるため、治療中は定期的な血液検査を行い、肝機能や腎機能のモニタリングが推奨されます。
免疫力が低下している患者さんや糖尿病の患者さんなど、感染が長引きやすい人々に対しては、徹底した治療が必要となります。治療の期間や方法は症状の重さや患者さんの全身状態に応じて調整されますが、真菌感染は治療を中断すると再発しやすいので、医師の指示に従って最後まで治療を続けることが重要です。
手白癬になりやすい人・予防の方法
手白癬になりやすい人の特徴として、湿気の多い環境で生活している人や、手を頻繁に濡らす職業に従事している人が挙げられます。水仕事や手袋を長時間使用する仕事では、手が湿った状態が長く続くため、真菌が繁殖しやすい環境が作られます。特に、足白癬を患っている人や足に汗をかきやすい人は、手白癬に発展するリスクが高まります。
予防策としては、手や足を常に清潔かつ乾燥した状態に保つことが重要です。水仕事や汗をかきやすい環境にいる場合、作業後は手を十分に乾かし、通気性の良い手袋を使用することが推奨されます。また、家庭内での感染防止のため、タオルやスリッパの共用を避け、使用後には洗濯や消毒を徹底することが必要です。さらに、日常的に抗真菌作用のある石鹸やボディーソープを使用することで、真菌の繁殖を予防できます。足白癬や股白癬を併発している場合には、それらの部位の治療を同時に行うことも重要です。感染を予防し、早期治療を行うことで、手白癬の再発リスクを減らすことができます。
参考文献
- 日本皮膚科学会、皮膚科Q&A「白癬(水虫・たむしなど)
- 日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン改訂委員会, 日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019, 日本皮膚科学会雑誌, 2019, 129 巻, 13 号, p. 2639-2673
- 渡辺 晋一, 皮膚真菌症診断・治療ガイドライン, 日本内科学会雑誌, 2017, 106 巻, 4 号, p. 802-806
- Bhat YJ, Keen A, Hassan I, Latif I, Bashir S. Can Dermoscopy Serve as a Diagnostic Tool in Dermatophytosis? A Pilot Study. Indian Dermatol Online J. 2019 Aug 28;10(5):530-535.




