監修医師:
高藤 円香(医師)
目次 -INDEX-
爪囲炎の概要
爪囲炎(そういえん)は、爪の周りの皮膚が赤く腫れたり、痛みが現れたりする状態のことです。
爪の周囲にできた小さな傷から、細菌や真菌(カビ)に感染することで起こります。
病気が直接の原因となることはほとんどありませんが、がん治療や免疫療法などの薬の影響で爪囲炎が起こることがあります。
特に、EGFR阻害薬という薬は爪囲炎を引き起こしやすく、爪の周りの皮膚に炎症を起こし、痛みを伴うことがあります。
痛みが酷くなった場合には、作業が出来ない、歩くのが辛い、眠れないなど日常生活にも影響をおよぼすことがあります。
爪囲炎の原因
爪囲炎が起こる原因は、傷から感染する場合と薬が原因になる場合の2パターンが挙げられます。
傷からの感染
爪囲炎は、小さな傷から細菌や真菌(カビ)が入り込むことで起こります。
とくに、ささくれや深爪、巻き爪、マニキュアの使用、爪を噛む癖などがあると発症しやすくなります。
感染が進んだ場合、爪の根元に向かって膿がたまることがあります。
指先の腹側、つまり指の先端の内側が細菌に感染して膿がたまる状態をひょう疽(瘭疽)といいます。
薬の影響
EGFR阻害薬という、肺がんや大腸がんの治療に使われる薬の影響で爪囲炎が起こることがあります。
EGFRは健康な皮膚や爪の成長にも関わっているため、治療を始めてから比較的早い段階で、顔や体ににきびのような発疹の副作用が出ることがあります。
これは、皮膚が薬に反応して一時的に悪化することが原因です。
その後、皮膚が乾燥しやすくなり、ひび割れが起こりやすくなります。
薬の投与から5〜6週間ほど経つと乾燥やひび割れた皮膚が原因となり、爪囲炎が起こります。
爪囲炎の前兆や初期症状について
爪囲炎の初期症状では、爪の周りが赤く腫れて痛みを感じることがあります。
この状態で放っておくと、悪化して膿がたまったり、赤い塊(肉芽)ができたり、深い亀裂ができることもあります。
爪の周りの皮膚はとても敏感です。
爪囲炎が悪化した場合には痛みが強くなり、日常生活に支障をきたすことがあります。
たとえば、手を使う作業が難しくなったり、歩行時に痛みを感じたり、痛みで眠れないこともあるため、早期の治療と適切なケアが重要です。
爪囲炎の検査・診断
爪囲炎は一般的に、医師による視診で診断されます。
爪の周りが痛くなったり、赤く腫れたり、膿がたまって黄色くなることが診断材料となります。
場合によっては、爪の下にも膿がたまることがあります。
爪囲炎の治療
初期段階では、冷湿布で炎症を抑えます。
スキンケアと薬物療法を組み合わせて治療を行うことで、爪囲炎の症状を和らげます。
また、必要に応じてテーピング法や外科処置、肉芽に対し液体窒素による処置を行うこともあります。
スキンケア
爪囲炎の改善には、皮膚を清潔に保つことが重要です。
できるだけ毎日入浴やシャワーを浴びて汚れをしっかりと洗い流しましょう。
洗うときは、アルコールが多く含まれている製品は避け、中性または弱酸性の洗浄料を使います。
爪囲炎の部分にかさぶたができている場合、無理にはがさないようにしてください。
お湯でかさぶたを柔らかくしてから、優しく撫でるように取ります。
薬物療法
炎症を抑えるために、ステロイドが含まれた外用薬を使います。
できるだけ入浴後など清潔な状態で薬を塗るようにしましょう。
また、感染を防ぐために抗菌薬を内服することもあります。
テーピング法
テーピング法とは、痛みを和らげるために、伸縮性のあるテープを使って爪を固定する方法です。
ただしテープを強く巻きすぎると血流が悪くなり、指先の色が悪くなったり、しびれが出たりすることがあるため注意しましょう。
外科的処置
爪の下に膿がたまっている場合は、爪を一部または全部取り除いて膿を出す必要があります。
また、爪が皮膚に食い込んで痛みが強い場合は、その部分を少し切り取ります。
ただし、分子標的薬によって炎症が起きた場合、爪が再び生えてこないリスクがあるため、爪全体を抜くことは基本的におこないません。
爪囲炎になりやすい人・予防の方法
爪の周りの皮膚が炎症を起こす病気のため、水や土に頻繁に触れる仕事をしている方に多く見られます。
たとえば、家事をする主婦や、漁師、農家、美容師などです。
また、指しゃぶりをする子どもや、土遊びが好きな子どもにも起こりやすい傾向があります。
予防するためには、保清、保湿が欠かせません。
スキンケア
ハンドクリームや保湿剤などで手や足の保湿をおこないます。市販のものを使用する場合は、尿素や乳酸が含まれていない製品を選ぶと良いでしょう。
手を洗った後には、毎回クリームを塗るようにしましょう。
また、寝る前に保湿をしてから綿の手袋をつけると、保湿効果が高まります。
水仕事をする時に、手袋をするのも対策の一つです。
また、5本指の靴下は、足の指それぞれにかかる負担が軽減します。
爪のケア
爪を丸く切る習慣や深爪の癖がある方は、注意が必要です。
爪囲炎の予防のために、爪の角が皮膚に当たらないように整えましょう。
爪がもろくなったり、欠けやすくなったりした場合には、爪にも保湿剤やクリームを使うことで割れにくくなります。
爪が欠けたり亀裂が入ったりした際には、爪やすりで整えましょう。
参考文献