

監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
目次 -INDEX-
外傷性胸部圧迫症の概要
外傷性胸部圧迫症(がいしょうせいきょうぶあっぱくしょう)は、胸部を中心に「外部から」きわめて強い力が加わり続けることで発生する症状です。
災害や事故で発生する可能性のある、重篤な外傷の1つであり、心臓の疾患などを原因として胸に圧迫感や痛みが生じるものとは明確に区別されます。「外傷性窒息」「外傷性仮死」などと呼ばれることもあります。
外傷性胸部圧迫症の具体的な発症原因としては、土砂崩れ、雪崩、建物の倒壊、人混みでの将棋倒し、交通事故、工場の大型機械や農業機械による事故などが挙げられます。
外傷性胸部圧迫症の典型的な症状は、頭頸部(とうけいぶ)や肺周辺の毛細血管の破綻です。顔面は紫色に腫脹(しゅちょう)し、多数の溢血斑(いっけつはん)が生じます。肺や気道の圧迫や機能低下により呼吸不全、低酸素血症、意識障害なども合併することが多いとされています。
外傷性胸部圧迫症における症状の程度や回復の見込みは、圧迫の強さや時間、そして治療の迅速さによって大きく変わります。外傷性胸部圧迫症を発症する状況では、骨や臓器の損傷も起きている可能性が高いと言えます。そのため、患者さんの救命が最優先であることはもちろん、全身状態に注意して治療される必要があります。
早期の救助と適切な治療により良好な回復が期待できるケースもあるものの、短時間で心肺停止となりやすい重篤な障害であり、救助そのものが遅れて致命的になるケースや、治療後に重篤な後遺症が残るケースもあります。

外傷性胸部圧迫症の原因
外傷性胸部圧迫症の主な原因は、胸を中心とした胴体部分への強い圧迫です。
具体的には、土砂崩れや雪崩などの災害、建物や構造物の下敷きになる場合、大勢の人が折り重なる将棋倒し事故、交通事故等で体が挟まれる場合、工場機械や農業機械(トラクターなど)の操作上の事故、その他重い物の下敷きになる場合などが挙げられます。
声門が閉じた状態で胸郭に大きな外力が加わると、頭頸部および肺周辺の小静脈や毛細血管が、血管の内圧上昇に耐えきれずに破壊されます。その結果、溶血により顔面が変色するほか、脳循環や呼吸機能に障害が生じ、呼吸不全、意識障害、低酸素血症などを合併します。
外傷性胸部圧迫症の前兆や初期症状について
外傷性胸部圧迫症は偶発的な事故などにより生じるため、前兆はありません。
初期症状は受傷直後から見られ、顔面の腫脹、溢血斑など外見に特徴的な変化がみられるほか、呼吸不全、低酸素血症、意識障害なども合併する可能性があります。
また、受傷時には肋骨骨折や肺挫傷を伴っていることも多いため、血胸や気胸、あるいは出血性ショックなどを生じることもあります。
外傷性胸部圧迫症の検査・診断
外傷性胸部圧迫症は、受傷機転(発症原因となった事故の状況など)が明確であれば、通常は診断は容易です。特徴的な顔面の腫脹や変色、溢血斑、眼瞼結膜の点状出血など、あるいは低酸素血症等の臨床所見からも、総合的に診断が可能です。
外傷性胸部圧迫症を発症するような状況においては、他の外傷、あるいは肺や心臓、その他臓器の損傷、骨折などを併発していることは珍しくなく、患者さんのバイタルや全身状態に留意し救命治療が優先されたうえで、必要な検査がおこなわれます。
外傷性胸部圧迫症の治療
外傷性胸部圧迫症の治療は、救助(圧迫からの解放)と救命治療ののち、各症状に対しておこなわれます。
救助と救急処置
受傷直後は、できる限り早く患者さんを救助し、人工呼吸や心肺蘇生など救命のための応急処置を施します。外傷性胸部圧迫症では、患者さんは意識障害を起こしている可能性が高いため、救助者による連携した行動が重要です。
救命のための治療
一般的に外傷性胸部圧迫症では、患者さんの呼吸循環動態を安定させることが優先されます。必要に応じて酸素吸入や人工呼吸器の使用などが検討されます。心臓や肺付近の損傷、肋骨骨折などにより血胸や気胸が生じている場合は、胸腔ドレナージがおこなわれます。
その他の治療
受傷時にその他の部位の損傷を併発していた場合は、緊急性の高いものから順に、それぞれに応じた治療が行われます。
リハビリテーション
急性期の治療を終え救命できた場合でも、外傷性胸部圧迫症による低酸素血症から脳障害などの後遺症が残るケースがあります。こうした後遺症に対しては、必要に応じて機能回復を目指すためのリハビリテーションがおこなわれます。骨折等によるその他の障害に対しても、リハビリテーションが計画されます。
外傷性胸部圧迫症になりやすい人・予防の方法
外傷性胸部圧迫症は、特定の条件下で誰にでも起こりうるものですが、子どもや高齢者は特に注意が必要です。子どもは胸郭が柔らかく変形しやすいため、成人より少ない力でも影響を受けやすいです。高齢者は圧迫に対する抵抗力が弱いため症状が重くなりやすいです。
他にも体力の低い人や、安全に対する注意が不十分な人もリスクが高いと言えます。
外傷性胸部圧迫症では、日常生活での危険予測と、事故防止のための適切な安全対策が重要な予防手段となります。
万一事故が起きた場合は、胸部や腹部を圧迫している物をできるだけ早く取り除く必要があります。ただし、状況によっては、二次災害の発生には十分に注意する必要があります。救助にあたる側の安全確保に留意したうえで、救援を呼ぶなど柔軟な対応が求められます。
圧迫から解放されたら、すぐに医療機関での適切な検査と治療を受けることが重要です。
参考文献




