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肺好酸球性肉芽腫症
稲葉 龍之介

監修医師
稲葉 龍之介(医師)

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福井大学医学部医学科卒業。福井県済生会病院 臨床研修医、浜松医科大学医学部付属病院 内科専攻医、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員、磐田市立総合病院 呼吸器内科 医長などで経験を積む。現在は、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員。日本内科学会 総合内科専門医、日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本感染症学会 感染症専門医 、日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医。日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会(JMECC)修了。多数傷病者への対応標準化トレーニングコース(標準コース)修了。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。身体障害者福祉法第15条第1項に規定する診断医師。

肺好酸球性肉芽腫症の概要

肺好酸球性肉芽腫症は20~40歳の男性・喫煙者を中心にみられる、組織球の一種であるランゲルハンス細胞が肺や気管支壁で増殖することで組織破壊、線維化、嚢胞形成を起こす病気です。 同一病態であるHand-Schüller-Christian(HSC) 病、Letterer-Siwe(LS)病とまとめてランゲルハンス細胞組織球症と呼ばれますが、そのうち病変が肺のみに限局している病型を肺好酸球性肉芽腫症と呼びます。

肺好酸球性肉芽腫症の原因

組織球の一種で、通常は真皮・網内系・肺・胸膜に少数存在するランゲルハンス細胞が肺や気管支壁で反応性にポリクローナルな異常増殖をすることが肺好酸球性肉芽腫症の原因です。病変部位ではランゲルハンス細胞に加えて、好酸球、リンパ球、破骨細胞様巨細胞などさまざまな炎症細胞の浸潤を認めます。これらの細胞が互いに刺激して活性化し、重度の炎症を引き起こすことで組織破壊が起こり、進行すると線維化、嚢胞形成を来します。ランゲルハンス細胞の異常増殖自体のメカニズムはいまだに解明されていませんが、肺好酸球性肉芽腫症患者さんにおいては喫煙との関連が示唆されています。

肺好酸球性肉芽腫症の前兆や初期症状について

肺好酸球性肉芽腫症患者さんの自覚症状としては乾性咳嗽(56~70%)、呼吸困難(40~87%)、胸痛(10~21%)、倦怠感(30%)、体重減少(20~30%)、発熱(15%)が挙げられます。

通常、自覚症状が出現してから肺好酸球性肉芽腫症と診断されるまでは1年未満と言われています。 また成人ランゲルハンス細胞組織球症の患者さんの病型は肺好酸球性肉芽腫症が多く、25%の方で気胸を認めます。気胸を発症すると突然の呼吸困難、胸痛が認められます。

また尿崩症(15%)、嚢胞性骨病変(4~17%)による疼痛や骨折、褐色~紫色丘疹や湿疹などの皮膚病変(5%未満)、肝障害、腎障害を始めとした肺外病変が合併することがあります。

肺好酸球性肉芽腫症に特有の呼吸器症状はありません。しかし嚢胞性骨病変は肺好酸球性肉芽腫症に先行して認めることがあるため、喫煙している若年成人男性で、身体の節々の痛みに続いて乾性咳嗽、呼吸困難、胸痛などの症状を自覚した際や、気胸を認めた際には肺好酸球性肉芽腫症の可能性が否定できません。そのため呼吸器内科への受診を検討してください。またなかには、無症状のまま健康診断の胸部X線写真で胸部異常陰影として発見されることもあります。その際も呼吸器内科を受診してください。

肺好酸球性肉芽腫症の検査・診断

肺好酸球性肉芽腫症は胸部X線写真、胸部CT検査での特徴的な所見から疑われることが多い傾向にあります。

肺好酸球性肉芽腫症の胸部X線写真所見

  • 2~10mm大の境界不明瞭または星状の結節影
  • 網状影および結節影
  • 上肺野における肺嚢胞や蜂巣肺様変化
  • 肺容積減少はない
  • 肋骨横隔膜角に病変はない
なかでも上肺野における肺嚢胞や蜂巣肺様変化は肺好酸球性肉芽腫症に特徴的な所見とされます。

肺好酸球性肉芽腫症の胸部CT検査所見

肺好酸球性肉芽腫症の胸部CT検査所見は、両肺上葉優位に多発する嚢胞と結節影を認める一方で、肺底部の病変が乏しい点が特徴的です。結節影の境界は明瞭あるいは不明瞭いずれも認めます。嚢胞は壁が薄く、その大きさは大小さまざまなことが多いとされます。病変が進行すると蜂巣肺様変化を認めます。

また喫煙者に認める疾患であるため、呼吸細気管支炎または呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患および剥離性間質性肺炎の所見や、肺気腫または境界不明瞭な小葉中心性結節影・すりガラス影などの喫煙による所見を合併することがあります。

肺好酸球性肉芽腫症の診断基準

肺好酸球性肉芽腫症を診断するにあたっては呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患、剥離性間質性肺炎、過敏性肺炎、サルコイドーシス、肺非結核性抗酸菌症、肺結核、ブラ・ブレブ、好酸球性肺炎、空洞形成性肺腫瘍、シェーグレン症候群に伴う肺病変、リンパ球性間質性肺炎、リンパ脈管筋腫症、アミロイドーシス、キャッスルマン病、Birt-Hogg-Dube症候群、Light–chain deposition disease、慢性閉塞性肺疾患を除外する必要があります。そのため病理診断が必要で、気管支鏡検査や外科的肺生検が行われます。

また尿崩症、骨病変、皮膚病変、肝障害、腎障害などのランゲルハンス細胞組織球症の肺外病変の存在が疑われる場合にはそれらの精査も必要となります。肺好酸球性肉芽腫症と同様に、皮膚生検や骨生検が行われることもあります。

肺好酸球性肉下腫症の確定診断

採取した肺組織においてランゲルハンス細胞の増殖と好酸球やリンパ球、形質細胞を含む病変を認めることが肺好酸球性肉芽腫症の病理学的主要所見とされています。ランゲルハンス細胞の増殖は呼吸細気管支上皮、肺胞管壁、細気管支上皮下部位、線維化部位で認められます。また細気管支周囲などにstellate fibrosisを認めたり、細葉中心性に嚢胞状病変を認めたり、慢性経過では広範囲に気腫性病変が認められたり、呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患や剥離性間質性肺炎を伴ったりすることがあります。

なお気管支肺胞洗浄液中のランゲルハンス細胞が総細胞数の5%以上認められた際も組織所見と同等に扱うこととされています。 肺好酸球性肉芽腫症患者さん38名を対象とした研究では、気管支鏡検査での経気管支肺生検で50%、外科的肺生検で45%、気管支肺胞洗浄で5%の患者さんが診断されていました。

肺好酸球性肉芽腫症の治療

禁煙

肺好酸球性肉芽腫症において特に重要な治療は禁煙です。受動喫煙も避けるべきとされています。多くの方では禁煙のみで病勢が改善もしくは進行が抑えられます。加えて診断後1年間は、3ヶ月ごとに呼吸機能検査を行い、病勢進行の有無を確認することがすすめられます。

併存症の治療

喫煙者の方に起こる疾患であるため、慢性閉塞性肺疾患(COPD)をしばしば合併します。呼吸機能検査で可逆性の閉塞性換気障害を認める場合には吸入抗コリン薬・吸入長時間作用型β2刺激薬などの気管支拡張薬や、吸入ステロイドによって症状が改善する可能性があります。 同様に気胸、肺高血圧症を合併した患者さんではそれらの治療が行われます。 また労作時呼吸困難を自覚している患者さんでは、呼吸リハビリテーションを行うことで症状が軽快する可能性があります。

禁煙後も病状が進行する肺好酸球性肉芽腫症の治療

禁煙しても病状が進行する場合には副腎皮質ステロイドの投与が検討されます。プレドニゾロンを体重あたり0.25〜0.5mg/日または30mg/日から投与を開始し、6ヶ月かけて徐々に減量していきます。しかし副腎皮質ステロイドの治療効果は結節影が目立つ症例に限られるという報告もあり、治療反応性が乏しい場合には投与を終了することが望ましいとされます。

副腎皮質ステロイド投与でも改善が得られない場合には免疫抑制薬の投与が検討され、それでも改善が得られなければ肺移植も考慮されます。

肺好酸球性肉芽腫症になりやすい人・予防の方法

肺好酸球性肉芽腫症はまれな疾患であり、本邦での調査によると有病率は男性で10万人あたり0.27人、女性で10万人あたり0.07人と推定されています。20〜40歳の方で多くみられ、一般的には男女比は均等とされますが、肺好酸球性肉芽腫症患者さんの90%以上は喫煙者であることから実際には男性に多く認められる傾向にあります。

ランゲルハンス細胞の異常増殖自体のメカニズムはいまだに解明されていませんが、肺好酸球性肉芽腫症患者さんにおいては喫煙との関連が示唆されていることから、予防のためには禁煙が重要となります。

肺好酸球性肉芽腫症の予後

肺好酸球性肉芽腫症患者さんの全生存率は良好であり、大規模な前向きコホート研究では10年生存率が90%を超えることが示されています。しかし患者さんごとに経過は異なり、5%の患者さんでは肺の線維化が進行したり、肺癌を発症する方もいます。予後因子としては肺病変の広がりやびまん性肺嚢胞の有無、高度な呼吸機能障害の有無、高齢での発症、症状持続の有無、気胸の反復、骨以外の肺外病変の有無、喫煙の継続、肺高血圧症の合併などが報告されています。

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