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鼓膜損傷
小島 敬史

監修医師
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)

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慶應義塾大学医学部卒。医師、医学博士。専門は耳科、聴覚。大学病院および地域の基幹病院で耳鼻咽喉科医として15年以上勤務。2年間米国で基礎研究に従事の経験あり。耳鼻咽喉科一般の臨床に従事し、専門の耳科のみならず広く鼻科、喉頭、および頭頸部腫瘍疾患の診療を行っている。日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医。日本耳科学会、日本聴覚医学会、日本耳鼻咽喉科臨床学会の各種会員。補聴器適合判定医、補聴器相談医。

鼓膜損傷の概要

鼓膜の構造

鼓膜(こまく)は、外耳(耳の穴)と中耳(耳小骨がある空間)を隔てる薄い膜状の組織です。厚さはわずか0.1mm程度、直径1cm程度の楕円形をしています。
鼓膜は三層構造になっており、外側から外層(外耳道側)、中層(繊維層)、内層(中耳側)で構成されています。

外層(外耳道側)

皮膚と同じ細胞でできており、外耳道と連続しています。外傷などの刺激に対して強いと言われています。

中層(繊維層)

コラーゲン線維が縦横に走っており、鼓膜の強度を維持する役割があります。この層が損傷すると鼓膜の修復が困難になることがあります。

内層(中耳側)

鼓室の粘膜とつながっており、感染症などの影響を受けやすいと言われています。

この精巧な構造により、微細な音波も正確に捉えることができるのです。

鼓膜の働き

鼓膜は、外耳道の奥に位置し、音波を振動として捉え、その振動を中耳にある耳小骨に伝える役割があります。また、中耳を外部から保護する防壁としても機能しています。

音の振動をキャッチする
空気の振動(音波)を感知し、耳小骨へ伝えます。
中耳を外界から保護する
細菌や異物の侵入を防ぐバリアの役割を持っています。

鼓膜損傷とは

鼓膜損傷とは、外耳と中耳の境界にある薄い膜(鼓膜)が破れたり傷ついたりする状態を指します。「鼓膜穿孔(こまくせんこう)」とも呼ばれ、耳の痛みや聴力低下、耳鳴りなどの症状が現れることが特徴です。程度によって軽度の穴から完全な断裂までさまざまで、日常生活に支障をきたす可能性がある重要な疾患です。

鼓膜損傷の原因

外傷性損傷

耳かきや綿棒の誤使用で深く突きすぎると鼓膜に穴を開けてしまいます。

低い位置の樹木や虫の侵入
物理的に損傷を受けることがあります。
気圧の変化
飛行機の離着陸時、強く鼻を噛む動作など、外気圧の急激な変化や、耳管を通じた気圧によって鼓膜に強い負荷がかかります。
頭部への強い衝撃
事故や殴られるなど、事故や打撃、転倒によって直接鼓膜が破れることがあります。
爆発音などの強大音
強い圧力の変化で鼓膜が破裂することがあります。

感染性損傷

中耳炎による炎症
鼓膜の裏側に膿が溜まり、鼓膜に圧力が加わり破れることがあります。

その他

急激な水圧
飛び込みや、ダイビング時の急速な浮上など水圧の急激な変化により鼓膜が破れることがあります。

鼓膜損傷の前兆や初期症状について

主な症状には以下のようなものがあります。

耳の痛み

急激な破裂では強い痛みが伴う場合が多いです。中耳炎による破裂では、破れる前に強い痛みがあり、破裂後は痛みが軽減することが多いです。

耳鳴り

聴力低下に伴い、「キーン」や「ブーン」といった音が聞こえることがあります。

聴力低下

穿孔の大きさに比例して聴力低下の程度が異なります。また、穴が開くことで鼓膜から内耳への音の伝達が阻害されるため、言葉が聞き取りにくくなることがあります。一時的な聴力低下だけでなく、聞こえの悪さが持続する場合、聴覚神経への影響や内耳の問題が関与している可能性があります。

耳からの出血や浸出液

中耳炎による鼓膜穿孔では、膿(のう)といって白や黄色っぽい液体が流れ出ることがあります。これは感染や炎症によるもので、早期の治療が必要です。

めまい

平衡感覚や聴覚が障害されることでめまいが発生することがあります。
これらの症状が現れる理由は、鼓膜の損傷により音を正確に伝えられなくなることや、特に外傷による鼓膜損傷では内耳損傷が生じている可能性を示しています。

鼓膜損傷が疑われる場合は、耳鼻科を受診しましょう。

鼓膜損傷の検査・診断

診断に必要な検査

耳鏡検査
医師が特殊な機器(耳鏡)を使用して、直接鼓膜を観察します。これにより損傷の位置や大きさを確認できます。
純音聴力検査(オージオグラム)
各周波数での聴力レベルを測定します。
CT検査やMRI検査
複雑な症例や中耳・内耳の状態確認が必要な場合に実施することがあります。

診断基準

鼓膜損傷の重症度は以下のように分類されます。

Grade I
小穿孔(鼓膜面積の25%未満)、自然に治ることが多い
Grade II
中等度穿孔(25-50%)、聴力低下が強くなり、治療が必要な場合がある
Grade III
大穿孔(50%以上)、大きな穿孔(6mm以上):手術が必要になることが多い
Grade IV
完全穿孔、高度の難聴を伴い、早急な治療が必要

鼓膜損傷の治療

保存的治療

軽度の損傷の場合、自己修復されることがあるため自然治癒を待つことがあります。この間、耳への汚い水の侵入を防ぐ、過度な音への曝露を避けるなど、日常生活において注意が必要です。穿孔を生じてから3ヶ月〜半年程度は自然閉鎖の可能性があると考えられています。

薬物療法

痛みを和らげるための鎮痛剤や、感染予防や感染症に対して抗生剤の点耳薬や内服薬を使用することがあります。

手術的治療

重度の損傷や頻繁に再発する損傷の場合などで、自然治癒が期待できない場合は、鼓膜形成術を行います。一般的に局所麻酔・日帰りで行うことのできる手術で、自身の組織(側頭筋膜など)を使用して穿孔を塞ぎます。穿孔の大きさや罹病期間によって閉鎖率が異なりますが、80~90%程度の閉鎖率と考えられています。

鼓膜損傷になりやすい人・予防の方法

鼓膜損傷になりやすい人・予防の方法には、以下のような特徴があります。

耳掃除を頻繁にする方

耳の中を傷つけ感染を引き起こしやすくなります。

耳の清潔管理

耳掃除は月1回程度にとどめてください。本来耳垢は自然に排出されます。過度な耳かきは鼓膜を傷つけるリスクがあり、湿った環境は細菌増殖の原因となります。耳掃除を専門家(耳鼻科)に任せることで、鼓膜への直接的なストレスを減少させることができます。

航空機の利用が多い方

圧力変化の影響を受ける頻度が多いため、鼓膜損傷のリスクが高まります。

圧力変化への対応

飛行機の離着陸時はガムを噛む、あくびや唾を飲み込む
これらの行動により耳管が開き、中耳の圧力を外気圧と均等に保てます。
体調を整え、飲酒は控える
風邪を引いていたり、飲酒状態だと粘膜がむくんで圧の変化に対応しにくくなります。飛行機に乗る前はしっかり睡眠を取りましょう。

水泳やスキューバダイビングを頻繁に行う方

スイマーやダイバーは、水中にいることで圧力変化を経験しやすいため、鼓膜損傷のリスクが高まります。

水泳時の注意

耳栓の使用、飛び込むときは鼻をつまむ:急激な水圧から鼓膜を保護し、中耳への水の侵入を防ぎます。

急性・慢性の中耳炎を繰り返す方

繰り返す感染によって、鼓膜が脆弱化(ぜいじゃくか)し、損傷しやすくなります。

感染予防

風邪症状時は早めの受診、適切な湿度管理
上気道感染が中耳炎を引き起こし、結果として鼓膜損傷のリスクが高まるためです。

過去に耳に手術を受けたことがある方

過去に耳に関する手術を受けた方は、鼓膜が脆弱化している可能性があります。

鼓膜の保護

耳栓をするなど、圧の変化や異物や水の侵入を物理的に予防しましょう。
鼓膜損傷は、耳掃除のしすぎや外傷、気圧変化などによって発生します。
軽度なら自然治癒することもありますが、耳鳴りや聴力低下が続く場合は早めに耳鼻科を受診しましょう。鼓膜損傷は適切な予防と早期発見・治療により、深刻な合併症を防ぐことができます。日常生活の中での予防策を実践し、大切な聴覚を守ることが重要です。

関連する病気

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  • 爆風外傷
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  • 真珠腫性中耳炎
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  • 感音性難聴
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