

監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
閉塞性細気管支炎の概要
閉塞性細気管支炎(Bronchiolitis obliterans:BO)は、細気管支の狭窄や閉塞を引き起こす不可逆的な疾患です。主な原因は多岐にわたり、病態としては細気管支領域での肉芽組織の増生や線維化が特徴的です。この結果、気道が狭窄し、呼吸機能が低下します。
閉塞性細気管支炎の原因
閉塞性細気管支炎(BO)は、細気管支が狭くなったり閉塞したりすることで呼吸がしにくくなる病気です。その原因にはさまざまなものがあり、以下のように分類されます。
1. 感染症
アデノウイルス、RSウイルス、マイコプラズマなどの感染が原因となることがあります。
特に小児では、これらのウイルス感染後に発症することが知られています。
2. 有害物質の吸入
ガスや粉塵
二酸化窒素、二酸化硫黄、アスベスト、珪素などの吸入が原因となる場合があります。
職業性リスク
電子レンジ用ポップコーン工場で働く人が、バターの香り成分「ジアセチル」の吸入により発症した事例が報告されています。
3. 薬剤
ペニシラミンや金製剤など、一部の薬剤がBOを引き起こす可能性があります。
特に関節リウマチの治療に使われるD-ペニシラミンには注意が必要ですが近年では生物学的製剤などが中心で、ペニシラミン・金製剤が使用される頻度は減っています。
4. 膠原病
関節リウマチやシェーグレン症候群などの膠原病がBOを合併することがあります。
5. 臓器移植
骨髄移植、肺移植、心肺移植後にBOが発症することがあります。
特に肺移植では、BOは慢性拒絶反応の一種と考えられています。
6. 健康食品
過去に、アマメシバ(Sauropus androgynous)というダイエット目的の健康食品がBOを引き起こすことが確認され、販売が禁止されました。
7. その他の原因
腫瘍随伴性天疱瘡
悪性リンパ腫や慢性リンパ球性白血病などに関連してBOが発症することがあります。
びまん性細気管支神経内分泌細胞過形成
まれにBOの原因となります。
閉塞性細気管支炎の前兆や初期症状について
閉塞性細気管支炎(BO)は、細気管支が狭くなったり閉塞することで、呼吸に支障をきたす病気です。しかし、初期段階では症状がほとんどなく、気づかれにくいことが多いです。以下にBOの初期症状や進行時に現れる兆候を分かりやすくまとめました。
初期症状
息切れ
特に運動や体を動かしたときに息切れを感じることがあります。
乾性咳嗽(痰のない咳)
咳が出ても痰が伴わないことが多いです。
労作時呼吸困難
階段の上り下りなど、体を動かすと呼吸が苦しくなることがあります。
喘鳴
ゼーゼー、ヒューヒューといった音が聞こえることがありますが、気管支拡張薬に反応しにくいことが特徴です。
小水泡音や乾性ラ音
胸部の聴診で、小さな水泡が弾けるような音や乾いた雑音が聞こえることがあります。
進行した場合の症状
呼吸不全
息切れが悪化し、日常生活に支障をきたすようになります。
気管支拡張
細気管支が閉塞することで、より太い気管支が広がることがあります。
気胸・縦隔気腫
胸部内の圧力が上がり、肺が破れる(気胸)や縦隔に空気がたまる(縦隔気腫)ことがあります。
繰り返す気道感染
免疫力が低下したり気道の清掃機能が失われることで、感染症を繰り返すことがあります。
これらの症状が現れた際は呼吸器内科を受診しましょう。
閉塞性細気管支炎の検査・診断
閉塞性細気管支炎(BO)は、初期には症状が乏しいことが多く、診断が難しい病気です。正確な診断には、症状、呼吸機能検査、画像検査、病理検査を組み合わせて総合的に評価することが重要です。
1. 呼吸機能検査
主な特徴
呼吸機能検査で「閉塞性換気障害」が確認されることが多いです。
見られる変化
- 1秒量の低下
- 1秒率の低下
- 残気量の増加(空気が肺に閉じ込められる)
- 最大中間呼気流速(MMEF)の低下
進行すると
- 残気量がさらに増加
- 肺活量が減少し、「混合性換気障害」を示すようになります。
特徴的な所見
- フローボリューム曲線で「下に凸」のパターンが見られます。
2. 画像検査
胸部X線検査
- 初期では異常が見られないことが多いです。
- 進行例では、肺の過膨張、血管の狭小化、気管支拡張が見られることがあります。
高分解能CT(HRCT)
特徴的な所見
- 肺の「モザイクパターン」(濃淡のばらつき)が見られます。
- モザイクパターンは呼気時により明確になり、air trapping(空気の閉じ込め)が確認できます。
注意点
- モザイクパターンはほかの疾患(気管支喘息、肺血栓塞栓症など)でも見られるため、慎重な診断が必要です。
3. 病理検査
確定診断には、外科的肺生検が重要ですが、侵襲的な検査のため、患者さんの状態に応じて実施されます。
特徴的な所見
- 細気管支が肉芽組織や線維化で狭窄・閉塞している。
- 2つのタイプに分類
Constrictiveタイプ
気道の構造が保たれ、内腔が狭くなる。
Cellularタイプ
気道壁が細胞浸潤によって破壊される。
4. その他の検査
肺換気・血流シンチグラフィー
病変部に「陰影欠損」が見られ、特に早期診断に有用です。
換気と血流の両方に欠損がある場合(matched defect)はBOを疑います。
血液検査
BOに特異的な異常はありませんが、基礎疾患の有無や合併症の確認に役立ちます。
閉塞性細気管支炎の治療
閉塞性細気管支炎(BO)は、治療が難しい病気で、確立された有効な治療法が少ないとされています。主な治療の目標は、症状を軽減し、病気の進行を抑えることです。以下に主な治療法をわかりやすくまとめました。
1. 薬物療法
気管支拡張薬
呼吸を楽にするために使われます。長時間作用性抗コリン薬(LAMA)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)が一般的です。
吸入ステロイド薬(ICS)/LABA
気道の炎症を抑える目的で使用されます。
鎮咳薬・去痰薬
咳や痰の症状を和らげるために使用されます。
免疫抑制薬
免疫の過剰な反応を抑えるためにカルシニューリン阻害薬やステロイドが使用されます。ただし効果は限られる場合があります。
マクロライド薬(アジスロマイシン)
呼吸機能の改善効果が報告されています。抗菌作用以外に、気道粘液の分泌を抑える効果も期待されています。
ロイコトリエン受容体拮抗薬
呼吸機能の改善が見られることがあります。
吸入シクロスポリン
肺移植後のBOに対する発症抑制効果があるとされています。
2. 酸素療法
慢性呼吸不全がある場合、在宅酸素療法が導入されます。酸素供給を行うことで、症状を軽減し、生活の質を向上させることを目指します。
3. 肺移植
BOが進行し、薬物療法で改善が見られない場合は肺移植が検討されます。特に若年者や重症例に適応されますが、移植後も注意が必要です。
肺移植後の慢性拒絶反応としてBOが再発することがあり、引き続き治療が必要となる場合があります。
閉塞性細気管支炎になりやすい人・予防の方法
閉塞性細気管支炎(BO)になりやすい人
基礎疾患を持つ人
- 膠原病(関節リウマチ、Sjögren症候群など)、臓器移植後、感染症後(アデノウイルス、RSウイルスなど)。
特定の薬剤を使用している人
- ペニシラミン、金製剤など。
有害物質に曝露している人
- アスベスト、粉塵、電子レンジ用ポップコーンの香料(ジアセチル)など。
特定の食品を摂取した人
- アマメシバ(摂取禁止食品)。
予防法
1.基礎疾患の管理
膠原病や移植後は適切な治療を受ける。
2.有害物質への曝露を避ける
禁煙、保護具の使用、職業性リスクの軽減。
3.感染症予防
手洗い、ワクチン接種で呼吸器感染症を防ぐ。
4.食品摂取の注意
アマメシバなどリスクのある食品を避ける。
5.早期発見・治療
息切れや咳の症状があれば早めに医療機関を受診する。
参考文献
- 長谷川好規:閉塞性細気管支炎の病態と治療.日内誌 100(3):772‒776,2011
- 難治性びまん性肺疾患診療の手引き作成委員 会:難治性びまん性肺疾患診療の手引き.南江 堂,2017