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正中頸嚢胞
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

正中頸嚢胞の概要

正中頸嚢胞(せいちゅうけいのうほう)は、首の真ん中の喉ぼとけの上あたりに、丸く小さな嚢胞(のうほう)ができる先天性の疾患です。

正中頸嚢胞は、先天性の頸部腫瘤の約70%を占めるとされ、舌のつけ根から鎖骨の上のあたりまでのさまざまな場所に発生しますが、最も多いのは首の真ん中あたり、あごと首の境目付近です。

正中頸嚢胞では、通常、痛みや異物感などを感じることは少なく、多くの場合は無症状で経過します。しかし、細菌などによる感染を起こした場合には赤く腫れることがあり、嚢胞が大きくなると、穴が開いて分泌物が漏れ出る「瘻孔(ろうこう)」の状態になることがあります。

正中頸嚢胞は、胎児期に甲状腺ができる過程の異常が原因でできると考えられています。
治療は、手術によって嚢胞を取り除くことが基本となります。ただし、手術を行っても再発することがあります。

正中頸嚢胞以外にもある首の腫瘤

首に生じる腫瘤(こぶ、かたまり)は頸部腫瘤とよばれ、正中頸嚢胞以外にも多くの疾患の存在が知られています。代表的なものを挙げると、側頸嚢胞(そくけいのうほう)、リンパ管腫、皮様嚢腫(ひようのうしゅ)、類上皮腫(るいじょうひしゅ)などがあります。

それらの悪性度は、がんに近いような悪性のものから、良性のものまでさまざまです。したがって、首付近にこぶを見つけた場合は、できるだけすみやかに医療機関で診断を受けるとよいでしょう。

正中頸嚢胞の原因

正中頸嚢胞の原因は、胎児期における甲状腺の形成過程に関係しています。

胎児期に甲状腺が発生する過程では、一時的に「甲状舌管(こうじょうぜっかん)」とよばれる管状の構造が形成されることが知られています。甲状舌管は通常、胎児期のうちに退縮して完全に消失する組織です。しかし、甲状舌管が完全に消失せずに残ってしまうと、袋状のかたまりとなって内部に水様性・粘性の分泌物がたまりることがあり、これが正中頸嚢胞ができる原因となります。
正中頸嚢胞はこのような原因に合わせ、「甲状舌管嚢胞」と呼ばれることもあります。

胎児期に甲状腺の形成過程に異常がみられる原因や要因については、まだ解明されていません。

正中頸嚢胞の前兆や初期症状について

初期段階の小さな正中頸嚢胞は、痛みや異物感などの症状がみられないことが一般的です。そのため、先天性の疾患であるものの、出生時や幼少期には発症に気づかれないケースもあります。

正中頸嚢胞が大きくなると、あごと首の境目付近にふくらみが目立つようになります。この腫瘤(しゅりゅう=こぶ)はやわらかく、触ると動くのが特徴です。

細菌などへの感染があると、嚢胞が赤く腫れ、痛みをともなうことがあります。正中頸嚢胞の場所によっては、のどのあたりの違和感や飲み込みにくさを感じることもあります。また、穴が開いてやぶれることもあり、分泌物が漏れ出る「瘻孔(ろうこう)」となることもあります。

正中頸嚢胞の検査・診断

正中頸嚢胞の診断は、主にまず触診や画像検査がおこなわれます。頸部に腫瘤がある場合、視診と触診によって大きさや位置、可動性などを確認します。

画像検査の中の超音波検査は、嚢胞の内部構造や周囲組織との癒着などを確認するのに適しており、患者への負担も少ない非侵襲的な検査です。必要に応じて、CTやMRIなどもおこなわれる場合があります。首に生じるふくらみやしこりは他の疾患でも見られる場合があり、これらの検査は他の疾患との鑑別においても非常に重要です。

正中頸嚢胞の確定診断には、腫瘤内の細胞を顕微鏡で確認する組織検査をおこなうのが一般的です。

正中頸嚢胞の治療

正中頸嚢胞が小さく、細菌感染などによる症状がみられない場合は、経過観察となることがあります。とくに小児期では、リンパ節炎と鑑別することが難しいケースもあり、正中頸嚢胞と確定診断されるまで経過観察となることがあります。

正中頸嚢胞は通常、自然と小さくなったり消失したりすることはありません。嚢胞が目立つ場合や大きくなっている場合、あるいは何らかの症状がある場合には、手術による摘出が推奨されます。

嚢胞に細い針を刺して液体性の内容物を吸引する処置や、嚢胞を切開して膿などを排出させる処置がおこなわれることがありますが、嚢胞の再発を繰り返すことが多いため、手術によって完全に摘出する方法が一般的な治療となっています。感染リスクを抑えるという点においても、外科的手術が効果的と考えられています。
正中頸嚢胞の手術では、嚢胞だけでなく、舌骨の一部や嚢胞と連続している甲状舌管の残存部分を含めて完全に摘出する手術法(シストランク手術)が推奨されています。正中頸嚢胞が完全に摘出できれば再発のリスクは低くなりますが、手術が適切に行われていても数パーセント程度に再発があると言われています。

患部に感染による炎症がみられる場合は、手術前に抗生物質を用い、炎症を抑えます。

正中頸嚢胞になりやすい人・予防の方法

正中頸嚢胞の発症に男女差はないとされています。
正中頸嚢胞は先天性の疾患であるため、特定の予防方法はありませんが、早期発見により適切な管理や処置が可能となります。小児期に首のしこりや腫れなどがみられた場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

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