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頸部リンパ節腫脹
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

頸部リンパ節腫脹の概要

頸部リンパ節腫脹(けいぶりんぱせつしゅちょう)とは、首にあるリンパ節が通常よりも大きく腫れる状態を指します。リンパ節は、リンパ管の途中にある組織で、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除する免疫において重要な役割を担っています。通常、正常のリンパ節の大きさは直径1cm以下ですが、それを超える場合に「リンパ節腫脹」と診断されます。

頸部リンパ節腫脹の症状は、リンパ節の腫れやしこりです。腫脹の原因によって症状のあらわれ方は異なり、痛みをともなわない場合もあれば、痛みや発熱や皮疹(皮膚の変化)などの全身症状をともなう場合もあります。

頸部リンパ節腫脹の原因は多岐にわたり、感染や腫瘍、自己免疫疾患などが含まれます。原因によって治療も異なり、感染が原因の場合は、対症療法、抗菌薬や消炎鎮痛剤による治療が行われます。悪性腫瘍が原因の場合は、がんの発生場所(原発部位)を調べる検査などを行い、それぞれに適した治療が行われます。

頸部リンパ節腫脹の多くは一時的な感染症によるものですが、まれにがんや他の臓器からのがんの転移といった深刻な病態が隠れている場合もあります。

頸部リンパ節腫脹の原因

頸部リンパ節腫脹の主な原因は、炎症性疾患や悪性疾患です。

炎症性疾患の場合、ウイルスや細菌による感染症が一般的です。感染症の原因となる病原体は、伝染性単核球症(EBV)、麻疹、風疹、ムンプス、ヘルペス、HIV感染、ブドウ球菌、溶連菌、結核菌、トキソプラズマなど多岐にわたります。

一方、感染症以外の炎症性疾患としては、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、リウマチ、シェーグレン症候群など)が挙げられます。自己免疫疾患では、免疫反応が過剰になり、自らの組織や細胞を攻撃することがリンパ節の腫れの原因となります。また、川崎病や亜急性壊死性リンパ節炎、サルコイドーシスなども頸部リンパ節腫脹を引き起こすことがあります。

悪性疾患が原因の場合、頸部リンパ節そのものががん化している場合と、他の部位で発生したがんが頸部リンパ節に転移している場合があります。

頸部リンパ節腫脹の前兆や初期症状について

首には、耳の周囲、首の側方、鎖骨の上下、耳からあごにかけての骨のライン上などに多数のリンパ節が存在しています。頸部リンパ節腫脹では、これらのリンパ節に腫れやしこりがみられます。

リンパ節は通常は柔らかくて小さい器官で、皮膚の上から指先で触れても、わずかに存在がわかる程度のものです。しかし、なんらかの原因でリンパ節が腫れると、外からしこりとして明らかに触れられるようになったり、しこりが硬くなったり、触れたときに痛みをともなったりする場合があります。

感染症による頸部リンパ節腫脹では、前兆として喉の違和感や軽度の痛み、発熱、鼻水、咳があらわれることがあります。原因となる感染症によって症状は異なり、のどの粘膜が赤くなる、いちご状の舌がみられる、全身に発疹がでるなど、病原体の種類や感染部位により、さまざまな症状をともなうこともあります。

自己免疫疾患にともなう頸部リンパ節腫脹では、特徴的な症状が出にくいケースもあることが知られています。

一方、リンパ節のがん化や、がんの転移による頸部リンパ節腫脹では、痛みをともなわず、硬いリンパ節の腫れやしこりがみられることが特徴です。とくに、がんの転移による場合は、リンパ節の可動性が低下し、動きが悪くなることがあります。発熱、倦怠感、大量の寝汗、体重減少などの全身症状をともなうこともあります。

頸部リンパ節腫脹の検査・診断

頸部リンパ節腫脹の診断では、まず問診や触診、視診が行われます。触診や視診では、リンパ節の腫れやしこりの大きさ、硬さ、可動性などを確認し、痛みの有無やその他の症状についてくわしく聞き取ります。その後、血液検査や画像検査などが実施されます。

血液検査では、炎症反応を示すCRP値や白血球数、特定の感染症の抗体の有無などを調べることが一般的です。CTやMRI、エコー検査による画像診断では、リンパ節の腫れやしこりのサイズ、位置、内部構造、リンパ節の周囲の状態などをくわしく調べることができます。これらの検査は、他の部位の腫瘍の有無や全身状態の確認においても有用な検査です。

また、必要に応じて、細い針でリンパ節の組織の一部を採取し、顕微鏡で調べる病理検査(穿刺吸引細胞診)が行われることがあります。この検査では、悪性の有無や細胞の特性などを確認することが可能です。

頸部リンパ節腫脹の治療

頸部リンパ節腫脹の治療は、原因によって異なります。感染症が原因の場合、抗菌薬や消炎鎮痛薬を使用するのが一般的ですが、自然に治癒することもあります。また、急性の炎症を抑えるためにステロイドを使用する場合もあります。

悪性疾患が疑われる場合には、手術による外科的切除や放射線療法、抗がん剤による化学療法といった専門的な治療が必要です。これらはがんの種類や進行度に応じて選択されます。

頸部リンパ節腫脹は、原因となっている疾患の治療を行うことで改善が期待できます。そのため、原因を早期に診断し、適切な治療を行うことが重要です。

頸部リンパ節腫脹になりやすい人・予防の方法

頸部リンパ節腫脹は、さまざまな発症原因が考えられるため、完全に予防することは難しいとされています。ただし、多くの場合で感染症が原因となっていることから、感染症を予防することが、頸部リンパ節腫脹の予防にも有効であるといえます。

日常生活で感染を予防するためには、手洗いやうがいを徹底することや、人混みやマスクの着用、部屋の換気などによりウイルスや細菌への接触を減らすことが基本です。加えて、栄養バランスの取れた食事を心がけることや、過度なストレスや睡眠不足を避けること、適度な運動を取り入れるといった健康的な生活習慣も大切です。

頸部リンパ節腫脹は感染症以外の発症要因、すなわち自己免疫疾患やがんに伴う症状として現れることもまれにあることを知っておきましょう。リンパ節の腫れやしこりが急激に大きくなった場合や、腫れが長期間続いている場合、痛みをともなわない硬いしこりがみられる場合などでは、すみやかに医療機関を受診して、重大な疾患の発見を早めることが重要です。

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