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慢性中耳炎
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

慢性中耳炎の概要

慢性中耳炎は、耳の中の鼓膜の内側にある中耳部分の炎症が慢性化する病気です。

耳から液体や膿が繰り返し出てくる「耳だれ」や、聞こえが悪くなる「難聴」が特徴的な症状です。

慢性中耳炎は、「慢性単純性中耳炎」と「真珠腫性(しんじゅしゅせい)中耳炎」の2種類に分類されます。

慢性単純性中耳炎では、粘膜の炎症が続き、鼓膜に穴が開くような症例が多く見られます。放置すれば難聴が進み治りづらくなるケースもあります。真珠腫性中耳炎はさらに重篤な中耳炎として知られ、鼓膜の穴に入り込んだ皮膚が「真珠腫」と呼ばれる病変を形成し、耳小骨を破壊するなどの合併症を引き起こします。

慢性中耳炎の治療は、主に薬物療法による保存療法がとられますが、鼓膜や耳小骨へ病変が進んでいるケースでは、外科的手術による治療も選択されます。

中耳炎を起こしやすい人(副鼻腔炎などの鼻疾患、高齢者、小児)では特に注意が必要な疾患です。中耳炎を放置せず、適切なケアや治療を早めに受けることで、慢性中耳炎の発症リスクを下げることができます。

慢性中耳炎の原因

慢性中耳炎は、主に急性中耳炎や滲出性(しんしゅつせい)中耳炎が完治せずに慢性化することで発症します。中耳炎の慢性化の要因としては以下のようなものがあります。

鼻やのどの慢性的な炎症

副鼻腔炎(蓄膿症)やアデノイド肥大などにより、鼻やのどに長期間炎症が続くと、慢性中耳炎の原因となることがあります。鼻やのどの炎症が、中耳と鼻をつなぐ「耳管」に影響を与えるためです。

耳管は、中耳と鼻の奥をつなぐ細い管で、中耳の空気の入れ替え、分泌物の排出、感染予防という働きをもっています。しかし、副鼻腔炎やアデノイド肥大などの鼻・のどの慢性的な炎症で、耳管の働きが妨げられると、炎症が長引きやすい状態となります。

免疫力の低下

免疫機能の低下がみられる高齢者などでは、中耳炎を起こしやすいことが知られています。他の疾患の影響や治療薬の影響により、免疫力が低下している人も中耳炎が慢性化しやすく、注意が必要です。

小児

子どもの耳管は短く、耳管を開く筋肉も未発達で、耳管の換気機能が大人より弱いことが知られています。そのため、小児は中耳炎を起こしやすいとされています。さらに、風邪などによる上気道炎が加わると、より中耳炎が慢性化しやすくなります。

慢性中耳炎の前兆や初期症状について

慢性中耳炎の主な症状は、耳だれと難聴です。

耳だれとは、内耳の炎症でできた膿が、鼓膜の穴を通って耳の外に出てくる現象です。
中耳炎や慢性中耳炎を発症していても、必ず耳だれの症状がみられるわけではありません。中耳に膿がたまった状態になり、より症状が悪化するケースもあります。

慢性中耳炎が悪化すればするほど難聴はより深刻なものとなります。小児や高齢者は難聴の症状が出ていても、気がつかないケースがあるため、特に注意が必要です。

そのほか、病状によって、めまいや耳鳴り、発熱、頭痛、顔面神経麻痺などの症状があらわれることがあります。

慢性中耳炎の検査・診断

慢性中耳炎の診断は、複数の検査を組み合わせて行います。

問診・視診

いつから症状があるのか、耳だれの頻度、難聴の程度、めまいや耳鳴りの有無など、詳しく聞き取ります。その後、耳鏡や顕微鏡を使って、鼓膜の状態や空いた穴の大きさ、中耳の状態を観察します。

聴力検査

聴力が低下しているかを調べるため、聴力検査を行います。また、通常の聴力検査に加えて、「パッチテスト」という特殊な検査を行うこともあります。

パッチテストは、鼓膜の穴を一時的に人工の膜で塞いで聴力検査を行うものです。手術で鼓膜を修復した場合、聴力がどれだけ改善されるかを予測することができます。

画像検査

必要に応じて、中耳の炎症の範囲や、真珠腫の有無、耳小骨の状態などを確認します。

慢性中耳炎の治療

慢性中耳炎の主な治療法は、保存療法と手術療法です。

保存療法

慢性中耳炎の保存療法は、主に耳だれがある場合の治療として行われます。

耳の中を清潔に保つため、耳鼻科医が顕微鏡を使いながら、耳だれや膿を取り除きます。点耳薬が患部に行きわたるようにするためにも重要な処置です。

点耳薬は、抗菌作用や抗炎症作用のある薬を使用します。炎症が強い場合や、発熱などの全身症状がある場合には、別途、抗生物質の内服薬も服用します。

ただし、鼓膜に穴が開いたままでは再発を繰り返すことが多いため、保存療法で症状が落ち着いてから手術療法を検討することになります。

手術療法

手術の方法は、慢性中耳炎の種類や症状の程度によって異なります。

鼓膜に穴が開いているだけの比較的軽症な場合は、鼓膜形成術を行います。鼓膜形成術では、患者自身の組織を使って鼓膜の穴を塞ぎます。多くの場合、耳の穴から手術を行うことが可能です。

一方、音を伝える小さな骨(耳小骨)にも問題がある場合や、真珠腫性中耳炎である場合は「鼓室形成術」が必要です。鼓室形成術では、耳の後ろを切開して中耳内の病変部分を取り除きます。必要に応じて人工の耳小骨を入れることもあります。

慢性中耳炎になりやすい人・予防の方法

中耳炎を繰り返しやすい人や、鼻やのどの慢性的な炎症がある人は、慢性中耳炎になりやすい傾向があります。また、免疫力の低下がみられる高齢者などで、発症しやすい場合があります。

慢性中耳炎の予防には、急性中耳炎を早期に治療することが重要です。風邪をひいたときは早めに治療を受け、鼻やのどの炎症を長引かせないようにしましょう。

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