

監修医師:
大坂 貴史(医師)
急性喉頭炎の概要
急性喉頭炎とは、声帯を含む喉頭(こうとう)という部分に急性の炎症が起こる病気のことを指します。喉頭は、のど仏のあたりに位置し、空気の通り道として重要な役割を果たしているだけでなく、発声にも関与しています。この喉頭が急に炎症を起こすと、声がかすれる、のどが痛む、咳が出るなどの症状が現れるのが特徴です。
多くの場合、ウイルスや細菌の感染が原因で発症します。特に風邪をひいたときに喉頭も一緒に炎症を起こすことが多く、それが急性喉頭炎です。発症してからの経過は数日から1週間程度で、多くは自然に回復しますが、場合によっては症状が長引いたり、重症化して呼吸に支障をきたすこともあります。声の使いすぎや煙、ほこりなどの刺激物も発症に関係しており、職業的に声をよく使う人にもよく見られます。
急性喉頭炎の原因
急性喉頭炎の主な原因は、ウイルスや細菌による感染です。風邪のウイルスとしてよく知られるライノウイルスやコロナウイルス、インフルエンザウイルスなどが喉頭にまで炎症を起こすことがあります。これらのウイルスは、鼻やのどから侵入し、気道に広がっていく過程で喉頭を刺激し、炎症を引き起こします。
また、細菌感染が関与していることもあり、特に溶連菌や肺炎球菌などが原因となることがあります。ウイルス感染後に二次的に細菌感染を起こして悪化するケースも少なくありません。
感染以外にも、声の酷使が原因になることがあります。例えば、カラオケや講演などで長時間にわたり大声を出したり、歌い続けたりすると、声帯が炎症を起こしやすくなります。さらに、たばこの煙、空気の乾燥、粉じん、化学物質の吸引といった環境因子も、喉頭を刺激し、炎症の引き金となることがあります。
一方で、逆流性食道炎により胃酸が喉まで逆流することが原因で喉頭に炎症が起こる場合もあります。このように、急性喉頭炎は一つの原因だけでなく、複数の要因が重なって発症することも珍しくありません。
急性喉頭炎の前兆や初期症状について
急性喉頭炎の初期には、のどの違和感やかすれ声が現れることが多く、これが前兆として認識されます。会話をすると声が出にくくなったり、無理に声を出すと痛みを感じることもあります。朝起きたときに声がかれていたり、声が普段より低くなっていたりすることに気づくことがあります。
症状が進行すると、声が完全に出なくなることもあります。これは「失声(しっせい)」と呼ばれ、声帯が腫れてうまく振動できないことが原因です。また、のどのヒリヒリ感や乾燥感が強くなり、飲み込むときに痛みを感じることもあります。加えて、咳が続く、発熱する、全身のだるさを感じるといった風邪に似た症状も伴うことがあります。
特に子どもや高齢者では、喉頭の腫れが進むと気道が狭くなり、呼吸が苦しくなることがあります。呼吸がゼーゼーと音を立てたり、吸い込むときに喉の奥でヒューヒュー音がする場合には、喉頭の腫れが強く、注意が必要です。息苦しさや強い痛みを感じた場合には、早めに医療機関を受診することが勧められます。
急性喉頭炎の検査・診断
急性喉頭炎の診断は、主に医師による問診と喉の診察によって行われます。声のかすれや喉の痛みの経過、発熱の有無、声の使用状況などを詳しく確認し、症状の背景にどのような要因があるかを推測します。
喉の奥を直接観察することで、喉頭や声帯の腫れ、赤み、分泌物の有無などが確認できます。必要に応じて、ファイバースコープと呼ばれる細いカメラを鼻から挿入し、声帯の状態を詳細に観察することもあります。この検査によって、声帯の腫れの程度や動きの異常が確認できます。
また、感染の程度を把握するために、血液検査が行われることがあります。白血球数やCRPといった炎症マーカーの上昇が見られる場合には、細菌感染の関与が疑われることがあります。風邪などのウイルス感染が原因であれば、こうした値の上昇は軽度で済むことが多いですが、高熱がある場合などには慎重な判断が求められます。
声帯の病変が長引いている場合や、症状が繰り返す場合には、喉頭がんなどの重篤な病気との区別のために組織検査が必要になることもありますが、急性喉頭炎では通常そこまでの精密検査は行われません。
急性喉頭炎の治療
急性喉頭炎の治療は、まず安静と声の使用制限が基本となります。声帯に無理な負担をかけず、できる限り会話を控えることが大切です。声を出さないことで声帯の炎症を鎮め、自然治癒を促します。
薬物療法としては、痛みや炎症を抑えるための消炎鎮痛薬が使われます。また、咳がひどい場合には鎮咳薬が処方されることもあります。ウイルス感染が原因である場合には、特別な抗ウイルス薬を使うことはまれで、症状に対する対症療法が中心となります。
一方で、細菌感染が関与していると考えられる場合には、抗生物質が使用されることがあります。
また、喉を加湿することも重要です。部屋の湿度を保ち、こまめに水分を摂ることで喉の乾燥を防ぎ、炎症を和らげる効果が期待できます。のど飴や吸入なども症状緩和に役立ちます。
重症例や呼吸困難が生じている場合には、入院のうえで点滴治療や気道管理が必要となることがあります。特に小児の場合は喉頭の腫れにより呼吸が急激に悪化するリスクがあるため、注意が必要です。
急性喉頭炎になりやすい人・予防の方法
急性喉頭炎は、風邪を引きやすい季節に発症することが多く、特に秋から冬にかけての乾燥した時期に増加します。また、日常的に声を酷使する職業、例えば教師、歌手、電話応対業などの方は、声帯に負担がかかりやすく、炎症を起こしやすい傾向があります。
さらに、喫煙は喉頭の粘膜に慢性的な刺激を与えるため、急性喉頭炎だけでなく、慢性化した炎症や喉頭がんのリスクも高めます。禁煙は喉頭を守るうえで非常に重要です。
予防のためには、まず風邪をひかないようにすることが基本です。手洗いやうがい、マスクの着用など、基本的な感染対策を徹底することが有効です。空気の乾燥が強い季節には加湿器を使って室内の湿度を保ち、喉を乾燥から守ることも効果的です。
また、声の使いすぎには十分注意が必要です。長時間にわたって大声を出すことは避け、声を出す際は無理のない音量で話すよう心がけましょう。飲酒後の大声や喫煙をしながらの会話も喉に負担をかけるため、控えるべきです。
症状が現れた際には、無理をせず、早めに声を休めることが重要です。軽度のうちに適切な対処をすることで、症状の悪化を防ぎ、早期回復につながります。




