監修医師:
渡邊 雄介(医師)
所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長
耳管狭窄症の概要
耳管狭窄症は耳と鼻をつなぐ耳管が狭くなる病気です。
通常の耳管は閉じた状態を保ち、必要に応じて開いて中耳内の気圧を調節する役割を果たします。
耳管狭窄症は風邪などで鼻やのどの炎症が続いたときに、耳管の周りの粘膜が腫れ、耳管が開きにくくなって気圧が調節しにくくなることにより発症します。
日本耳科学会による耳管狭窄症の診断基準では、以下の3つの要件が定められています。
- 耳管が機能的(飲み込み時など)もしくは器質的(空気を通したときなど)に開きにくい
- 3ヶ月以上続く中耳の病態もしくは耳の症状がある
- 耳管閉鎖障害が否定される
耳管狭窄症の主な症状は耳管が閉じることによる耳閉感で、耳がつまる、ふさがるような感覚が起こります。
耳閉感とは高い山に登ったり、飛行機で着陸するときに起こる耳の違和感と似た症状です。
耳管狭窄症は放っておくと、粘膜からしみ出てきた滲出液が中耳にたまり、滲出性中耳炎に移行する可能性があります。
滲出性中耳炎は難聴の原因となることがあり、特に小児の場合は言語発達にも影響を及ぼす可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。
耳管狭窄症の原因
耳管狭窄症の原因は風邪による急性鼻炎や副鼻腔炎、咽頭炎、アレルギー性鼻炎などで耳管の周りの粘膜が腫れることです。
成人の場合は、鼻と咽頭の境界部分である上咽頭の腫瘍が耳管を圧迫し、狭窄を引き起こすこともあります。
耳管狭窄症の前兆や初期症状について
耳管狭窄症の初期症状は、耳がつまったり、ふさがるような圧迫感が見られます。
気圧の変化に敏感になるため、エレベーターの乗り降りや、トンネルに入るときなどに耳の不快感が増すこともあります。
そのほかには、小さな音が聞こえにくくなる伝音難聴や耳鳴り、自分の声や呼吸音がひびいて聞こえる症状も見られます。
耳管狭窄症の検査・診断
耳管狭窄症の検査では純音聴力検査によって伝音難聴の程度、ティンパノグラムや加圧減圧法によって中耳や耳管の状態を調べます。
成人で上咽頭腫瘍が疑われる場合は、内視鏡検査をおこなうこともあります。
中耳の圧が正常よりも低かったり、高い空気圧を直接かけても耳管が開かない場合は、耳管狭窄症が疑われます。
純音聴力検査
純音聴力検査は、ヘッドホンで高さの異なる周波数の音を聞かせ、それぞれの音で聞こえる最小の音量を測定します。
耳管狭窄症では、軽度から中等度の伝音難聴が見られることがあり、高い音よりも小さい音が聞こえにくくなります。
耳管狭窄症の人が純音聴力検査をおこなうと、どの周波数でも聴力が低下する可能性があります。
ティンパノグラム
ティンパノグラムは、専用の耳栓を使用して中耳の状態を評価する検査です。
耳のなかに空気を出し入れできる耳栓を挿入し、耳栓から空気圧をかけたときの鼓膜の動きや中耳の圧力を測定します。
耳管狭窄症では中耳の圧力が低くなります。
加圧減圧法
加圧減圧法は、中耳に直接圧を加えて耳管の開閉機能を評価する検査です。
耳管狭窄症の場合は鼓膜をわずかに切開し耳管に陽圧をかけ、耳管が開いたときの受動的開大圧を測定します。
受動的開大圧が正常値よりも高い場合は、耳管狭窄症が疑われます。
加圧減圧法は耳管狭窄症の検査に向いていますが、受けられるのは耳管機能検査装置を導入している医療機関のみになります。
内視鏡検査
内視鏡検査では、鼻から細い内視鏡を挿入して上咽頭腫瘍ができていないか確かめます。
腫瘍が疑われる病変がある場合は、採取して生検検査にまわします。
内視鏡検査をおこなうと、耳管の開閉機能や周りの炎症状態についても直接確認できます。
耳管狭窄症の治療
耳管狭窄症では原因となる病気に対する治療や、耳管の周りの炎症に対する薬物療法をおこないます。
同時に耳管の狭窄を空気を通して改善させる通気処置療法をおこなうこともあります。
薬物療法や通気処置療法で十分な改善が見られない場合は、鼓膜チューブ留置術を検討します。
薬物療法
薬物療法では消炎剤や抗アレルギー薬、ステロイド薬などを投与して、耳管狭窄症の原因となる耳管の周りの炎症を改善させます。
重症例ではステロイド薬を咽頭側や鼓膜側から耳管内に注入したり、耳管咽頭口の粘膜に注射することもあります。
通気処置療法
通気処置療法は、鼻から耳管の入り口に専用の器具を挿入し、耳管に空気を送って狭窄を改善させる治療法です。
耳管の狭窄が改善すると中耳の陰圧も解消できるため、治療後は耳の閉塞感が減少します。
通気処置療法は主に外来でおこなわれ、症状が続く場合は数ヶ月ほど通院することもあります。
鼓膜チューブ留置術
鼓膜チューブ留置術は、鼓膜に小さな穴を開けてチューブを挿入し、耳管の機能をつくる手術です。
手術は鼓膜へ局所麻酔をおこない、レーザーで鼓膜に穴を開けた後、直径1〜2mmほどのチューブを挿入します。
チューブはシリコン製のもので、中耳と外耳道を直接つなぐ役割を果たします。
手術から1年ほど経った頃に外しますが、開いた穴はその後自然に閉じることが多いです。
耳管狭窄症になりやすい人・予防の方法
耳管狭窄症は風邪や副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎が発症しやすい人になりやすいです。
鼻やのどに炎症が起こりやすいと、耳管に影響を及ぼします。
予防のために規則正しい食事や睡眠をとって免疫力を高め、風邪や鼻炎にかかりにくい体をつくりましょう。
加湿器などで部屋の湿度を適切に保つと、鼻やのどの炎症の悪化も防げます。
慢性的なアレルギー鼻炎などの症状を繰り返している人は、耳鼻咽頭科を定期的に受診し、適切な治療を受けましょう。
花粉やハウスダストが原因で起きている場合は、室内の換気や空気清浄機の利用、外出時の眼鏡とマスクの装着なども効果的です。
参考文献
- 一般社団法人 日本耳科学会 耳管狭窄症診断基準
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 耳の症状
- 一般社団法人 日本耳科学会 耳管機能検査マニュアル(2016)
- 守田雅弘:耳管狭窄症の治療. 耳鼻咽喉科臨床, 100(3), 238-239, 2007
- 坂上雅史:耳管機能不全の診断と治療. 日本耳鼻咽喉科学会誌, 122, 1361-1365,2019
- 坂田俊文:耳閉感の診断と治療. 日本耳鼻咽喉科学会, 122, 732-737,2019
- 小林俊光, 高坂知節, 沖津卓二:ティンパノグラムの利用法. 耳鼻咽頭科臨床, 80(10), 1485-1495,1987
- 倉田響介, 佐藤宏昭, 顔懿賢, 他:上咽頭がんの耳管検査. 日本耳鼻咽喉科学会誌,91, 210-214, 1988