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監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
耳管開放症の概要
耳管開放症(じかんかいほうしょう)は、通常は閉じている耳管が開きっぱなしになることで、
自分の声や呼吸音が耳に響く症状が現れる状態です。
耳管は、鼻と中耳をつなぐ細い管で、通常は嚥下やあくびのときだけ一時的に開き、耳の圧力を調整します。
しかし、耳管開放症では耳管が常に開いたままになり、不快な感覚や耳が詰まった感じを引き起こします。
この病気は、日本人の約5%、約600万人が経験しているとされ、
特に会話が重要な職業の方にとっては大きな問題となることがあります。
耳管開放症は以前は稀な疾患とされていましたが、現在では耳鼻咽喉科の診療でよく見られる疾患となっています。
症状が悪化すると、精神的なストレスや不安を引き起こすこともあります。
耳管開放症の原因
耳管開放症の発症にはさまざまな要因が関与しています。
最も一般的な原因の一つは急激な体重の減少です。
耳管周囲の脂肪が減り、耳管が緩くなることで耳管開放症が発生しやすくなります。
無理なダイエットが大きなリスクとなりますが、そのほか生活習慣病や悪性腫瘍、過労が引き金となることがあります。
さらに、体位の変化も耳管開放症の発症に影響を与える要因です。
通常、耳管は立位や座位で開きやすく、臥位では閉じやすくなります。
これは耳管周囲の静脈叢の血流量が体位によって変化するためです。
また、妊娠中の女性はホルモンの影響で耳管開放症を発症するリスクが高くなり、
妊婦の約5人に1人が罹患するともいわれています。
その他の原因としては、脱水状態やシェーグレン症候群などの疾患が挙げられます。
これらの要因は、耳管を囲む静脈叢の血流を減少させ、耳管の閉鎖機能を弱めることで耳管開放症を引き起こします。
また、頭部外傷や耳管の解剖学的な問題、中耳炎なども関連要因となります。
耳管が開いた状態が続くと、鼻をすすることで中耳が陰圧になります。
この陰圧により、耳が詰まる感覚や自分の声が頭の中で響く不快な症状が一時的に軽減されるため、
無意識に鼻をすする癖がついてしまうことがあります。
しかし、この習慣が続くと、中耳が陰圧状態になり、耳管開放症だけでなく滲出性中耳炎が引き起こされるリスクが高まります。
耳管開放症の前兆や初期症状について
耳管開放症は、日常生活に影響を及ぼすさまざまな症状を引き起こす可能性があります。
主な前兆としては、耳が塞がったように感じる耳閉感があります。この症状が現れた場合、注意が必要です。
初期症状としては、自声強聴(自分の声が異常に響く)、呼吸音聴取(自分の呼吸音が耳に響く)、耳鳴(耳鳴り)、耳閉感(耳が詰まった感じ)などが挙げられます。
これらの症状は、特に立位や座位で顕著になり、横になると軽減または消失するのが特徴です。
さらに、耳管開放症の初期には難聴や肩こり、頭痛、ふらつきといった症状も見られることがあります。
特に、前かがみの姿勢やおじぎをすることで症状が緩和される場合は、耳管開放症の可能性が高いです。
これらの症状が継続的に現れる場合や、日常生活に支障をきたす場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
耳管開放症の検査・診断
耳管開放症の診断は、まず自覚症状や発症時期、日常生活への影響を詳しく確認することから始まります。
特に、自分の声が耳に響く感じ(自声強聴)や呼吸音が耳に聞こえる感覚(自己呼吸音聴取)、
耳が詰まった感じ(耳閉感)があるかどうかが重要です。
これらの症状が立ったり座ったりすると強くなり、横になると軽くなる場合は、耳管開放症が疑われます。
診断を確定するためには、鼓膜の動きを観察します。
呼吸に合わせて鼓膜が動く「呼吸性動揺」が見られる場合、耳管が開いている可能性が高いです。
さらに、耳管の機能を詳しく調べるために、音響法や耳管鼓室気流動態法(TTAG法)などの検査が行われます。
また、座った状態でのCT検査は、耳管開放症の正確な診断に役立ちます。
この方法では、耳管が開いている状態やその程度を視覚的に確認することが可能です。
耳管開放症の診断では、以下の疾患との鑑別が重要です。
- 滲出性中耳炎
- 耳管閉鎖不全
- 感音性難聴
- 耳硬化症
これらの疾患は、耳管開放症と類似した症状を引き起こします。
滲出性中耳炎は耳管狭窄により耳に液体が溜まり、耳閉感や聴力低下が発生しますが、
耳管開放症とは異なり、鼻すすりで症状が改善される場合があります。
耳管閉鎖不全では、自声強調が見られず、鼻すすりで耳管を閉じている状態が特徴です。
感音性難聴は内耳の障害で低音が聞こえにくくなり、ストレスが原因となることが多い傾向です。
耳硬化症では耳小骨が硬化し、音の伝達が妨げられて耳閉感や軽度の難聴を引き起こします。
耳管開放症の治療
耳管開放症の治療には、大きく分けて保存的治療と外科的治療があります。
生理食塩水点鼻療法
初期治療としてよく使われるのが生理食塩水点鼻療法です。
鼻の奥に生理食塩水を噴霧または垂らすことで、耳管の開放を一時的に抑える効果があります。
この治療法は、軽度から中等度の症状に有効であり、副作用が少ないため、長期間使用できます。
ただし、症状が重度の場合には効果が限定的です。
漢方薬
漢方薬も耳管開放症の治療に使用されることがあります。
たとえば、加味帰脾湯や十全大補湯などの漢方薬が使われ、体質や症状に合わせて処方されます。
これらの薬は、身体の調子を整えることで耳管の機能を改善し、症状を軽減できます。
漢方薬は、副作用が少なく、体への負担が少ない点が利点ですが、効果が現れるまでに時間がかかる場合があります。
スカーフ療法
スカーフ療法は、症状が突然出現した際に応急的に行われる治療法です。
スカーフやネクタイを首に軽く巻いて締めることで、頭部からの静脈還流を阻害し、耳管の開放を一時的に抑制します。
この方法は、職場や日常生活で即座に対処が必要な場面で有効です。
ただし、危険を伴いますし長期的な治療法ではないため、他の治療法との併用が必要です。
耳管ピン挿入術
重度の耳管開放症には、耳管ピン挿入術が行われることがあります。
この手術では、耳管にシリコン製のピンを挿入し、耳管の開放を物理的に防ぎます。
耳管ピンは、耳管の閉鎖を維持するために一時的に設置されるもので、高い治療効果が期待できます。
手術は外来で行われ、比較的短時間で終了するため、入院の必要がないことも利点です。
ただし、術後にピンが緩くなるなどといった可能性もあるため、生活上の注意点などの説明をよく聞いた上で判断することが必要です。
耳管開放症になりやすい人・予防の方法
耳管開放症になりやすい人
耳管開放症は、以下のような要因によって発症しやすくなります。
- 急激な体重減少
- 過度な運動
- 長時間の立ち仕事
- 妊娠
- 鼻すすり癖
急激な体重減少が耳管開放症の一因です。
急激なダイエットや病気による体重の減少は、耳管周囲の脂肪が減少し、耳管が開きやすくなります。
また、過度の運動もリスクとなり得ます。
激しい運動による発汗や脱水状態が耳管開放症を引き起こすことがあります。
妊娠中のホルモン変化も耳管の開閉に影響を与えやすく、耳管開放症のリスクを高める要因です。
さらに、鼻をすすり続ける習慣は、耳管の正常な機能を乱し、症状を悪化させる可能性があります。
予防の方法
耳管開放症を予防するためには、まず健康的な生活習慣を維持することが重要です。
急激なダイエットを避け、適切な体重を保つことが求められます。
また、十分な水分補給を行い、脱水を防ぐことも大切です。
適度な休息を取ることが、耳管への負担を軽減するために重要です。
長時間の立位や歩行は耳管に負担をかけ、耳管開放症の症状を悪化させる可能性があります。
立ち仕事や長時間の移動中には、定期的に座って休むことで身体への負担を和らげましょう。
特に妊娠中は耳管開放症のリスクが高まるため、症状が現れた際には早めに医師に相談することをおすすめします。
参考文献
- http://www.orl.med.tohoku.ac.jp/patient/disease02.html
- https://www.hosp.tohoku.ac.jp/release/etc/28602.html
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/113/8/113_8_706/_pdf
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/119/11/119_1366/_pdf
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/59/3/59_118/_pdf
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/120/7/120_946/_pdf
- https://g.kawasaki-m.ac.jp/data/1894/125/
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/15/7/15_7_7_42/_pdf