監修医師:
渡邊 雄介(医師)
所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長
鼻炎の概要
鼻炎は、鼻粘膜の炎症や機能不全を起こす病気の総称です。
鼻炎を症状の継続期間に基づいて分類すると「急性鼻炎」と「慢性鼻炎」に分けられます。急性鼻炎は、いわゆる「鼻風邪」で、感冒(かぜ)やインフルエンザなどが原因となることが多いです。慢性鼻炎は、長期にわたり鼻粘膜の炎症が認められる状態を指し、その多くは、後述するアレルギー性鼻炎が関与しています。
原因に基づいて大きく分類すると、アレルギー性鼻炎と非アレルギー性鼻炎に分けられます。アレルギー性鼻炎は、花粉症による鼻炎のように、アレルゲンが鼻腔に侵入し、過剰な免疫反応が起こることで生じます。ダニやほこりを原因とする「通年性アレルギー性鼻炎」と主にスギ花粉を原因とする「季節性アレルギー性鼻炎」の2種類があります。
一方、非アレルギー性鼻炎は、アレルギー検査で陰性となる鼻炎で、ウイルス感染や細菌感染によるものが多いです。気温の変化やストレス、飲酒などが起因となる「血管運動性鼻炎」も非アレルギー性鼻炎に含まれます。
鼻炎の治療では、薬物療法と並行して、原因となっている抗原(ダニやスギ花粉など)の除去や回避を行います。可能な限り体内への抗原の侵入を防ぐために、マスクやメガネの着用、室内の掃除を行うことが重要です。
鼻炎の原因
炎の原因は、大きくアレルギー性鼻炎と非アレルギー性鼻炎の2つに分類できます。
アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎は、花粉やハウスダストなど、特定のアレルゲンに反応して生じる鼻炎です。通年性アレルギー性鼻炎の原因はハウスダストに含まれるダニが多く、季節性アレルギー性鼻炎はスギ花粉によるものが多いです。花粉症の患者さんの70%はスギ花粉が原因で、全国のスギ花粉症の有病率は20%を超えると報告されています。
(出典:厚生労働省「アレルギー性鼻炎・花粉症」)
他のアレルギー疾患をもつ場合や、家族が何らかのアレルギー疾患をもつ場合は花粉症になりやすいと考えられています。
非アレルギー性鼻炎
非アレルギー性鼻炎は、主にウイルス感染や細菌感染で鼻粘膜の血管が腫れることが原因です。他にも寒冷刺激、気温の変化、ストレス、飲酒、タバコの煙などが原因となることがあります(血管運動性鼻炎)。血管運動性鼻炎のメカニズムは判明していませんが、寒冷刺激などで自律神経の働きが制御できなくなり、鼻炎の症状が生じると考えられています。
また、鼻の構造的な問題から非アレルギー性鼻炎を発症することもあります。鼻中隔湾曲症は代表的な原因で、鼻中隔が湾曲しているせいで片側に鼻づまりが生じ、その結果炎症を起こす場合があります。
鼻炎の前兆や初期症状について
鼻炎の症状は、原因によって異なります。具体的な症状は次のとおりです。
アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎では、くしゃみや鼻水、鼻づまりが主な症状です。目や喉のかゆみを伴うこともあります。くしゃみ・鼻水と鼻づまりが起こるメカニズムは異なり、くしゃみ・鼻水の症状が強いタイプと鼻づまりが強いタイプ、どちらも症状があるタイプの3タイプに分かれます。
朝やアレルゲンに接触した直後、突然くしゃみの連発が始まる様子がよく見られます。くしゃみは突発的で、止まらないことが多いです。鼻水は透明で水っぽく、量が多いのが特徴です。鼻づまりもよく見られ、夜間や早朝に悪化し、呼吸がしづらくなることがあります。
花粉症の季節に特徴的な症状としては、目のかゆみや赤みなど、目の症状を伴うことがあります。鼻水が喉に流れ込むことで、喉に違和感や軽い痛みが生じることも少なくありません。
非アレルギー性鼻炎
非アレルギー性鼻炎では、鼻づまりや鼻水、くしゃみ、発熱などが見られます。ウイルス感染ではない場合、環境の変化やタバコの煙などの特定の刺激に対して症状が出やすくなります。くしゃみは刺激物や温度変化に反応して起こるため、アレルギー性鼻炎のように連発ではなく、単発で出ることが多いです。また、鼻粘膜の炎症や血管の拡張によって、鼻や顔面に圧迫感や痛みを感じることがあります。
鼻炎の検査・診断
はじめに問診で、症状や発症した日、症状が出やすい時期・状況、アレルギー疾患の有無、家族歴を確認した後、鼻粘膜の状態を確認します。アレルギー性鼻炎が疑われる場合は、問診が特に重要です。
以上の診察で原因がはっきりしない場合は、必要に応じて鼻鏡検査や血液検査、アレルギー検査、鼻汁好酸球検査などを行います。
鼻炎の治療
鼻炎の治療目的や治療内容は、原因によって異なります。
アレルギー性鼻炎の場合は、症状が軽度になり、悪化せず一定の状態を保てるようになることを目指した治療が行われます。主な治療法は、対症療法もしくは根治療法になります。
対症療法では、抗ヒスタミン薬をはじめとした抗アレルギー薬の内服に加え、点鼻薬や点眼薬を必要に応じて使用します。薬物療法での治療と並行して、できるだけ体内にアレルゲンが侵入しないようにする対策も必要です。
根治療法では主に「アレルゲン免疫療法」が行われます。身体をアレルゲンに適応させる治療法で、具体的には花粉のエキスを希釈した成分を含んだ注射(皮下免疫療法)を行います。また近年は舌の裏側に少量のアレルゲンを垂らして免疫をつける「舌下免疫療法」も主流となっています。
(出典:厚生労働省「アレルギー性鼻炎・花粉症」)
鼻炎を引き起こしている原因が、鼻の構造異常であった場合は、手術療法が適用となる場合もあります。また、薬剤療法では改善しなかった副鼻腔炎がある場合も、手術を行って膿を排出する必要があります。
鼻炎になりやすい人・予防の方法
非アレルギー性鼻炎に関しては、ウイルス感染が多いことから誰しも罹患する可能性があります。基本的な感染対策である、うがいや手洗い、適度な運動、バランスの良い食事などの実施が予防につながります。
一方、アレルギー性鼻炎は、遺伝要因と環境要因が発症に影響を与えます。アレルギー性鼻炎になりやすい体質の人でもアレルゲンを避ける環境を整えることで発症の予防もしくは症状の軽減が図れます。しかし、スギ花粉などは予防策を講じても辛い症状は完全にはなくならないことも多く、アレルゲン免疫療法によって体質改善を行うのが有効的です。
関連する病気
- 急性副鼻腔炎
- 皮膚炎
- 慢性鼻炎
- 慢性気管支炎
- 口腔アレルギー症候群
- 鼻ポリープ
- 花粉症
- 鼻中隔湾曲症
参考文献