

監修医師:
五藤 良将(医師)
声帯結節の概要
声帯はのどぼとけの裏にある発声器官です。左右の声帯が空気の流れにより振動して声を出しています。声帯は三層構造を持ち、粘膜層、固有層、声帯筋から成ります。
声帯結節は、声帯の粘膜に生じる良性の隆起性病変であり、「腫瘍」とは異なる病態です。日常的に声帯を酷使することが主な原因とされ、小児から成人まで幅広い年齢の方にみられます。声帯結節は「歌手の結節」とも呼ばれることがあり、特に声を多用する職業の人々に多く見られます。
声帯結節は通常、声帯の前方に左右対称に生じ、声帯の振動に影響し、声がかすれたようになります。
声帯結節の治療は声帯を酷使したことによるものであるため、声帯の安静を保つために発生を控えることが重要です。しかし、これだけでは改善しない場合や治療を急ぐ必要がある場合など、手術による治療も検討します。
声帯結節の原因
声帯結節の主な原因は、声帯への慢性的な負担です。左右の声帯がこすれることで声が出ますが、これを繰り返すことで声帯の表面の粘膜が厚く、硬くなってしまいます。加えてむくんでしまったり、場合によっては線維化といってより固くなった状態になります。これらにより声帯結節が生じます。具体的に以下のような行動も、声帯結節の原因となりうる要素です。
声の誤った使用
不適切な発声技術や過度に高い声で話すことも原因になります。
声の休息不足
声帯に十分な休息を与えることも必要です。
喫煙やアレルギー
喉の炎症を引き起こし、声帯に負担をかけます。
逆流性食道炎
胃酸が食道に逆流する病気ですが、ときに喉まで逆流し、声帯を刺激することがあるとされています。
声帯結節の前兆や初期症状について
声帯結節の症状には以下のようなものがあります。
嗄声(させい)
声のかすれのことです。特に長時間話した後や歌った後に声のかすれが強くなります。一日の中でも良くなったり、悪くなったりすることもあります。逆に声をあまり出さなかった日は調子が良くなることもあります。
声の疲労
声が出にくくなるため、声を出すことに疲れを感じやすくなります。
声の変化
声の高さや質が変わることがあります。
喉の痛みや違和感
特に声を多く使った後に感じる。
このような症状が現れた際は耳鼻咽喉科を受診しましょう。
声帯結節の検査・診断
声帯結節の診断には、病歴の聴取(特に声を出すような仕事をされていないか、されている場合、お仕事や生活への影響も)を行います。 ファイバースコープと呼ばれる細い管の先端にカメラがついたものを鼻からのどまで入れて声帯を直接観察します。声帯の外観や動きを確認することで、結節の存在を確認できます。ほかにもビデオストロボスコピーという特殊なカメラを用いて声帯の動きをスローモーションで観察し、声帯結節の詳細な形状や位置、動きの異常を評価する場合があります。
声帯結節の診断においては、ほかの疾患との鑑別が重要です。以下は、声帯結節と類似した症状を呈する可能性のある鑑別疾患です。
声帯ポリープ
声帯の一部に形成される良性の隆起物で、通常は過度の声の使用や喉の炎症が原因です。ポリープは声のかすれや声の変化を引き起こし、しばしば片側の声帯に発生します。治療には声の休息や外科的除去が必要です。
声帯嚢胞
声帯内の腺が詰まり、粘液が溜まることで形成されます。声帯の過度の使用や外傷、慢性的な炎症が原因と考えられています。ほかに生まれつき存在することもあります。嚢胞により声帯の振動に影響を及ぼし、嗄声を起こします。
喉頭がん
声帯に発生する悪性腫瘍。早期では根治が望めることが多く、早期発見が重要です。進行すると頸部リンパ節に転移し、首にしこりができることがあります。
声帯麻痺
声帯を動かす神経の障害により、声帯が片側または両側で動かなくなる状態です。これにより、声のかすれ、呼吸困難、飲み込み困難が生じます。
これらの疾患と鑑別を行うために場合によっては生検といって、声帯の組織を少量削り取り、顕微鏡などで調べる検査を追加する場合があります。生検の結果は通常1〜2週間程度でわかります。
声帯結節の治療
声帯結節の治療は、非外科的治療と外科的治療の2つの方法があります。先述のとおり、通常は安静による非外科的な治療を優先させます。
非外科的治療
- 声の休息
声帯に十分な休息を与え、自然治癒を促します。 - 薬物療法
炎症を抑えるために消炎薬やステロイドの吸入療法を行ったり、胃酸の逆流がある場合は抗酸薬を使用します。 - 音声療法
上記のように不適切な発声方法が原因となっていることがあり、専門の音声治療士による訓練で、適切な発声技術を指導することもあります。これにより、声帯への負担を減らし、結節の縮小を促進します。 - 禁煙
喫煙は治療効果を落としたり、治療後の再発率を高める可能性があり、禁煙の指導を行う場合もあります。
外科的治療
非外科的治療で効果が見られない場合や、仕事や生活への影響を抑えるために治療を急ぐ場合は結節を切除する外科的治療が検討されます。手術は全身麻酔の上で、喉頭顕微鏡を用いた手術を行います。手術後は創部の保護のために1週間程度は発声ができなくなり、その後も術後2週間程度かけて徐々に制限を解除していきます。
声帯結節になりやすい人・予防の方法
声帯結節は以下のような人に多く見られます。
歌手や俳優、教師、営業職など
職業的に声を酷使する人。
喫煙者
喫煙は声門に炎症を起こし、声帯結節だけでなく、喉頭がんなどのリスク因子でもあり、嗄声だけでなく、重篤な疾患の原因となり得ます。
予防の方法
適切な発声技術の習得
音声療法士の指導を受けて、正しい発声法を学ぶことが重要です。
声の休息
声を使いすぎないようにし、定期的に声を休ませることが必要です。
喉の保護
喉を乾燥させないように水分を十分に摂ることが重要です。また、喫煙や過度の飲酒を避けることも有用です。
適切な環境整備
乾燥した環境を避け、加湿器などを使用して適切な湿度を保つことが大切です。
参考文献
- 音声障害診療ガイドライン2018年版. 日本音声言語医学会, 日本喉頭科学会編 金山出版
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 耳鼻咽喉科・頭頸部外科が扱う代表的な病気 口・のどの症状
- https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=17




