

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
肺気腫の概要
肺気腫とは、肺の組織が破壊されて慢性的な呼吸困難や咳などが生じる病気です。
肺には肺胞と呼ばれる小さな袋が詰まっており、肺胞が空気を含んで膨らむことで、肺は空気から酸素を取り込んでいます。
肺胞が破壊されることで、呼吸しても酸素の取り込みや二酸化炭素の排出がしづらくなるのが肺気腫の症状です。
一度壊れた肺胞は再生しないため、一時的な肺炎と違って、肺気腫が完全に治ることはありません。
肺気腫とCOPDの関係
肺気腫と関連した疾患に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)があります。COPDは、肺の組織破壊を伴う肺気腫と、気管支の炎症を伴う慢性気管支炎を統合した肺疾患の総称です。肺気腫はCOPDの症状の一つであり、COPD患者さんの大半は肺気腫を発症しています。肺気腫と慢性気管支炎は合併することが多く、現在では2つをまとめてCOPDとして扱うことがほとんどです。COPDは世界的に問題となっている呼吸器疾患で、日本の潜在的な患者数は約530万人と推定されています。
肺気腫の原因
肺気腫は肺の生活習慣病とも呼ばれており、生活習慣や環境因子の積み重ねで時間をかけて発症します。このため、肺気腫の患者さんの大半は40歳以上です。肺気腫の発症リスクとなる主な生活習慣や環境因子は、以下の4つです。
- 喫煙
- 大気汚染
- 呼吸器感染症
- 職業因子
それぞれの内容を解説します。
喫煙
喫煙は、肺気腫を含むCOPDの明確なリスク因子であり、COPDの患者さんの90%は喫煙者です。年間50箱以上の喫煙者では、35%が気管支の炎症や肺気腫を発症します。タバコの煙が肺に流入すると、毛細血管や肺の細胞に炎症を起こして肺胞が壊れていきます。一度壊れた肺胞は、禁煙しても再生されません。
大気汚染
自動車や工場からの排気ガスによる大気汚染も、肺気腫のリスクと考えられています。人工的な汚染だけでなく、黄砂や一酸化炭素なども肺にダメージを与える要因です。換気効率の悪い住居や、燃焼効率の悪い燃料を用いた調理や暖房なども危険因子となります。
呼吸器感染症
呼吸器感染症に罹患した小児は、青年期移行に肺機能の低下が早くなるといわれています。COPD患者の気道組織には、高確率でアデノウイルスが検出されており、アデノウイルスの潜伏感染が肺気腫の原因になる場合もあります。
職業因子
肺気腫を含むCOPD患者さんの約15%は、職業上の原因とされています。肺気腫のリスクが高い職業は、農業・畜産・炭鉱・トンネル工事・コンクリート工事・ゴム加工工場などです。必要な場面では防塵マスクを着用して、少しでもリスクを減らす工夫が重要になります。
肺気腫の前兆や初期症状について
肺気腫は肺の生活習慣病であり、数十年単位の時間をかけて症状が悪化していきます。初期はほとんどが無症状であり、自覚症状がでる頃には肺組織の破壊がかなり進んでいることも少なくありません。
前兆となる症状に気がついたら、早めに呼吸器内科を受診しましょう。肺気腫の主な初期症状は、以下の3つです。
- 咳・痰が増える
- 呼吸時の喘鳴
- 運動時の呼吸困難
それぞれの内容を解説します。
咳・痰が増える
肺気腫に伴って気管支に炎症が起こると、咳や痰が増えてきます。咳が止まらないことが増えたり、痰が黄色くなったりしていると、気管支での炎症が悪化しているサインです。
呼吸時の喘鳴
気管支の炎症が悪化すると、気管支が腫れて気道が狭くなります。狭い気道を空気が通る際にゼーゼー・ヒューヒューと音が鳴ることを喘鳴といいます。
運動時の呼吸困難
肺気腫では肺の組織が破壊されているため、酸素の取り込みや二酸化炭素の排出がしづらくなり、息苦しさを感じます。呼吸数が増える運動時には特に顕著となり、駅の階段を登る程度の運動でも息切れしてしまう患者さんも少なくありません。さらに症状が悪化すると、安静時にも息苦しさを感じるようになります。
肺気腫の検査・診断
肺気腫の診断には、患者さんが訴える症状と喫煙歴や職業を問診したうえで、以下のような検査を行います。
- 肺機能検査
- 胸部レントゲン・CT
- 血中酸素濃度・二酸化炭素濃度検査
それぞれの内容を解説します。
肺機能検査
肺機能検査は、肺気腫の診断に欠かせない重要な検査で、スパイロメトリーとも呼ばれています。限界まで息を吸い込んでから力いっぱい吐いてもらい、その際に1秒間で吐き出せる量が全吐出量の何%になるかを計測します。これを肺活量の1秒率といい、ほかの病気がないのに1秒率が70%未満である場合は、呼吸機能が低下している閉塞性障害です。
胸部レントゲン・CT
肺組織がどの程度破壊されているかを調べるには、胸部レントゲンや胸部CT撮影を行います。高分解能CTを用いれば、呼吸困難の症状がでる前の初期肺気腫まで確認できます。
血中酸素濃度・二酸化炭素濃度検査
動脈血中の酸素濃度や、二酸化炭素濃度を測定して、肺機能が低下していないかを検査します。血中酸素濃度は、パルスオキシメーターという機械を指先に装着して自宅でも測定ができます。二酸化炭素濃度を測定するには、動脈血ガス分析装置が必要です。
肺気腫の治療
一度壊れた肺の細胞は再生しないため、肺気腫を根本的に治療する方法はありません。肺気腫の治療は対症療法が基本となり、症状の悪化を防いで生活の質を高めるのが目標です。肺気腫の主な治療方法は、以下の4つです。
- 薬物療法
- 酸素療法
- 理学療法
- 外科療法
それぞれの内容を解説します。
薬物療法
肺気腫に伴う呼吸困難を緩和するために、主に使われるのが吸入気管支拡張薬です。専用の吸入器で薬を吸い込み、気管支を広げる作用により呼吸苦の緩和が期待できます。咳や痰が辛い場合には、鎮咳薬や去痰薬などを使用して、症状を緩和します。気管支の炎症抑制のために、ステロイド薬を使用することも少なくありません。
酸素療法
肺気腫の進行により、安静時でも十分な酸素を取り込めない患者さんに対しては、酸素吸入器による酸素療法を行います。持ち運びできる酸素吸入器によって、自宅や外出先でも酸素を確保でき、息苦しさも緩和されます。
理学療法
呼吸困難を緩和するための呼吸方法や、呼吸筋のトレーニングを行います。呼吸器リハビリテーションと呼ばれ、理学療法士の指導のもとに息苦しさを緩和する身体づくりをしていきます。肺気腫の患者さんは運動不足によって急速に筋力が衰えるため、運動能力の維持は極めて重要です。継続的な運動療法によって、息苦しさが改善されるケースも少なくありません。
外科療法
肺気腫における外科療法は、過膨張した肺を部分切除して健常組織を守るための手術です。肺気腫では、肺胞が破壊されて十分に息を吐けなくなるため、肺に空気が溜まって膨張していきます。膨張した肺が気管支や健常組織を圧迫するため、外科手術によって膨張部分を切除します。
肺気腫になりやすい人・予防の方法
肺気腫は生活習慣病の一種であると考えられており、生活習慣の積み重ねによって発症します。このため、生活習慣を改めれば予防できる可能性は高く、発症した後でも症状を改善できます。肺気腫の予防に大切な生活習慣は、以下の3つが代表的です。
- 禁煙
- 軽い運動
- 体重管理
それぞれの内容を解説します。
禁煙
喫煙は肺気腫の明確なリスク因子であるため、予防や治療のためにも禁煙は必須です。意志の力だけで禁煙が難しいニコチン依存症と診断された場合は、禁煙補助薬が保険適用となりますので、医療機関にご相談ください。
軽い運動
会話ができる程度の軽い運動の継続によって、全身の筋肉量維持だけでなく、心肺機能も鍛えられます。運動時には呼吸が増えることで全身の換気が促進され、抑うつ気分や食欲増進などのメリットもあります。生活習慣全般の予防のためにも、定期的な運動習慣は不可欠です。
体重管理
肥満になると横隔膜の動きが妨げられ、深い呼吸が難しくなります。呼吸機能の低下の原因となりますので、肥満の場合は減量を意識しましょう。一方で、痩せすぎの場合も呼吸に必要な筋力が低下し、体力も落ちてしまいます。栄養バランスのとれた食事と運動習慣によって、適正な体重管理を心がけてください。




