麻薬中毒
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

プロフィールをもっと見る
専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

麻薬中毒の概要

麻薬中毒とは、麻薬の不適切な使用で生じる、身体的および精神的な依存を伴う重篤な健康障害です。

身体的な依存とは薬の使用を中止すると身体に不快な症状が現れるために止められなくなることで、精神的な依存とは麻薬に対する強い欲求が起こることを意味します。

麻薬中毒で問題になる薬物は覚せい剤や大麻のほか、ヘロインやモルヒネなども含まれます。

これらは使用方法や量を誤ると命に関わる危険な薬物であるため、「麻薬及び向精神薬取締法」によって厳重に取り締まられており、令和5年は1,033名が検挙され過去10年間で最多とのことです。

出典:公益財団法人 麻薬・覚せい剤乱用防止センター「薬物乱用防止のための情報と基礎知識」

麻薬中毒になると記憶力の低下や失明、がんや心不全などの身体的な障害をきたすのみならず、人間関係が崩壊したり社会から孤立したりなど、社会生活を営む上でも重大な影響を及ぼします。

麻薬中毒の治療は身体精神的な障害に対する治療のほか、専門施設でのリハビリテーションや麻薬から脱却し社会復帰するための自助グループへの参加など、包括的におこないます。

なお、医療現場ではがんの疼痛緩和などを目的として使用される「医療用麻薬」というものがあります。

医療用麻薬は医師のもとで厳重に管理され、必要な人に対してのみ適切に使用するため、麻薬中毒を引き起こす心配はありません。

麻薬中毒

麻薬中毒の原因

麻薬中毒の原因は不必要に麻薬を乱用し、依存状態になることです。

麻薬には一時的な気分の高揚や疲労の解消、不安やストレスの軽減などをもたらす作用があります。

しかしこれらの効果は一時的で、効果が切れると激しい倦怠感や脱力感、妄想や幻覚などの症状が出現し、苦しい症状から逃れるために再び麻薬を使用してしまうのです。

麻薬に対する耐性や依存性は使用して間もないころから形成されるため、好奇心で一度でも麻薬を使用すると自分の意志だけでは止められない状態に陥ります。

また、麻薬中毒に至るまでには段階があります。まずは麻薬を本来の目的や使用方法から逸脱して使用する「乱用」、次に乱用した結果身体的や精神的に依存する「依存」、そして乱用や依存を繰り返し続けることによる「中毒」の状態に至ります。

麻薬中毒の前兆や初期症状について

麻薬中毒の症状は身体面と精神面の両側面で出現します。

身体面では脳の萎縮による記憶力や判断力の低下、視神経の異常による視力低下や失明、肺がんや心不全など、全身の器官に及ぶ重篤な症状が現れます。

麻薬の使用量や体調によっては意識消失したり呼吸抑制が起きたりなど、命に関わるほどの症状が出現する場合もあります。

麻薬中毒の症状として特徴的なのは離脱症状で、 麻薬の効果が切れた際に現れます。「体中に虫が這う感覚」や「骨が砕けるような激しい痛み」などの症状が出ることも少なくありません。

精神面では気分の浮き沈みが激しくなり、ときには暴力的な行動をとることもあります。症状が進行すると幻覚や妄想が現れる場合もあります。

また、生活リズムが乱れて昼夜が逆転したり周囲の人との関係性が悪化したりなど、日常生活や人間関係までもが崩壊する可能性もあります。

麻薬中毒の検査・診断

麻薬中毒の診断は、尿検査や血液検査、医師による診察など総合的な判断のもとでおこないます。

尿検査では、薬物や薬物からの代謝物を検出できるキットを用いて調べます。この検査はスクリーニングを目的として行われること、また偽陽性が出ることがあるため、確定診断にはなりません。

血液検査では、一般生化学検査の一つである腎機能や肝機能の数値などを調べます。血中の薬物濃度が高い場合、これらの数値は上昇することが多いです。

問診では麻薬の使用頻度や量、種類や使用期間について確認し、視診では麻薬を使用している人に認められることが多い、腕や足の不自然な注射痕を確認します。

そして麻薬の入手経路や麻薬を容易に使用できる環境かどうかも調査し、再び麻薬に手を染めることがないよう適切な支援が必要です。

麻薬中毒の治療

麻薬中毒では身体面と精神面の両側面をケアするため、総合的に治療します。

初期段階における治療では、麻薬の使用による身体的な症状や精神的な症状に対する治療が中心です。

具体的には血圧低下や心不全、嘔気や嘔吐などさまざまな身体症状や、幻覚や妄想の精神症状に対して必要に応じて治療します。

そして麻薬から脱するためには、専門的な施設でのリハビリテーションの実施や同じ経験を持つ人が集まる自助グループへの参加などが欠かせません。

昼夜逆転した生活リズムの修正や人間関係の見直しなど、麻薬と縁を切り再び社会生活に戻るため、さまざまな専門家と連携しながら治療します。

麻薬中毒の治療は経過が良い時期と悪い時期を繰り返しながら、徐々に回復に向かうことが多いです。

専門家によるサポートに加えて、家族や周囲の人々による継続的な支援と理解が不可欠です。

麻薬中毒になりやすい人・予防の方法

麻薬中毒になりやすい人は、麻薬を使用した経験があり麻薬に対して依存している人です。

麻薬は一度でも使用すると依存するリスクが高いため、麻薬との接触を絶つことや、そもそも麻薬を使用しないことが最も重要です。

万が一、身近な人が麻薬を使用していることが分かった場合は、早期に適切な対応が求められます。

不自然な言動や生活リズムの乱れ、経済的に困窮している様子などが見られた場合、精神保健福祉センターや保健所に設置されている相談窓口を通し、適切な支援を受けるようにしましょう。


関連する病気

この記事の監修医師