監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
銀杏中毒の概要
銀杏中毒は、銀杏を過剰に摂取することで引き起こされる食中毒の一種です。
銀杏に含まれる「4′-Oメチルピリドキシン」という有毒物質が原因となり、けいれん発作や嘔吐などの症状が出現します。
4′-OメチルピリドキシンはビタミンB6と構造が似ていることから、体内でビタミンB6のはたらきを阻害し、体の神経系に影響を与えます。
熱に強いため、銀杏を焼いたり煮たりしても毒性は完全になくなりません。
銀杏中毒の症状は、銀杏を摂取してから数時間後に症状が現れることが多いです。
リスクは年齢によって異なりますが、大人よりも子どものほうが少ない摂取量で中毒を起こす可能性が高いです。
大人の場合は大量の銀杏を食べなければ中毒になりにくいですが、偏食や飲酒などで体内のビタミンB6が欠乏している場合に起こりやすくなることがあります。
中毒を引き起こす銀杏の明確な量は報告されていませんが、5歳未満の子どもでは6〜7個、大人では50個ほど食べて中毒症状を起こす例もあるため、日々の食事で銀杏を食べるときは量に気をつける必要があります。
(出典:公益社団法人 日本中毒情報センター「ギンナンの食べ過ぎに注意しましょう!」)
銀杏中毒の症状が見られた場合は、すぐに医療機関へ受診することが大切です。
治療は主にビタミンB6製剤を投与します。
ビタミンB6製剤を投与することで、症状を和らげるだけでなく、症状が再び現れるのを防ぐ効果もあると言われています。
特に重篤な症状の場合は、放っておくと命に関わる可能性もあるため、迅速な対応が求められます。
銀杏中毒の原因
銀杏中毒の原因は、銀杏の過剰摂取によって、4′-Oメチルピリドキシンが体内で増え、ビタミンB6 のはたらきが抑えられることです。
通常、ビタミンB6は神経伝達物質の一つであるGABA(γ-アミノ酪酸)を合成するためにはたらきます。
GABAは抑制性の神経伝達物質として、神経の興奮を抑える役割を果たします。
しかし、4′-Oメチルピリドキシンの増加によりビタミンB6のはたらきが抑制されると、GABAの合成が減少し、神経の興奮が抑えられなくなります。
体内で神経の興奮が異常に生じる結果、けいれん発作や嘔吐などの症状が現れます。
銀杏中毒の前兆や初期症状について
銀杏中毒の初期症状は、銀杏を摂取してから1〜12時間後に現れ始めます。
初期症状では吐き気や嘔吐、下痢などの消化器症状が多く見られ、症状が進行すると、けいれん発作や手足のしびれなどの神経症状が現れます。
重篤なケースでは、意識障害や呼吸困難、不整脈などの症状が現れることがあります。
けいれん発作では強直間代発作が生じることが多いです。
突然手足が突っ張った状態になり、左右対称に細かいけいれんが20秒ほど続いた後、緩やかな動きが30〜60秒ほど続く状態が繰り返されます。
銀杏中毒の症状の程度は個人差が大きく、摂取量や体質、年齢によって異なります。
特に子どもや高齢者、栄養状態の悪い人は、少量の摂取でも重篤な症状が現れやすいため注意が必要です。
銀杏中毒の検査・診断
銀杏中毒の診断は主に臨床症状の確認や問診によっておこなわれます。
医師は患者から銀杏の摂取量や摂取時間、症状の内容とその発現時間などを聴取します。
嘔吐や下痢などの消化器症状、けいれん発作や手足のしびれなどの神経症状が見られ、銀杏を大量に摂取した既往があれば銀杏中毒と診断され、直ちに治療が開始されます。
補助的な検査として、血液検査によってビタミンB6やほかの関連指標を調べたり、心電図検査によって不整脈の有無や程度を確認したりすることもあります。
しかし、迅速に治療を開始するために、血液検査や心電図検査の結果を待たずに、臨床症状と問診の結果だけで診断するケースが多いです。
銀杏中毒の治療
銀杏中毒の治療は、ビタミンB6製剤(ピリドキサールリン酸)の投与が選択されます。
ビタミンB6製剤は、銀杏に含まれる4-Oメチルピリドキシンによって低下したビタミンB6の機能を補うことを目的としています。
投与方法は症状の重症度に応じて、経口投与や静脈内注射によっておこないます。
投与量は患者の年齢や症状の程度によって異なりますが、重症例や再発例では、より大量の投与が必要となることもあります。
しかし、子どもに大量投与する場合は、横紋筋融解症などの副作用リスクが高まるため、慎重な投与と経過観察が必要です。
銀杏中毒になりやすい人・予防の方法
銀杏中毒になりやすいのは、特に5歳未満の子どもであり、少量の摂取でも重篤な症状を引き起こす可能性があります。
銀杏を過剰に摂取する習慣がある人や高齢者、栄養状態が悪い人、日常的に飲酒している人なども、体内のビタミンB6が欠乏しやすくなることで、発症することがあります。
銀杏中毒を予防するためには、銀杏の摂取量を適切に管理することが大切です。
銀杏の摂取量の明確な決まりはありませんが、5歳未満の子どもに積極的に与えることは控えましょう。
5歳未満の子どもにやむを得ず与える場面があるときは少量にし、摂取後に体調の変化がないか確認してください。
家庭で銀杏を保管する場合は、子どもの手の届かない場所に置くことで誤飲を防げます。
高齢者や栄養状態が悪い人に対しても、日々の食事の摂取量は控えめにしましょう。
銀杏の摂取後に異変を感じた場合は、症状が重篤化するのを防ぐために、できるだけ早く医療機関を受診してください。
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参考文献