子どものおねしょとメンタルは関係ある? 夜尿症の原因について教えて!
おねしょをする子としない子の違いは、どこにあるのでしょう。体の問題なのか心の問題なのか、その中身によっては、専門医を受診する必要性が生じそうです。そこで、おねしょ治療の方向性や目的を、「佐々木クリニック泌尿器科・小児泌尿器科」の白柳先生に伺ってみました。
監修医師:
白柳 慶之(佐々木クリニック泌尿器科・小児泌尿器科 院長)
信州大学医学部卒業。東京女子医科大学病院や同大関連病院にて泌尿器科の臨床経験を積む。カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学、神奈川県立こども医療センター医長を経て2014年、東京都小平市に「佐々木クリニック泌尿器科・小児泌尿器科」を開院。小児泌尿器科など、専門性の高い診療を提供している。医学博士。日本泌尿器科学会認定専門医・指導医、日本小児泌尿器科学会認定医・評議員、日本夜尿症学会理事、アメリカ泌尿器科学会、アジア太平洋小児泌尿器科学会所属。
原因は「体」、治療目的は「心」
編集部
子どものおねしょって、メンタルが原因なのでしょうか?
白柳先生
主な夜尿症の原因は、メンタルというより、 “体の問題”だと考えていいでしょう。ぼうこうに尿を十分にためられない、夜間につくられる尿量が多すぎる、尿意で目が覚めないことが3大原因と言われています。
編集部
しかし、おねしょの心理療法を散見します。
白柳先生
おねしょは、幼少期からずっと続いている一次性の夜尿症と、おねしょが全くない期間(通常は6か月以上)があった後におねしょが始まる二次性の夜尿症に分けることができます。二次性の夜尿症は心因性の場合もあります。そのような場合は心理療法も有効かもしれません。しかし、おねしょの大部分を占める一次性の夜尿症は、成長、発達など含めた体の問題から生じますので、心理療法の有用性は限定的と思われます。
編集部
治療を受けてでも卒業すべきでしょうか?
白柳先生
最近は、夜尿症は治療すべき疾患と考えられています。古い考えのドクターは「放っておけば、いずれ治る」とする方もいらっしゃいます。また、保護者の考え方も、「3歳になっても夜のおむつが取れません」といって心配になり受診される方、12歳で「来週から修学旅行だけど毎日おねしょしているので何とかしてほしい」と受診される方まで様々です。
編集部
難しいですね。先生は、どう対応なされているのですか?
白柳先生
私は、おねしょ治療の目的を、「子供の健やかな成長をサポートすること」に置いています。おねしょをしてしまうお子さんは、おねしょをしないお子さんに比べて自尊心が低い傾向にあります。いつまでもおねしょをしていると、学校生活、友達関係、家庭内の親子関係などにも悪影響を与えます。原因となっている夜尿症を積極的に治療することで、これらの悪影響が減少し、結果として子供達の健やかな成長をサポートすることができます。従って、本人や保護者の方が夜尿症を気にして受診された時には、積極的に治療をお勧めしています。
心がウェットなまま進学させない
編集部
しかし、生活習慣の改善だけで解決を望む声もあるのですよね?
白柳先生
そうした保護者の方に対しては、時間を長く割いて説明しています。お子さんの自尊心を専用の問診票で計ってみると、やはり、おねしょを引きずっているお子さんほど、「自分には価値がないと思ってしまう、物事に対して前向きになれない」といった傾向が強くなります。そして、お薬でおねしょが止まると、ほかのお子さんと同等の自尊心を取り戻していきます。
編集部
おねしょの焦点は「心の問題」であると?
白柳先生
お子さんの成長に関わる領域ですよね。保護者の方が、夜尿を治そうとしてあえてぬれたオムツのままにして、「気持ち悪さが嫌なはずだから、自然に治るのではないか」と期待することがよくありますが、そうすると早く夜尿が治るというような科学的根拠はありません。
編集部
おねしょが止まると、洗濯などの後始末も楽になりますね。
白柳先生
はい。お母さんの家事も軽減できると思います。防水シートを敷くなど、“おねしょを残したまま、家事だけ軽減する方法もありますが、お子さんの健やかな成長をサポートすることを考えると、おねしょをしたまま防水シーツなどで対応し続けることはあまりお勧めできません。お子さんの自尊心に対する問題が、依然、解決されていないからです。「肝心なのは、治したいと思ったら、積極的に治療に取り組む」というのが、私の考えです。
編集部
目安として、いつまでおねしょが残っていたら、医療機関を受診すべきでしょうか?
白柳先生
私は、「小学校に上がっても続いていたら、治療を検討してみてください」とお話しています。本格的な集団生活が始まりますし、心も体も、大きく成長を遂げる時期でもあります。そんな中でのマイナススタートは、避けるべきでしょう。
子どもを機械のようには扱わない
編集部
おねしょの診断って、どうやって付けるのでしょうか?
白柳先生
夜尿症の定義は、「5歳を過ぎて1か月に1回以上の頻度で夜間睡眠中の尿失禁を認めるものが3か月以上つづくもの」とされています。おねしょの相談・治療で受診された方には、必ず「排尿日誌」をお渡して、日々の記録を付けていただきます。具体的には、日中の排尿量や時間の記録、おねしょの量をオムツで計量したり、起床時の尿量をコップで量ったりしてもらっています。その目的は、ぼうこうの容量や夜間尿量の確認になります。
編集部
覚醒障害だとしたら、夜中に一度、起こせばいいのではないでしょうか?
白柳先生
夜中に一度起こして排尿させても「おねしょの解決を早める」という科学的根拠はありません。夜一度起こすことで、寝ている間にお漏らしすることはある程度予防できますが、病気が治っているわけではありません。オムツ代の節約や家事の軽減が目的であれば、その部分は達成されますが、根本原因は解決できません。
編集部
寝る前の水分摂取を控えるなど、自分で工夫できることもありそうです。
白柳先生
ケース・バイ・ケースによりますね。喉が乾いてしまったら、水分を取るのも、仕方のないことだと思います。他方、炭酸飲料片手にゲームをするような生活習慣が身についていたとしたら、早々に改善すべきでしょう。このような極端な行動こそ改めるべきであって、ストイックな水分制限をしても、夜尿は治りません。生活習慣の改善は重要ですが内容に関しては是非医師と相談してください。
編集部
やはり素人考えより、専門の医療機関で相談して解決すべきだということですね。
白柳先生
はい。夜尿症は脳の排尿をつかさどる部分の発達がゆっくりなことが原因ともいえます。脳の排尿をコントロールする部分の発達には個人差があります。排尿機能の発達が「のんびり屋さん」でも、健やかに成長できるよう、お手伝いさせてください。夜尿症の治療の機会を与えることは、子供成長をサポートする大人の役割でもあると考えています。おねしょで悩んでいる方は、ぜひ、専門医療機関にご相談ください。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
白柳先生
今回は「子どものおねしょとメンタルは関係あるか」ということでしたが、因果関係という意味で問われているとしたら、「多くの場合、関係は薄い」が回答です。そうではなく、「おねしょが子どものメンタルに影響するか」ということであれば、「影響大」と言えるのではないでしょうか。
編集部まとめ
どうやら、おねしょに対する考え方を改める必要がありそうです。単に、布団をぬらさないための手法ではなく、子どもの健やかな成長がありきの治療なのでした。そのためには、「排尿日誌」などの手間を、積極的に受けいれていく姿勢が求められます。子どもを健やかに育てるのは、親の務めです。「おねしょをしてしまうだけ」と単純に取り扱わないようにしてください。
医院情報
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アクセス | 西武新宿線花 小金井駅よりバスで5分 西武新宿線 小平駅より徒歩19分 |
診療科目 | 泌尿器科、小児泌尿器科、耳鼻咽喉科、アレルギー科 |