目次 -INDEX-

白衣高血圧
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

プロフィールをもっと見る
京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

白衣高血圧の概要

白衣高血圧とは、医療機関で血圧を測ると高い数値が出るにもかかわらず、自宅など普段の生活環境では血圧が正常範囲にある状態を指します。名前の由来は、医師や看護師が着る「白衣」に対する緊張や不安によって、一時的に血圧が上昇することからきています。診察室での血圧が高いために高血圧と診断されかけたが、家庭での測定では問題がないというような状況が典型です。 一見、無害のように思えるこの状態ですが、近年の研究では、白衣高血圧であっても長期的にみると心血管疾患のリスクが高まる可能性があることが分かってきました。そのため、正確な診断と必要に応じた対応が求められるようになっています。

白衣高血圧の原因

白衣高血圧の根本的な原因は、精神的な緊張や不安によって自律神経が刺激され、交感神経の働きが活発になることにあります。交感神経が優位になると、血管が収縮し、心拍数が上がることで血圧も上昇します。医師の前で緊張したり、「病院での数値が悪かったらどうしよう」といった不安が生まれることで、知らず知らずのうちに身体が反応しているのです。 また、性格傾向も影響します。例えば、几帳面で真面目な性格、あるいは医療行為に対して強い恐怖心や不安を抱きやすい人は、白衣高血圧になりやすいとされます。さらに、高齢者では診察そのものが緊張の対象になりやすく、白衣高血圧の頻度が高い傾向にあります。 一方で、診察を繰り返すうちに徐々に医療環境に慣れ、血圧が下がってくることもあります。これは一過性の緊張によるものであり、毎回高い数値が出るわけではない点も白衣高血圧の特徴の一つです。

白衣高血圧の前兆や初期症状について

白衣高血圧は、日常生活では自覚症状がほとんどありません。なぜなら、自宅や職場など、リラックスした環境では血圧が正常であるため、普段の体調に異常を感じることがないからです。そのため、病気の存在に気づかずに過ごしていることが多いのです。 しかし、病院に行ったときだけ血圧が高いと指摘されることがきっかけで、この状態に気づく場合があります。ある人は「毎回、病院に行くと上が140を超えてしまうけれど、自宅で測ると120台なんです」と訴えます。こうした傾向は、特に初診のときや、健康診断で初めて高血圧を指摘された際によく見られます。 一部の人は、診察前から緊張しすぎて動悸を感じたり、手に汗をかいたりすることがありますが、それらはあくまで精神的な緊張によるものであり、白衣高血圧そのものが症状を引き起こすわけではありません。

白衣高血圧の検査・診断

白衣高血圧かどうかを正しく診断するためには、診察室での血圧測定だけでは不十分です。最も確実な方法は、自宅で定期的に血圧を測定する「家庭血圧」の記録をとることです。自宅では落ち着いた状態で測ることができるため、真の血圧が分かりやすくなります。 もう一つの方法として、「24時間自由行動下血圧測定(ABPM)」という検査があります。これは、携帯型の血圧計を装着して1日中自動的に血圧を記録するもので、日中から夜間までの血圧の変動を知ることができます。ABPMでは、診察室での血圧は高くても、日中の血圧が安定していれば、白衣高血圧と診断する助けになります。 その上で診察室血圧が収縮期血圧140mmHgかつ/または拡張期血圧90mmHg以上で,家庭血圧が収縮期血圧135mmHg未満かつ拡張期血圧85mmHg未満あるいはABPMでの24時間平均血圧が収縮期血圧130mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満である場合,白衣高血圧と定義されます。 診断の際には、白衣高血圧と「持続性高血圧」との区別が重要です。なぜなら、持続性高血圧であれば治療の必要がある一方で、白衣高血圧の場合には必ずしも薬による治療を開始する必要がないからです。ただし、白衣高血圧と診断されても、将来的に本当の高血圧へ進展するケースがあるため、継続的な観察が必要です。

白衣高血圧の治療

白衣高血圧と診断された場合、すぐに薬を使って血圧を下げる治療が行われることはあまりありません。多くの場合、まずは生活習慣の改善や経過観察が基本となります。塩分を控えめにした食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレスの軽減といった基本的な生活改善によって、将来的な血圧上昇を防ぐことが目指されます。 ただし、白衣高血圧といっても、心臓や血管への負担が完全に「ゼロ」ではないと考えられているため、放置してよいわけではありません。特に、動脈硬化や心臓病のリスクが高いと判断された場合には、早い段階から積極的に予防的な管理を行うこともあります。定期的に家庭での血圧を記録し、数か月から1年ごとに医師と相談しながら管理していくことが大切です。 また、生活の中で過度に緊張しやすい方では、リラックス法や呼吸法、あるいは軽い抗不安薬が役立つこともありますが、これは個別の判断が必要です。基本的には、過剰な医療介入を避けつつ、無理のない方法で継続的に管理していく方針がとられます。

白衣高血圧になりやすい人・予防の方法

白衣高血圧は、緊張しやすい人や、医療機関に対して不安感を抱きやすい人に起こりやすい傾向があります。また、高齢者や、過去に「高血圧」と言われた経験のある人では、医師の前での血圧測定に対して心理的なプレッシャーを感じやすいため、この状態になりやすいとされています。 予防という意味では、まず家庭で定期的に血圧を測定する習慣をつけることが重要です。毎日の血圧の変化に自分で気づくことで、診察室での数値との違いに納得しやすくなります。また、診察を受ける前にゆっくり深呼吸をする、体を温めてリラックスするなど、緊張を和らげる工夫も効果的です。 さらに、血圧測定の際に不安を感じたことがある場合は、そのことを医師に率直に伝えることも大切です。医師もそれを理解したうえで、家庭での血圧や長期的な経過を踏まえて判断するため、不必要な治療を避けられることになります。 白衣高血圧は、決して「仮の病気」や「気にしなくてよいこと」ではありません。自覚がないまま本格的な高血圧へ進展していく場合もあるため、自分自身の血圧に関心をもち、家庭での測定を継続することが、最良の予防となります。

関連する病気

この記事の監修医師