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高山病
久高 将太

監修医師
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)

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琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。

高山病の概要

高山病は、酸素の量が少ない標高2000m以上(高齢者は1500m)の高所で身体が環境の変化に適応できず、頭痛や嘔吐、倦怠感といった症状が生じる病気のことです。

重症度によっては高地肺水腫や高地脳浮腫を引き起こすことがあります。

高山病になりやすいのは標高2500mを超えてからだといわれています。しかし高山病の発症は、体調や年齢などによって個人差があるため、標高2500m未満でも注意しておく必要があります。

高地滞在の経験の有無にかかわらず、発症する可能性があるため、十分な計画と対策が必要です。高山病の疑いがある場合は速やかに下山することが重要です。
高山病

高山病の原因

高山病の原因は、高所の「気圧の低下」と「低酸素状態」に身体が適応できていないことです。

高所になればなるほど酸素分圧(大気中に含まれる酸素の圧力)は下がっていきます。標高3000m程度で、平地の酸素分圧と比べて3分の2ほどまで下がります。
出典:一般社団法人 日本登山医学会「急性高山病」

酸素分圧が下がるほど、呼吸で体内に取り入れられる酸素の量が減っていくため、体内は低酸素状態となり、頭痛や倦怠感などの症状が生じるようになります。

高山病の発症に個人差があるのは、呼吸機能や環境への適応力に違いがあるためです。

高山病の前兆や初期症状について

高山病は「山酔い」「高地肺水腫」「高地脳浮腫」の3段階に重症度が分けられています。

標高2000m以上の高所で、食欲低下や嘔吐、疲労感や倦怠感、立ち眩みやめまい、息苦しさや睡眠障害のうちいずれか1つでも該当すれば、山酔いの段階だと判断します。山酔いの段階から命の危険は伴うため、早めに下山して症状の改善に努める必要があります。

より重篤な場合は、高地脳浮腫や高地肺水腫を生じることがあります。高地肺水腫は、肺に水が溜まる病気です。初期症状としては、乾いた咳や動作時の息切れが見られます。中程度になると安静時でも息切れを起こすようになり、チアノーゼも見られます。さらに悪化すると、血痰や呼吸困難が起こるようになります。

高地脳浮腫は、脳に浮腫が生じることで脳を圧迫し、死に至ることもある病気です。高地脳浮腫は錯乱や運動失調が起こり、早い段階で適切な対処を行わなかった場合、昏睡状態に陥ります。

高山病の評価基準として「レイクルイーズスコア(高山病の経過判定表)」があり、現場での高山病かどうかを見極める判断材料になります。

下記の「本人評価」で合計点数が3点以上の場合、高山病が疑われ、登山の継続は危険だと判断します。そのうえで高地に滞在している間は「他者評価」を毎日チェックし点数が増えている場合は危険度が増していると判断できます。

「本人評価」

頭痛 0…まったく無い
1…軽度
2…中程度
3…激しい頭痛
胃腸症状 0…食欲良好
1…食欲がない
2…非常に嘔気がある、嘔吐
3…耐えられない嘔気と嘔吐
疲労・脱力 0…まったく無い
1…少し感じる
2…非常に感じる
3…耐えられないほど感じる
めまい・ふらつき 0…まったく無い
1…少し感じる
2…非常に感じる
3…耐えられないほど感じる

「他者評価」

精神状態 0…正常
1…ぼやっとしている、疲れている
2…場所や時間が分からない
3…ほとんど反応がない
運動失調 0…正常
1…両手を広げて歩ける
2…まっすぐ歩けない
3…転ぶ
4…立ち上がれない
浮腫 0…なし
1…1カ所
2…2カ所

参考:National Library of Medicine「The 2018 Lake Louise Acute Mountain Sickness Score」を基に作成

高山病の検査・診断

高山病は、発症の状況と症状で診断されます。高所に数時間~数日間滞在し、先に挙げた典型的な症状(頭痛、嘔吐、食欲の低下、倦怠感、めまいやふらつきなど)が見られた場合は高山病が疑われます。 

下痢や運動麻痺など、高山病の典型的症状に該当しない場合は、他の病気を視野に入れて検査・診断する必要があります。

高地肺水腫の場合は、聴診器を肺の部分にあてると「ぶつぶつ」という水泡音が聴かれます。診断を確定するために、胸部X線検査や血中酸素の測定を行う場合があります。

高山病の治療

登山中に高山病の疑いがある場合は、速やかな下山が必要不可欠です。下山の際にも、一人では下山せず誰かに付き添ってもらいます。できるだけ低地に移動し、身体が楽になるまで安静および酸素の投与を行ってください。

薬物療法として「アセタゾラミド」の服用が有効です。アセタゾラミドは治療薬としてのみならず、予防薬としても使用されます。
脳の血管を拡張して脳血流を増加する作用があり、高山病で生じる脳の低酸素状態の改善が期待できます。利尿作用もあるため、高地肺水腫や高地脳浮腫に対しても効果が期待できます。また、血液のPHが下がり、呼吸中枢を刺激することで呼吸数も増加します。

薬剤は他にも、山酔いや高地脳浮腫に効果が期待できるデキサメタゾンがあります。高山病による症状の改善は期待できますが、アセタゾラミドのように環境に適応するような効果は期待できません。

高山病になりやすい人・予防の方法

高齢者や小さな子どもは高山病の発症リスクが高まります。高齢者は、加齢によって各器官の機能が低下していること、小さな子どもは各器官が発達しきれていないため、環境に適応しにくいことで高山病を発症しやすくなります。

高山病の発症を防ぐためにも、高齢者や小さな子どもは高所に行かないことが望ましいです。もし高所に行く場合は、高山病を考慮した十分な計画に加え、体調を悪化させない予防策の実施が必要です。

具体策としては、標高3000m以上になったら上げる高度を1日300m未満に抑える、高所では水分が失われやすいため水分補給を十分行う、高所に行く3日前まで予防薬(アセタゾラミド)を服用する、事前に健康診断を受けて体調に問題がないかを確認しておく、高所ではアルコールや睡眠薬などの服用は避けるといったことが挙げられます。

低気圧と低酸素状態の環境に適応できていないことが高山病発症の一つの原因のため、必ず高度はゆっくり上げていくようにしてください。

また、低気圧や低酸素状態で起こるのが高山病のため、トレーニングによって高山病になりにくくなることはないと念頭に置いておいてください。そのうえで、前述の予防策を実行し、高山病が生じた場合は迅速に対処することが大切です。


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