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大腿骨骨折
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

大腿骨骨折の概要

大腿骨骨折は、人体で最も長く強い骨である大腿骨が折れる疾患で、高齢者が主ですが、若年者でも発生し得ます

大腿骨は、股関節から膝関節までを構成する骨で、その長さは約40cmになり、体重を支える・歩く際など、さまざまな場面で重要な役割を果たします。そのため、大腿骨骨折を発症すると、日常生活に大きな支障をきたします。

そんな大腿骨骨折は、発生部位によって下記のように分類されます。

  • 大腿骨頸部骨折
    股関節の内側にある頸部と呼ばれる部分が骨折することです。大腿骨頚部骨折の場合は、血流が乏しく、くっつきにくいため手術を必要とする場面が多くみられます。

  • 大腿骨転子部骨折
    大腿骨頸部骨折より、股関節の外側部分が骨折することです。大腿骨転子部骨折は、血流は問題なく、骨がくっつきやすいものの、骨折すると動くこともできないくらい強い痛みを感じるのが多い傾向です。

  • 大腿骨骨幹部骨折
    大腿骨の真ん中の部分の骨折のことです。大腿骨骨幹部骨折は、交通事故などの強い衝撃で骨折することが多いですが、高齢者や若年層では転倒・転落などで受傷する場合もあります。

大腿骨骨折の原因

大腿骨骨折を受傷する主な原因は下記です。

  • 転倒
    大腿骨骨折の原因として最も多いのは転倒です。高齢者になると、足の筋肉の低下や、活動量が少なくなるなどが理由で、歩行が不安定になってしまいます。実際、70歳を超えた年齢になると大腿骨骨折を受傷する確率が高くなります。
    また、転倒以外でも交通事故などのように、外部から大きな力が加わることで受傷する場合もあります。

  • 骨粗しょう症
    転倒以外の理由として、骨粗しょう症も挙げられます。高齢者になると、骨粗しょう症で骨がもろくなっている場合があり、その場合は軽い衝撃でも骨折してしまうこともあります。骨がかなり弱くなっている場合は、介護者が少し動かしておむつ交換をしただけでも骨折することがあるくらいです。

大腿骨骨折の前兆や初期症状について

大腿骨骨折は、転倒などが原因で突発的に発生するため、一般的には明確な前兆が現れることはありません。

一方、大腿骨骨折を起こした場合、下記のような初期症状がみられます。

  • 激しい痛み
    脚の付け根部分に突然強い痛みを感じます。この痛みは動かすことによって、より強くなります。
  • 変形
    大腿骨骨折を発症すると、大腿の形状が変わる場合があります。具体的には、脚が短くなったり、外側や内側に曲がったりする場合があります。
  • 腫れや皮膚の変色
    内出血や組織の損傷によって、骨折した部分周辺に腫れが生じたり、内出血により青紫色に変化する場合があります。

上記のような症状がみられるため、基本的に大腿骨骨折を生じると、ほとんどの場合、立つことや、歩くことができなくなります。これらの症状がみられた場合はすぐに整形外科を受診しましょう。

大腿骨骨折の検査・診断

大腿骨骨折は、主に下記のような内容を総合的に判断して診断します。

問診

医師が患者さんに対して、どのような状況で症状が発生したのか、過去の骨折歴、基礎疾患の有無などの詳細な情報から骨折の原因を特定し、適切な治療方針を立てます。

身体診察

大腿部の腫れ、変形、皮下出血などの視診と、触診を行い痛みの部位や程度を評価します。ただし、骨折が疑われる場合は、過度な触診を行うと強い痛みが生じるだけでなく、さらなる損傷を引き起こす可能性があるため、細心の注意を行って評価します。

画像診断

一般的には下記のような画像診断を行います。

  • X線検査
    大腿骨骨折を疑った際に行われる最も基本的な検査です。X線検査は、正面画像と側面画像の2方向からの撮影が行われ、骨折の有無、骨の位置や型、そして骨片の転位の程度を評価します。

  • CT(コンピュータ断層撮影)検査
    X線では判断するのが難しい、困難な骨折や骨折の詳細な状況を把握するのに有用です。また、CTで撮影することによって、骨折の三次元的な構造を理解することができるため、手術計画を立てる際に重要な情報を提供します。

  • MRI(磁気共鳴画像)検査
    大腿骨骨折の診断だけでは、あまり使用されませんが、骨折に伴う靭帯損傷など、軟部組織の損傷や骨髄の状態を評価するのに有効です。

これらの検査結果から、大腿骨骨折の診断を行うとともに、骨折のタイプや重症度も評価します。

また、高齢者の場合は、骨粗しょう症の程度を評価するために、骨密度検査を合わせて行う場合もあります。

大腿骨骨折の治療

大腿骨骨折の治療は、骨折の部位、程度、患者さんの年齢や全身の状態などによって決定しますが、治療の主な目的は、骨折部位を適切に固定し、早期の機能回復と痛みの軽減を図ることです。

そのため、大腿骨骨折に対して、保存療法と手術療法がありますが、多くの場合手術療法を選択します。

手術療法

大腿骨骨折に対する主な手術方法には下記の方法があります。

  • 髄内釘固定術
    大腿骨の髄腔内に金属製の釘を挿入して骨折部を固定する方法で、大腿骨骨幹部骨折や、大腿骨転子部骨折の場合に行います。

    なお、γ(ガンマ)ネイルという髄内釘(ずいないてい)を挿入して固定する手術が一般的で、手術するための皮膚切開も約5cm程度が1ヵ所、2〜3cm程度が2ヵ所と小さな切開で手術が可能なのが特徴です。

  • 骨接合術
    骨折部に大きなズレがなければ、CCHS(キャニュレイテッド・キャンセラス・ヒップ・スクリュー)というピンなどを用いて骨折部を固定する方法を行います。

  • 人工骨頭置換術
    大腿骨骨折を発症して、骨のズレが生じている場合は、大腿骨のつけ根部分だけを変える人工骨頭置換術を行います。人工骨頭置換術は早期での荷重が可能になるため、高齢者に対してよく行われます。

  • 人工股関節全置換術
    大腿骨骨折により、大腿骨頸部骨折が股関節の血液供給を妨げる可能性が高い場合などは、股関節全体を人工関節に変える人工股関節全置換術を行います。

リハビリテーション

手術後は、早期からのリハビリテーションを実施します。専門職の理学療法士が中心となり、関節可動域訓練や筋力強化訓練、歩行訓練などを行い、筋力低下や関節拘縮を予防し、早期の日常生活への復帰を目指します。

大腿骨骨折になりやすい人・予防の方法

大腿骨骨折は誰にでも起こる可能性がありますが、特定の要因によってそのリスクが高まります。

特に下記の内容に該当する場合は、大腿骨骨折になりやすい傾向なため注意が必要です。

  • 高齢者
    高齢者でも特に75歳以上になると、骨密度が低下するだけでなく、筋力の衰え、バランス感覚の低下などによって転倒してしまうリスクが高まります。
  • 骨粗しょう症
    骨粗しょう症の場合は、骨密度が低下しているため、骨がもろくなり骨折しやすくなります。特に閉経後の女性は骨粗しょう症のリスクが高くなるため注意が必要です。
  • 過去に骨折の既往がある
    一度骨折を経験した人は、再度骨折するリスクが高い傾向です。
  • ステロイドの長期使用者
    ステロイドを長期使用すると、骨密度が低下するため、骨折のリスクが高くなります。
  • 喫煙者やアルコール多飲者
    これらが習慣化されている場合は、骨に悪影響を与えるため、骨折のリスクが高くなります。
  • 栄養不足
    カルシウムビタミンDの不足は骨の健康に悪影響を与えます。
  • 運動不足
    特に高齢者が運動不足になると、筋力が低下して転倒する危険性が高くなります。

先程もお伝えしたように、大腿骨骨折は基本的に前兆はありません。しかし、普段から、カルシウム・ビタミンDを中心とした適切な栄養摂取や、ウォーキング・ジョギングなどの適度な運動を普段から行うことで大腿骨骨折を予防することが可能なため、普段の生活から意識しましょう。

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