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松繁 治

監修医師
松繁 治(医師)

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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

腱鞘炎の概要

腱鞘炎は、手指を過剰に酷使したために痛みが生じる状態を指します。指の曲げ伸ばしがうまくできず、ときには日常動作に支障が出る疾患です。
そもそも腱鞘は両手指の内側、骨に沿って点在していて細い屈筋腱を支える役割を担っています。例えるなら、糸やテグスにビーズが通っている状態がわかりやすいでしょう。糸が屈筋腱で、ビーズが腱鞘です。健康な状態であれば、指を動かすと同時に屈筋腱がスムーズに動きます。動かしすぎると屈筋腱と腱鞘に摩擦が生じて、腱鞘に厚みが出る程腫れあがり痛みが生じる流れです。
腱鞘炎の原因は複数あり、指や手首の痛み・細菌やウィルスの感染・アキレス腱の疾患などが含まれます。治療は基本的に患部を動かさずに安静にすることですが、重症化した場合や安静にしても改善されない場合は手術を行うことがあります。腱の動きをより早く回復させるには、適切な診断や経過観察が大切です。
なお日頃から手指に負担がかからないように、重いものや道具の持ち方を意識することが腱鞘炎の予防に効果があります。

腱鞘炎の原因

何らかの要因で腱鞘部分が腫れて、同時に厚みが生じることが原因です。腱鞘に厚みが出ると、なかを行き来して動く屈筋腱が締め付けられます。屈筋腱は腫れた腱鞘を通過しようとして摩擦や痛みが生じている状態です。小さな穴のビーズに太さのある毛糸を通してもスムーズに動かしにくい現象と似ています。腱鞘炎は妊娠・出産を経て更年期を経験する女性に多いとされているものの、生活環境次第で男女差関係なく発症しうる点に注意しましょう。

腱鞘炎の主な要因は以下のとおりです。

ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)

短母指伸筋腱・長母指外転筋腱のいずれか、あるいはこれらの腱をつなぐ腱鞘に痛みが生じている場合です。短母指伸筋腱は親指(特に第2関節)を伸ばすための腱で、長母指外転筋腱は親指を広げるために必要な腱を指します。
いずれも親指から手首に沿ってつながっていて、腱鞘や腱・手首に炎症が起こっている状態です。

ばね指(弾発指)

指の曲げ伸ばしに大きく関わる靱帯性腱鞘や屈筋腱に炎症が生じている場合です。靱帯性腱鞘は手のひら側・指の内側に沿うように通っていて、炎症によって指の付け根に力が加わります。指の関節を無理に曲げようとすると、文字どおりバネが弾けるかのような動きになり思うように動かせません。症状が進行するとひきつったような状態にもなります。

化膿性腱鞘炎

指の怪我や注射・手術により細菌が入り込み、腱に炎症が起きた場合です。感染する原因で多いのは黄色ブドウ球菌で、ほかにも連鎖球菌・肺炎球菌・MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などが該当します。

アキレス腱炎

足首の後ろ側に位置するアキレス腱で痛みが生じる状態です。腱鞘炎は主に手指の痛みを指すケースが多いですが、足に痛みが生じた場合でアキレス腱付近に痛み・炎症が起きた場合に該当します。

その他の要因

上記に当てはまらない場合でも、別の病気や疾患に起因して腱鞘炎が発症するケースも確認されています。特に糖尿病の患者さんの場合・透析治療を受けている場合などが該当するので、激しい動きは控えて可能な限り安静に過ごしましょう。病気がなく健康であっても、高齢者や妊婦などの身体に負荷がかかりやすい人が腱鞘炎になるケースもあります。

腱鞘炎の前兆や初期症状について

腱鞘炎は関節への負担が大きな原因のひとつです。最初は痛みよりも関節に違和感があり、動かすときに引っかかりを感じることがあるでしょう。

放置すると、動かしたり触れたりしたときに強い痛みが生じ、指が不自然に曲がって動かしにくくなります。ときには腱鞘炎由来で患部に熱が生じる場合もあるので注意が必要です。

これらの症状が確認された場合は、整形外科で診断を受けましょう。重症化を少しでも抑えるためにも、早めに専門の医師に診てもらってください。

腱鞘炎の検査・診断

腱鞘炎の検査および診断はレントゲンでは判別できません。視診と触診で判断するケースが一般的ですが、必要に応じて超音波検査を行うなど整形外科の観点からのチェックを行います。

ご自身で簡易的に腱鞘炎を発症しているか診断したい場合は、アイヒホッフテストフィンケルシュタインテストを行うと簡易的に判断できます。どちらとも、主にドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)の判断に有効です。

アイヒホッフテストでは、違和感や痛みがある側の手を動かします。親指を握りこみ拳を固めた状態で小指側に向けて、真横に拳を傾けます。このときに親指側の手首や親指の付け根に痛みがあればドケルバン病の可能性が高いです。

フィンケルシュタインテストは壁や机に違和感や痛みがある側の手を固定した状態から、親指を曲げます。このとき、空いている反対の手を使いましょう。こちらも、親指側の手首や親指の付け根に痛みがあればドケルバン病の可能性があります。

いずれも、あくまで自分で症状の程度を確認するための手段のひとつです。セルフチェック中に痛みを感じたらすぐに中断して専門の医師からの指示を仰ぎましょう。

腱鞘炎の治療

患部を無理に動かさずに安静にするのが大原則です。疾患が出た場所によってはサポーターを着用して、患部を固定する場合もあります。

その他の有効な治療方法は以下のとおりです。

患部を冷やす・もしくは温める

短期間で発症した腱鞘炎は氷で冷やすと、患部にこもった熱を下げられます。氷は直接皮膚に触れさせると凍傷になってしまうため、タオルなどに包んでから患部に当てましょう。ただし、慢性的な痛みがある場合は温めて血行をよくした方が痛みを軽減しやすくなります。

投薬・腱鞘へのステロイド注射

痛みが続いたり日常生活に著しく支障をきたしたりする場合は、状況に応じて投薬やステロイド注射を行います。抗炎症作用のある薬を内服で飲み続けるほか、腱鞘内にステロイド 薬を注射するのも有効です。

腱鞘の切開手術

注射や投薬治療を行っても改善されずに重症化している場合は腱鞘切開の手術を行い、鞘を腱がスムーズに通過できるようにします。ただしこの方法だと周辺の筋肉や靱帯と癒着する場合があり、手術には一定のリスクが伴います。

ただし腱を保護している腱鞘を切開するため、締め付ける力が緩くなって再発しづらいというメリットもあります。手術の可否や治療方針は症状によって異なるため、不安や心配な点があれば専門の医師から説明を聞いて判断を仰ぎましょう。

腱鞘炎になりやすい人・予防の方法

先述したとおり、かつて腱鞘炎は女性が発症しやすい疾患とされていました。妊娠や出産は女性にしか経験ができないため、現在でも間違いとはいいきれません。ただし現代は時代の流れとともに、老若男女問わず誰もが腱鞘炎にかかりやすい環境に近づきつつあります。

腱鞘炎になりやすい主な要因として挙げられるのは、以下のとおりです。

  • PCのマウス・キーボードなどを長時間操作している
  • スマートフォンを長時間利用している・片手で持ち続けることが多い
  • 子育て中である(特に新生児などで抱っこの機会が多い場合)
  • 定期的に楽器演奏をしている(ピアノ・ギターなど)
  • 定期的にスポーツをしている(野球・テニス・ゴルフなど)

電子機器やスマートフォンの普及が進んでいるほか、男女平等に子育てに関わる考えが一般化しているため手指を酷使しやすい環境といえます。また、楽器やスポーツの道具を扱うことで手指に負担がかかりやすくなっているケースも珍しくありません。特にスマートフォンは片手で持ち続けると本体の重みで知らず知らずのうちに手指に負担がかかってしまう点に注意が必要です。定期的に持つ手を変える・両手で持つなどで必要以上の力がかからないように意識しましょう。

腱鞘炎を防ぐためには定期的に休憩を挟み、上記の作業や行動を連続で行わないことが大切です。腕や肩回り・脇などのストレッチも有効ですし、机に手を置いて指を反らすように持ち上げ、伸ばすと手の疲れが解れやすくなります。親指は机から手を離してから伸ばすと筋を痛めにくいです。


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